公開中
耳順の空手道③
ハイリスクレッド
耳順の空手道 ❨ じじゅんのからてみち ❩
Episode 審査会
☆
戦わない空手、闘う空手道
☆
60歳から始めよう、戦わない空手、闘う空手道。
60 or older Club
❨ シックスティ・オア・オールダー・クラブ ❩
※
耳順(じじゅん)
六十而耳順・論語
六十にして耳順い、六十歳にもなれば何を聞いても表、裏や真相、本質が自然に理解できるようになると言う。
☆
晴沢 秋桜 (ハルサワ トキオ) 当年62歳。
現在、信州の美ヶ原高原の里の辺りに暮らしています。
この地にやって来てそろそろ2年くらいが経とうとしています。
ただいま、無色(無職)透明、所属も役職も競り合いもしがらみも無しの日々を過ごしています。
やることは、美味い野菜を食うためと良く寝るための日々の散歩と公園道場での健康空手道であります。(週2回は正式道場で少々)
☆
60 or older Club
❨ シックスティ・オア・オールダー・クラブ ❩のメンバーとしてもそろそろ1年くらいになります。
それに加えて正式道場で空手着を着ているおかげかさらに野菜の美味さが増してきている。
やはり空手着で帯を絞めると一段と気が身が引き締まります。正式道場でお世話になっている師範に若先生と直子さんを始めとする成人の部の皆さんとの交流のおかげです。
そんなある日、公園道場練習を終え皆さんそれぞれに労いの言葉を掛けながら家路へとつき始めた頃、由紀子さんからお声が掛かりました。
玄木 由紀子(クロキ ユキコ)さん、66歳になり立てのホヤホヤ。
最近は一段とはつらつと背筋もシャンと胸を張り髪色も艷やかで優しい笑顔が増してきている。
もちろん皆さんもそうなのです、正式道場での演武会での演武の成功が自信となっているのかなと思います。
特に団体形演武成功の為に互いが互いを思い合い志をひとつにした事で心を強くしたと思います。
いわゆる、『 One for all All for one 』
「みんなは1人のために、みんなは1つの目的のために」と言う事。
由紀子さん
あの、相談と言うかご意見を伺いたくて、お話しを聞いていただけますか?
私
もちろんですよ私なんかで良ければどうぞ遠慮なくです
由紀子さん
秋桜さんは、あの日の演武会以来は空手着を着られていますの?
私
あぁ、着てますね、正式道場で若先生と練習をさせていただいていますから
由紀子さん
そうなんですね、かっこよかったです、空手着に黒帯を絞めてる秋桜さんの姿が、ますますココ、胸の中が熱くなっちゃて
と言いながらさらに前へ胸を突き出して見せてくる
由紀子さん
でね実は、何だかワタシも空手着を着てみたくなって、でも公園練習だと皆さんからは浮いちゃうかななんて…
私
あぁ、先ずは、ありがとうございます。でも、わかりますよその気持ちね ウンウンと頷く
由紀子さん
それとね、帯、色の着いた帯を絞めてみいなぁ〜って思いもあってね、演武会の時に小さな女の子も大人の女性の方達もそれぞれに色の着いた帯を絞めてて素敵だなって
私
なるほど、わかりますね、いわゆるあるあるですから、良いんじゃないですか、審査会に参加してみれば
由紀子さん
あら、あるあるなんですか?
でも、正式道場に会員登録して通わないといけないでしょ?
私
ん〜、由紀子さんは公園道場練習はどれくらいの期間やってこられましたか?
由紀子さん
えぇっと、そろそろ2年くらいになりますかね
私
なるほど、それなら正式道場での練習は週1で良いんじゃないですか、私のみた限りの感じではね
由紀子さん
ほんとに?いろんな色の帯がありましたけど…何色になれそう?
私
それは…道場や流派の昇級審査会のシステムによって違いますけど、たいていは、黄色、頑張って、紫色?ですかね?高校生や若手バリバリなら緑色も可能ですけど…
※
9級8級で、黄色
7級6級で、紫色
5級4級で、緑色
3級2級1級で、茶色、がポピュラーな設定とされている。
その他とすれば、もっと細かく各級ごとに、オレンジ色とか青色とかピンク色なんかもある様です。
※
由紀子さん
まぁ、黒帯なんて…夢ですね… とやや意気消沈
私
単に言えば、3年、普通に審査会をかさねていけばね
由紀子さん
まだまだ長いわね…一応ね、参考なんだけど秋桜さんも始めた時は、黄色紫色からでしたの?
私
あ、あぁ…いや、まぁ高校生の時の古い話ですから参考にはならないですよ
由紀子さん
え〜じゃあ、緑色だったの?
私
あはは…いや、茶色でしたね…一発で
由紀子さん
え〜あらま〜凄いんですね~ と両手を握り合わせて見つめてくる
私
まぁまぁそれは置いときましょ、次回、若先生に由紀子さんの事をお話ししてみますから、続きはそれからって事で
由紀子さん
はい、わかりました、よろしくお願いします
私
では、今日もお疲れ様でした。家路、お気をつけてくださいね
そんな訳で、次の練習から公園道場と週1の正式道場通いで、由紀子さん色帯への道がスタートしたのです。
☆
真っ白な空手着に白色の帯が初々しくもシャンとした立ち姿の由紀子さん。
先ずは、移動の基本から。
移動突き、前屈立ちで、順突き、逆突き、に蹴りを入れて、蹴って、突いて、上段上げ受けて突いて、中段外受けて突いて、内受けて突いて、下段払い受けて突いて、手刀受けを前に進む、後ろに進む。
形は、基本形、第1の形と第2の形。
基本の約束組手を、3パターン。
以上の繰り返し、なんと言っても正確に精度を高く気を込めて気合を込めて。
繰り返し繰り返し繰り返しのみである。
ほんの少しだけ厳しめにアドバイスしながら由紀子さんの練習にお付き合いする。
由紀子さんも健気に素直にアドバイスに応えてくる。
私の気持ちとしては、なんとか1回目の受審で紫色の帯を絞めさせてあげたい。
正確に精度が上がれば、ステップアップしてスムーズにスピーディーにをプラスしてゆく。
正確さ精度の高さをスムーズにスピーディーにこなせれば力強さをプラスしてゆく。
リラックスの中の力強さを、緩急で表す。
☆
こうして、3ヶ月程が経ち審査会の日を迎えた。
第一関門は、雰囲気に呑まれない事、普段日頃とは異なる場所で、普段顔を合わせた事も無い受審者同士に審査委員の先生方々、受審メニューを進行する係員の人々からの号令の若干の違いに戸惑うこともある。
私の経験上で言えば、不思議なもので年齢が上がるほどに戸惑いが起こるのである。
審査会会場には応援?というか仲間の頑張りを見届け様と多くの人たちもいる。
ご多分に漏れず私の隣には、公園道場リーダー役の善治郎さんと最高齢の小百合さんが由紀子さんの頑張りを見届けにやって来ている。
早々に号令が掛かり受審者達と審査委員が整列し、お互いに礼をして審査会の開会となった。
進行順番は初めての受審者から上級者へと行われる。
由紀子さんの名前が4番目に呼ばれる、今回の初めての受審者は4人の様だった。
由紀子さんの全身からド緊張が伝わってくるが何ともして挙げられないのが歯がゆい。
それでも無難に移動の基本メニューをこなしていき自分の順番を終える。しばらくは上級者達の移動の基本が終るまでひと休みできる。
しかし、思った以上に由紀子さんの息が上がっていた。心配になった私は審査進行に妨げにならない様にその場から移動して由紀子さんに声を掛けた。
私の声に何とか気づいた由紀子さんにミネラルウォーターを手渡す、今さら何を言っても仕方無いのでただ由紀子さんの瞳を見つめ気持ちの切り替えを促し頷き合い、ミネラルウォーターを受け取り静かに元の位置、善治郎さんの隣まで戻った。
審査会は着々と進行され、基本の形をふたつ、基本の約束組手となった。
約束組手は同じ受審者同士前後で行なわれる、日頃とは異なる相手と直前の簡単な打ち合わせで呼気と間を合わせる事が必要となる。
由紀子さん、緊張と相手の勢いにやや押され気味となるも、はっきりと声を出し気合を表し何とかやり遂げた。
全体的にも難もなく上級者達まで終わり審査会閉会のお互いに礼をで散開となった。
審査会会場の出入り口で、私と小百合さんと善治郎さんとで、由紀子さんを待つ。
しばらくして、ほっとしたっと言う表情の由紀子さんが現れる。
私たち三人で声を揃えて「お疲れ様〜でした」で由紀子さんを迎える。
「ありがとうございました〜」言いながら深々と私たち三人に由紀子さんが頭を下げる。
私
で、どうしますか?これから?
小百合さん
ねぇ、結果はいつわかるの?
私
早いのが良ければこのまま審査委員の先生方々の出待ちして直接聞くですね~
善治郎さん
ほぉ~そんなに早くわかるの?
私
はい、面倒なのは後の免状登録で、それは先生方の作業ですから、由紀子さんどうしますか?
由紀子さん
ワタシは…待ちたいです、出待ちしたいですけど、皆さんは無理の無いようにしてください
私
わかりました、それもあるあるですから出待ちに付き合いますよ
小百合さん、善治郎さん
それならワシらぁは帰りますか?由紀子さん明日にはご報告を公園道場でお願いしますわ
はい、わざわざ、ありがとうございました。とさらに深々と頭を下げる由紀子さん。
小百合さんと善治郎さんを見送り、自販機で私はコーヒーペットボトルを、由紀子さんはほうじ茶ペットボトルを購入して二人肩を並べて出待ちした。
☆
二人で簡単なお祝いに帰りの道すがらのファミリーレストランに立ち寄る。
ジンジャエールを注いだグラスを小さく掲げて優しく当て合う、ティン〜んと。
私
由紀子さんよく頑張りました、見事に紫色の帯ですよ今からね、若先生に帯をお願いしときましょう。
由紀子さん
ありがとうございました、秋桜さんが辛抱強くアドバイスしてくださったからです。
私
いえいえ私は何もしていません、全て由紀子さんの努力、諦めない気持ちがチカラになったからでした。
※
闘う空手道として積み上げ身につけた努力は報われる。継続は力なり!
※
由紀子さんの成長はまだまだ始まったばかり。私も可能な限り見守ってあげたいと思います。
さぁ明日、公園道場で、60 or older Clubの皆さんに報告に参りましょう。
ね、由紀子さん。
終。
※
そもそも武術には段位などという設定は無かったのです。当然、級の設定などは思いも付いていなかった。各流派の道場へ通い修練した年数と流派の継承の心技体を得たとされた者が師範より免状授与をされる、可か否かとされていた。免状授与は現で言えば、弐段くらいである。
後に武術が武道となり体育教育の代表的な柔道が世間一般に広まった、広まると道場の練習生が溢れる。
免状授与されたとはいえ端から見ても違いがわからない、とりあえず道場の壁に名札を提げた。師範〇〇、師範代〇〇、免状者〇〇、門下生〇〇と、しかし名前と御人とが一致しないとなった。
そこで、免状授与者以上は、黒帯を絞め、門下生は白帯とした。
すると黒帯同士での序列に意見が出て段位を作り段位分けが始まったのです。
すると当然、白帯の序列にも意見が出る、ならばと苦肉の策で級の設定をしたのです。
弐段以上が黒帯、初段が茶帯、以下は白帯。
空手道でいえは第二次大戦以降に新興団体として広まった会派、会館派の流行と中学生以下の少年少女達への流行が後押しとなりわかりやすく各級で色分けされ色々な色帯が広まったのです。
現在では、新興団体空手道も伝統空手道も当り前の様に色帯を絞め、スポーツ化するためのわかりやすさとして推奨しているのです。
ただ、スポーツ化することに力み過ぎて、伝統空手道としての流派流儀が置き去りにもなってもいるのも事実です。
戦わない空手道、護身の術、流派流儀の先人の術を未来へと伝え繋ぎたい。
疾風迅雷の如く!進むは伝統の道。
※