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だけど、弱い I
ミルク🍼💚
私、葉堀愛彩|《はぼりあい》はいつものように静かな裏道を通り、出勤する。コーヒー豆の匂いが漂う店内が私は苦手だ。コーヒー自体、苦いから好まない。そんな私はこのカフェの店長だ。特に何という日を過ごさないからか、あっという間に店を建ててから3年が経とうとしていた。人が来ても静かな雰囲気の店内は落ち着いて好きだった。水々しいフルーツの酸味のある香りと、パンケーキなどの甘い香り。そんな香りがあるからこそ、私はここにいて心地がいいのだ。大好きな香り。大嫌いなコーヒー。変な組み合わせだけれど、それも、私は気に入っていた。
「愛彩。おはよう。」
「奈帆、おはよう。今日もよろしく。」
そう笑顔で微笑んでくれたのは、私の一番の友達。藤野奈帆|《ふじのなお》。いつも可愛い笑顔で私とは性格が真逆の優しい美人優等生だ。どうしてか同じ人間なのに同じ生き物と忘れてしまうくらい奈帆は完璧でいつも美しかった。愛おしい笑顔で、笑いかけてくれる。
彼女とは私が中学生の時知り合い、一緒の高校に行き、一人が多い私を唯一気にかけてくれた。そして現在、一緒にお店を経営している。奈帆は私の一番大切で可愛くて大好きな人だった。当たり前だけど、勿論モテる。去年は私が確認できたのでも五回告白され、十回ほどナンパをされていた。しかし、痴漢にあったり、気持ち悪いおじさんに声をかけられたりなど、可愛い彼女は苦労していると言っている。私は可愛くないし、そういう事をされた事もないけれど、ナンパとか痴漢とかはやっぱり迷惑だなとつくづく思う。
そんな彼女には、よくお店にやってくる “好きな人” がいるという。私の働いている時はいつも奈帆と入れ違いになるからその人を見た事がなかったのだけれど、今日はたまたま、同じ時間にシフトが入っていたため、もしその人が来たならその人を見せてくれるという。特に興味はないけれど奈帆のような完璧人間が、好きになるのだから相当かっこよくて、性格もいい人なのだろう。
9時に開店してから十五分ほど経った時、お店のドアについたベルが音を鳴らした。
「あっ…いらっしゃいませ。…今日もご来店ありがとうございます。」
「あ、はい。」
奈帆に背中を向けていた私は聞こえた会話を聞いていると接客をしている奈帆はいつもより少しおどおどしている気がした。
「今日は、何になさいますか?」
「あー、いつもので。持ち帰ります。」
「かしこまりました…!番号を呼ばれるまで、そちらで少々お待ちください。」
そんな後ろから聞こえる声に耳を澄ませながら何を作ったらいいのか探っていたのに『いつもの』と、意外な答えがかえってくる。そんな声を聞きながら、『いつもの』という言葉で伝わる程よく来る人だろうと思う。
「奈帆?いつもの、って何?」
「あ、っごめん…紅茶ラテ…」
「紅茶ラテ…。うん。…了解。」
紅茶ラテという言葉に引っ掛かりを覚えながら、聞き馴染みのある名前の紅茶ラテを作り始めると背後から照れ臭そうな小さな声が聞こえた。
「あの人…私の、好きな人。」
と聞いて、私はすぐに奈帆の方を向く。
「え…」
「ん?どうした?」
嫌な予感がして私は咄嗟にそちらの方を向くと、そこにいた人を見て、嫌な予感が当たってしまいそうな感じがする。いや…ううん。きっと、違う。私が思っているあの人じゃない。
「えっと…どの人、?」
「あそこで本読んで待ってる人。」
それでも、本を読んでいる人なんてあの人以外いない。私は言葉を詰まらす。
「愛彩知ってるの?見たことあった?」
知ってるも何も、いつも私がレジをしている時にキラキラをした眩しい笑顔を見せてくる、あの人。
そう…………