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この世で最も屈折した、そしてこのうえなく美しい癒し
この世で最も屈折した光は虹だ。本当に美しい輝きは全てを抱擁する。純粋無垢の白い光。それこそがけがれのない至上の愛。しかし華麗にこだわるあまり過剰におのれを飾ろうとした退廃的で俗物がいる。虹だ。七色の虹はあの手この手で人の心を奪う。
だからナポレオン蛍光灯は有終の美を人々の価値観に叩きつけたのだ。ドバイ行き航空便に鉄拳制裁の魔手が迫る。
「お客様。お客様の中にナポレオン蛍光灯の達人はいらっしゃいますか?」ドバイ行きの航空機は右舷乗務員用トイレにタヌキばやしが突き刺さり墜落寸前であった。炎を噴き上げるエンジン。黒煙が渦巻く乗客室。「ナポレオン蛍光灯の専門家はまだか?」息も絶え絶えの機長を凶弾がうがった。絶体絶命のピンチ。新人スチュワーデスのアイ子は
小柄で色黒の男で、長くて太い口ひげを生やしている。日本語のアクセントがとても濃いが、彼はカリフォルニア出身だ。彼はいい口ひげをしている。彼は犬を2匹飼っていて、そのうちの1匹はナポレオンという名前だ。ナポレオンというのは、犬なんです。彼は犬のようなものです。足を悪くして、それ以来、入退院を繰り返しているんだ。
パイロットのトムは、深刻な問題を抱えている。飛行機で上昇するときは、彼がコントロールしている。下りてくるときも、彼が支配している。彼はボスなのだ。でも、地上にいるときは、ちょっと制御不能なんだ。
「ボスになるのに慣れていないんだと思う」と彼は言う。彼は飛行機の長さを見上げたり、見下ろしたりしている。彼は多くの人々の注目を集めている。
「あなたが困っているのがわかるわ」とAikoが言う。
"そう?"と彼は言う。
"ナポレオンをお持ちですか?"と彼女は聞く。
"うん "と言う。
"いつ仕事に取り掛かる?"
"今すぐよ "と彼は言う。"頑張るんだ "と。ちょっと調子がいいんだ。"
飛行機が動き出し、エンジンが停止した。
機長が「異常なし」と言う。
新しいスチュワーデスのアイコがトムに向かい、"私たちは墜落します "と言った。
彼は彼女を見て、"オーケー "と言った。彼は立ち上がり、スーツケースを置いて、ドアから歩き出した。
"あれは何だったんだ?"
"そうだった "と彼女は言う
トムは外に出る。
"あれは威厳がないわね "と彼女は言う。
"威厳があったとは言えない "と彼は言う。"でも何が出来るの?ちょっと暴走気味だけど、人を殺すわけじゃないし。"
彼女は考えている。
"一緒に飛行機に乗ってもらう必要があるかもしれない "と彼女は言う。
"彼はイエスと言うと思うわ "と言う。
トムが一等航海士として採用されて以来、10年近くが経過した。この3年間、彼は飛行機に乗り続けている。彼は32歳。彼は清潔である。
機体に着き、彼は手を離した。
ジェットマスクが取り外されて真っ暗な中を見ている。自分の胸の前で手を組んだままだ。
周りには飛行機が近づいて来ていた。
彼は周りを見渡すが、どこにもいない。
誰も近づいて来ていない。目の前が真っ暗で、空しか見えなくなっていた。
"何?何なの?誰かが見てる?"と彼は言った。
"私は、飛行機に乗ったのよ "と彼女は言う。
"私はジェットマスクを取ったのよ "と彼は言う。
彼は「何だ 」と言う。
"いつも、こうやって手なんだ "というように言う。
"何で "と彼は言う。
"私は飛行機に乗ってるんだけど、何でなのでしょう? "
彼は彼女を見た。
"あなたは、何でここにいるのよ? "と彼女は言った。
"そのマスクは、あなたの為だったのかと思ったら、少し違うところもあるね "と彼が言う。
"どう言う意味なの "と彼女は言う。
"私は、あなたが大好きなのよ "
"私は今も一緒に居るつもり "
........ "... .. .. ..? "
"そうね "と彼女は言う。
"あなたがお友達と一緒に居る時みたいに "
"違うわ "と彼は言う。"違う。私はジェットマスクをしている。
"本当に "
"もう、あなたとは言わないわ "と言う。
"それに、"私に関わる事なのよ "と言う。
"何が "
"何も話せないわ "と彼は言う。
"それは、あなたが教えてくれない限り、私にはわからないわ "
"その時の私は、あなたは嘘を吐いているのに、私は嘘を吐いている事に対しても、あなたはそんなの嘘と思っているわ、そんなあなたを許さないわ"
"そんな事、知っていながら私は "
"私が今やってあげますけど "と彼女は言う。
"そうね、そのままでいいわ、"
"でもあなたがお友達とつるむのよ、そうすると、私は、あなたとはお話できないの "
"そんな事 知らないわ、"
"あなたは、私の事なんてどうでもよくて、私の事がどれだけ心配してるか、どれだけ心配してるか、あなたはそんなの知っているはずよ "
"あなたが私を大事に思うなんて、嘘だわ "
"本当に、嘘なの "
........…….
「あぁ、そうか」と彼は言う。
「わかったんだ」と彼は言う。
"あなたは、何を言ってるの?"
「あなたは、あなた自身の為に、あなたの為に僕を利用するんだ」
"えっ? 何でそんな風に言うの?
「あなたが、あなた自身のために、あなたが自分自身の為だけに、あなたがあなた自身を愛してあげるために、あなた自身があなたを愛するため、あなたがあなたを愛してあげられるように、あなたがあなたを愛してあげるの」
"そうよ"と彼女は言う。"だから、あなたがあなた自身のために、あなたがあなたを大切にするのよ" "あなたは、あなた自身とあなたがあなた自身と向き合うのよ"と彼女は言う。
"あなたが、あなた自身をもっと良く知るために、あなたがあなた自身を好きになるのよ"と彼女は言う。"あなたがあなたと話すのよ"と彼女は言う。
"あなたは、あなたがあなたに対して責任があるのよ"と彼女は言う。
"あなたが、あなたがあなたに出来る限り、あなたがあなたがあなたに出来る限り、あなたがあなたがあなたがあなたがあなたがあなたがあなたがあなたがあなたがあなたがあなたがあなたがあなたがあなたがあなたがあなたがあなたがあなたがあなたがあなたがあなたがあなたがあなたがあなたがあなたがあなたがあなたがあなたがあなたがあなたがあなた
「やめて!」と彼は叫ぶ。
「やめろ」と彼は言う。
「やめるんだ」と彼は言う。
「私は、あなたの事をとてもよくわかってるのよ」と彼女は言う。
「私は、飛行機に乗ってるんだ」と彼は言う。
「私は、飛行機の中にいるんだ」と彼は言う。
「私は、飛行機のコントロールを持っているんだ」と彼は言う。
「私は、飛行機の行き先を知っているんだ」と彼は言う。
「私は、飛行機を止める事が出来るんだ」と彼は言う。
「私は、飛行機から降りるんだ」と彼は言う。
「でも、私はまだ飛行機の中よ」と彼女は言う。
「飛行機から降りなきゃいけないんだ」と彼は言う。
「あなたは、飛行機のコントロールを持ってるのよ」と彼女は言う。
「飛行機を止められるんだ」
と彼は言う。
木恒《きつね》機長が殺されたのにどうやって制御を取り戻すんだろう。この便はドバイに向かっていた。乗客は世界ウルフ選手権の観客ばかりだ。ドバイは第24回国際ウルフ選手権大会で盛り上がっている。こんな時にテロを起こそうなんて狂っている。それにしてもタヌキばやしはどこから飛んできたんだろう。機体がグラリと傾いた。
「犯人がまだ機内にいます!」
「みんな落ち着いてください!犯人はすぐ見つかります!」
「犯人が操縦室に侵入してきました!犯人を取り押さえてください!」
「早く捕まえるんです!」
「"誰か"がいるんですか?」とトムは聞く。
彼女は答える
「誰かはわからないわ」と。「俺が捕まえよう!」
木恒機長がむっくりと起き上がった。
「えっ。死んだはずでは?」
「はっはっは。この木恒。パイロット歴百年のベテランがハイジャック犯ごときに撃たれてたまるかあ」
木恒機長がワイシャツをはだけると黒光りする胸板があらわれた。筋肉隆々で分厚い。おまけに心臓にタワシのような剛毛が生えている。
「見事だろう? どうだまいったかあ。はぁっはっはっは!」
「何なんですか、これは……!?」
「はぁ? なんじゃそりゃ」
「あっ、失礼しました。機長さんですよね? なぜ、生きているのですか? 心臓は無事だったのですか?」
「これは人工心臓だぁ。本物はスイス銀行に預けてある。はっはっは」
「そっちの心臓じゃないですよ。こっちの本物の方です」
「あ? あーそれならスイス銀行だ」
「いやその前の、偽物のほうの心臓のことです。大丈夫だったのでしょうか?」
木恒が顔を曇らせる。
「それがな、この飛行機はもう助からんのだ」
「どういうことですか? もしかして爆発でもしますか? でも今さらどうしようもないでしょう。もう遅いと思いますよ。逃げても無駄じゃないですか? 今からどうしようもありませんよ。諦めましょうよ。ねぇ、機長さん、どうせ死ぬなら一緒に死にませんか? 人生最後をともにしましょうよ。どうせこのままだとみんな死ぬんですし、いいじゃないですか」
「そうじゃなくて、爆発するのはこの飛行機じゃない。この飛行機の部品だ」
「え? つまり、ナポレオン蛍光灯のことですか?」「その通りだ。もうダメだ。今頃はパリに着いているはずだったんだがなぁ。もうパリには行けんなぁ。残念だなぁ。でもまぁ、仕方がないなぁ。はっはっはっは」
「え? あの、すみません。意味が分からないのですが。もしかして、飛行機のパーツが爆破されるので、飛行機は墜落してしまうということなのでしょうか? それとも、飛行機の部品が爆発するので、飛行機が墜落するのでしょうか? どっちなのでしょうか? その答えによって、我々が生き延びる方法が変わると思うので、教えていただけないでしょうか? 」
「どちらでもない。両方だ。この飛行機のパーツが爆弾になって、機体が爆発する」
「そんな……
」
「でも安心しろ。ナポレオン蛍光灯の時代は終わった。次はジスカールデスタンLED電球の時代が幕あけするのだ。はっはっはっは」
木恒は豪快に笑った。
トムは唖然とした。
「おい、お前たち、聞いてくれ。私は機長の木恒だ。私が君たちの命を守る。私の指示に従ってほしい」
「はい、わかりました」
と私は言った。
「まず、座席に戻ってシートベルトを着用するように。そして、私の言う通りに動いてほしい」
私たちは指示に従った。木恒機長が私に言った。
「いいぞ、これで全員揃った。これから作戦を説明する。みんな静かに聞けよ」
(続く)
***
「えっ? 全員? 」と私は言った。私の他に、3人乗ってるけど。「あのー、すみません。私以外に2人いるんですが」
「えっ、どこにいるの?」
「目の前に1人と、後ろの方にもうひとり」と私は言う。「なんか私に覆いかぶさってきてますけど」
私が指差すと、木恒機長が振り返って叫んだ。
「なにしてんだよぉ、おまえぇ!!」(つづく)
木恒機長が叫んだ。「なにやってるんだ!はやくどいてくれよ。重いじゃないか!」と言って、木恒機長は立ち上がった。私に覆い被さっていたのは、タヌキであった。木恒機長が振り向いたので、彼は立ち上がって、木恒の背中をバンと叩いた。彼はそのまま床に転がった。彼は大の字になったまま寝息を立て始めた。木恒機長は彼を無視して話し始めた。
「えーっと、なにをやってるのかわからないけど、みんな席に座ってシートベルトをして待機してくれ」と彼は言った。みんな彼の言葉に従い、自分の席に着いた。
すると突然、機体が大きく傾き、轟音と共に揺れはじめた。
機体の左前方で、ボンという大きな音がして、何か黒い物体が落ちてきた。
みんな悲鳴をあげた。
機体は激しく上下左右に揺れて、みんな転げ回った。私は、床に落ちていたフランス人形を抱き抱えた。しばらく激しい衝撃が続いて、それから、ゆっくりと動きが穏やかになりはじめ、やがて止まった。
窓の外をみると、真っ暗で何も見えなかった。しばらくして、外が明るくなった。私は目を細めて窓の外を見た。飛行機は砂漠の上に浮かんでいた。私は窓から身を乗り出して下を覗いてみた。砂しか見えない。どこまでも、ただひたすらに、茶色くて細かい粒子が敷き詰められている。飛行機は空を飛んでいなかった。地上に着陸していた。
私は、機内を見渡してみる。誰もいない。
私は立ち上がり、通路に出た。
コックピットに向かって歩いた。
ドアを開けると、操縦席に木恒機長がいた。彼は操縦桿を握っている。彼は前を見て、真剣な表情をしている。
木恒機長の肩越しに、副操縦士が見えた。彼はヘッドホンをつけてモニターを見ている。彼は右手を軽く上げて挨拶をした。
木恒機長がこちらを振り向いた。
彼はニコリと微笑んだ。
彼は親指を立ててグッドサインを出した。
彼はウインクしながら、片目だけを閉じて、ウインクをしながら、「トムは死んだよ」
えっ、と私は耳を疑った。「そんな…」
「バカなと言いたいだろうが事実だ。彼は銃撃から私を庇ってくれたんだよ。そこにテロリストの死体が転がっているだろう。めくってみなさい。もう一人死んでいる。それが彼だ。トムは勇敢な副機長だった」
私は死体をまじまじと見た。確かに、もう一人倒れている。それはトムではなかった。
私は、木恒機長のところに歩いていった。
彼は、私の頭を撫でながら、優しい声で言った。
よく頑張ったな、と。
木恒機長は、涙を流す私を強く抱きしめた。
私は、彼に抱きつき泣き続けた。
木恒機長は、優しく語りかけた。
彼は、私の頭の上で囁き続ける。
彼は、私のことを愛していると何度も繰り返した。
彼は、私が大好きなんだと言った。「でも…トムが」
すると機長が言った。「トムのことはもう忘れなさい。あいつの正体はナポレオン蛍光灯だったんだ。奴の本体は、すでに飛行機の外に逃げたはずだ。今頃、どこか遠くへ飛び去ってるさ」
トムはもう戻ってこない……。
トムがいなくなったら、もう生きていけないと思った。
でも、彼は死んでしまった。
私のせいだ。
私のせいだ。
「自分を責めるんじゃない。君は何も悪くないんだ。ほら。ジスカールデスタンLED電球を一緒に愛でようじゃないか。それがせめてもの慰みだ」
木恒機長は、ポケットから小さな箱を取り出して、蓋を開けた。
中に入っていたのは、白い球体だった。木恒機長は、それを摘むと、空に掲げて見上げた。
眩しい光が彼の顔に差し込んだ。
まるで、天使の梯子のように、天井から、一筋の光が伸びて、彼を照らした。
彼は、私を横抱きに抱えると、飛行機の後部に向かった。
そこには、荷物室があった。
その部屋は、薄暗くて、ジメッとしていた。私は、部屋の隅に置かれた、大きなリュックサックの上に座った。
彼は、私に、ジスカールデスタンLED電球を渡した。
それは直径2センチほどの球体だった。
表面には文字や絵が印刷されている。
光にかざしてみると、虹色に輝いていた。光は七色のスペクトルに別れていた。
赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の7色だ。
この色は、まさに、人間の心を表すような美しさだった。
その球体の表面には、"ジスカールデスタンLED電球 、5個セット "と書かれていた。
彼が、説明書を読みあげた。
これは、フランスの会社で開発されたLED電球だそうだ。
この電球は、暗いところで点灯させると、虹のような美しい光のスペクトルを放つんだとか。そして、太陽の直射日光を当てると、一瞬で輝きを失ってしまうらしい。また、電球の周囲に、特殊なミラーコーティングが施されているため、光が乱反射するんだとさ。つまり、鏡みたいになるわけだ。
この鏡で屈折した光は、我々の目に届き、それが鮮やかな虹のように見えるのだ。
そして、このLED電球の素晴らしいところは、暗闇の中で点灯させても、美しく輝くことだ。つまり、暗闇の中でも明るいのだ。それ故に、停電時に非常灯として使えるのだ。さらに、紫外線を発しないので虫を寄せ付けず、赤外線を発するのでペットの体温感知にも役立つという優れものだ。そして何より素晴らしいのは、この電球は1年を通して使用することが可能なのだ。つまり、寒い冬の夜も暖かい室内で過ごせるのだ。そして夏は、暑い夏の日差しの強い昼間でも、その暑さから逃れることができる。しかも、その光は熱くない。だから、肌に照射しても大丈夫だ。それに、この球根は非常に軽いので、持ち運びも楽々だ。このLED電球は、旅行に持っていくのに最適だ。もちろん、家でも問題なく使用可能だ。ただし、注意しなければならないことがある。もし、この電球を割ってしまったり、紛失してしまった場合、交換することはできないのだ。LED電球を購入できないわけではない。しかし、交換できるのは1回限りだ。つまり、一度、LED電球を割ってしまうと、もう二度と交換はできないのだ。気をつけろよ。それから、万が一、電球を無くした場合には、すぐに私に連絡してくれよな。必ず探し出してみせるよ。なぁに心配するなよ。私の人脈を使えば簡単さ。そうだろう? な? な? そうだよな? な?
私はジスカールデスタンLED電球。君の心底まで照らす、新世界のともしび。