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だけど、弱い II
ミルク🍼💚
そう、私の…………
“好きな人” だった。
「愛彩?大丈夫?ぼうっとしてるよ?」
「あ、うん、ごめん…」
まさか、と、私は信じたくなかった。いつも見るだけで私の1日の力となっていたあの人が、大好きな友達の好きな人だったなんて、思いもしなかった。
「そう言えば愛彩、紅茶ラテ、出来た?」
「あ、ごめん、出来てない。すぐ作るね。」
「うん!ありがとう。」
そう言って笑顔で次に来たお客さんの接客に戻る奈帆の姿を見ると私は苦しくなった。一応、紅茶ラテを完成させて顔を見ないままそれを渡した。
「お待ちしました…紅茶ラテです。」
「葉堀さんどうも。今日もありがとう。」
「あ、はい…」
けれど私はその温かい優しい声に包まれてしまった。その、包むような優しい話し声に私はどんどん飲み込まれていく。そんなことを感じてしまう自分が今はとてつもなく焦りを感じていた。奈帆が傷ついてしまうかもしれないから。それで、失望されるのが怖いから。そう思い、奈帆の方を見るが、接客に集中していてこちらには気付いていないようで安心した。
「あれ、これ…シロップ、入ってる?」
そう言われてハッとした。ぼんやりと作ってしまったせいでシロップを入れ忘れるなんて。
「あ、申し訳ございません、っ!もう一度作り直します!」
そう言ってコーヒーのカップを取ろうとすると彼はそのカップを上に上げた。
「そんな焦らなくてもいいよ。それにこれは結構気に入った。もう一度頼んじゃうかも。」
そう言って彼は無邪気に笑った。そんな顔がやっぱり可愛い。けれど、そう思ってはいけない。そう思うと、好きでなくなる事ができなくなる。もっと好きになる。そんなことになってはもう取り返しはつかない。話していることが奈帆にバレる前に帰ってもらわないと。
「すみません、私少しやることあるので失礼します。」
「あ、うん…。頑張って!」
そう言われ私が振り向きぺこりと頭を下げるとまだ微笑んで彼は帰って行った。
「はぁー、かっこよかった…」
「…そっか。」
休憩時間、お弁当の広げられた机に頬杖をついて何処か遠くを見ているかのように儚い顔で頬を紅くしている奈帆。
「愛彩、知ってたの?あの人の事。」
「あぁ…たまたま、前私がシフトの時に来てたお客さんだったからびっくりして、」
上手く笑えていたか分からないけれど、適当にそれっぽい嘘をつく。
「そうだったんだ。じゃあ初めて見るわけじゃないんだね。」
「まぁ、そうだね」
少し沈黙が続いて変な雰囲気が漂う。
「私、本気で好きだから…応援してくれるでしょ?」
「…うん。奈帆可愛いからすぐに付き合えちゃうね…?」
応援したいという気持ちはあるものの、そうとは言えずに奈帆はすぐ付き合えると本当に思ったから、それだけ伝えた。こんな時にも嘘がつかない私に、自分が飽き飽きする。それに、奈帆も少し、嫌な雰囲気を感じているのだろう。だから、こうやって、遠回しに伝えたんだと思う。
「そろそろ行こうか。もうすぐ一時だから。」
そう言って、話を強制的に終わらせ、仕事に戻った。
「愛彩、ありがとう。」
「…うん。」
私に感謝される筋合いは全くないし、大好きな人の恋愛も応援できないくらい弱い私は、どうしようもなく、憎くて仕方がない。奈帆に「当たり前!もちろん応援するよ!」と元気で声をかけてあげたい気持ちはあるけれど、口にできず、目の前の奈帆を見て、ただひたすらに自分が苦しむだけだった。