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八
黒の瞳。言うまでもなく、黒の魔力を持つ。
魔力は魔法を使う源となると同時に、その色の保持者の性格の中核となり、それに大きな影響を与える。
一人一人、持つ魔力の色は違い、それによって性格も一人一人違う。
それでも、ある一定の規則性というか、傾向はある。
暖色系の色の魔力を持つ人は外向的、寒色系の色の魔力を持つ人は内向的、と言われるのが一つの例だ。
そして、黒系統の色の魔力を持つ人は。
———不幸になる、と言われている。
その黒色が濃ければ濃いほど 不幸を呼ぶ、と。
「黒い瞳……、そういうことね」
アランは、俺がどこに行っていたのか、そしてそこからこの館までの経路を知っている。
黒い瞳、というだけで全てを察したようだった。
「なかなか難儀な子を拾ったんだね」
「ほっとけないだろ」
どさっと、俺もアランの隣に座った。
「まあ、事情は分かった。……確か、レオの隣の向かいの部屋が空いてたろ。そこ使わせればいいよ」
んー、と伸びをしながら、アランはあっさりとセナの滞在の許可を出した。
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「———セナ?」
コンコン、と部屋の扉を叩く。返事はなかった。
扉に手をかける。ギイイ、と音を立てて開いた。鍵をかけていなかったらしい。
女なのに。部屋の鍵くらいちゃんと閉めろよ。ここは男の|園《その》だぞ。
そんなことを心の中で思いながら、少しだけ開けた扉と壁の隙間から恐る恐る中を見た。
ツン、としたような錆びた鉄の臭いが僅かに鼻腔をかすめる。
「セナ!」
自分が通れるくらい扉を開けて、中に入った。
「おい!」
ベッドに頭を預けて、もたれるように彼女はいた。腕から血が流れている。眠っている。慌てて抱き起こした。だらり、と首が下がる。
手から伝わる温もりに少しだけ安心した。死んではいないみたいだ。
魔力が使われたような気配がする。しかし魔法が使われたような痕跡はなく、魔力が意に制御されて使われたわけではないようだった。
治癒魔法を唱えて、流血する傷口を塞いだ。手拭いで、その腕を拭く。
「……ん……」
もぞ、と腕の中で彼女が動いた。気がついたようだ。
「おい、大丈夫か」
彼女が目を開けた。何も映さぬ漆黒の瞳が、開かれた|瞼《まぶた》の間に見える。
「わた、しは……」
セナが何かを言おうとする。しかし何の言葉も紡がず、彼女は再び目を閉じた。
首元に手を当てると、ドク、ドク、と波打つ脈拍を感じた。まるで呪いのようだった。
そっと抱き上げて、彼女をベッドの上に寝かせた。起きる気配はなかった。