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第6話:ファントムの影
次の任務のターゲットは、日本の政界で影響力を増してきた若手政治家、高遠修二だった。彼の掲げるクリーンな政治や改革案は国民の支持を集めていたが、裏社会では彼が邪魔な存在になりつつあった。
隠れ家で任務の詳細を確認する4人の間に、いつものような緊張感とは違う、微かな違和感が漂っていた。
「高遠修二は、特に裏社会との繋がりもない、クリーンな政治家だ」
雷牙が冷徹に情報を読み上げる。
「なぜ、こんなターゲットを狙う?」
「ファントムの指示に従うだけだ」
白藍が紅茶を一口飲む。
「理由は問わない。それがルールだろう」
「ルール……ね」玲華はタブレットを操作しながら呟く。
「今回の報酬は、いつもより桁違いに高い。そして、高遠が失脚することで、誰が得をするか。少し調べればわかることだわ」
仄は黙って彼らの会話を聞いていた。彼女の心の中にも、漠然とした疑問符があった。自分たちは、単なる暗殺者として利用されているだけではないのか?
「まあ、どうでもいい」
雷牙は装備を点検しながら言う。
「俺たちは楽園に戻るためだけに動いている。それ以外はどうでもいい」
--- 任務決行の夜 ---
雷牙は、ターゲットの演説会場近くのビルの屋上から、スナイパーライフルを構えていた。広場には多くの群衆が集まり、高遠のスピーチに耳を傾けている。
「ターゲット捕捉。群衆の中に、明らかに異質な動きをする集団がいます。おそらく、俺たち以外の妨害工作員かと」
雷牙が無線で伝える。
その時、白藍から驚いたような声が聞こえた。
「待ってくれ、雷牙。妨害工作員は、ファントムの関連組織の者たちだ」
「何だって?」
雷牙はスコープを覗きながら確認する。確かに、見慣れたエンブレムを身につけた男たちがいる。
「なぜ、自分たちの組織の人間を同時に動かしている?」
「ターゲットは高遠修二本人ではないのかもしれない」
玲華の分析が入る。
「彼らは、高遠を『生け捕り』にしようとしている。私たちの任務は『抹殺』。つまり、ファントムは私たちに、彼の関連組織すらも騙し討ちで始末しろということか」
仄は、演説会場に近づいていた。彼女の任務は、もしもの際の確実な抹殺だった。
「白藍、確認だが、ファントムは私たちにターゲットの『完全なる排除』を命じているんだよな?」
仄が尋ねる。
「そうだ」
「ファントムは、自分たちの組織すら信用していない。あるいは、私たちを使って何か別の目的を達成しようとしている」
仄の思考は冴えわたっていた。
「そんなことは関係ない」
雷牙が冷静さを取り戻す。
「俺たちは俺たちの任務を全うするだけだ。ターゲットの抹殺。それだけだ」
しかし、4人の心の中には、確かな疑念の種が植え付けられた。ファントムという男は、一体何者で、何を目的としているのか? 彼が提示する「楽園」は、本当に存在しているのか?
任務は無事に遂行された。高遠修二は、仄のスティレットによって確実に命を奪われ、混乱に乗じて4人は現場を離脱した。しかし、彼らは皆、沈黙していた。
隠れ家に戻った後も、その沈黙は続いた。ファントムからの次の指示を待つ間、4人はそれぞれの思考に耽っていた。彼らが信じてきた「楽園」への道筋が、偽りのものである可能性が浮上したのだ。
「私たちが本当に求めているものは、あの洋館での快楽なのか?」
白藍が、静かな声で問いかけた。
仄は、窓の外の月を見つめたまま、答えなかった
🔚