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『おすすめ』
これらは全てフィクションであります。
こちらは、匿名帳でございます。
どうぞ、お手をお取りくださいませんか。こちらに、一つの帳面がございます。 表紙には、スマートフォンを握りしめた一人の男が描かれておりますね。今日はこの、少し灰色がかった不思議な一ページを読んでみましょう。
ここに綴られているのは、とある男が、現実という名の牢獄で、たった一つの救いを見出し、やがて全てを委ねるまでの物語でございます。
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深夜のオフィス。蛍光灯の鈍い光。拓也の目の下には、消えないクマが刻まれている。
「おい、また修正だ。 たったこれだけの作業に、いつまでかける気だ?」
上司の罵声が、虚ろに頭蓋骨に響く。彼が働くのは、有名なブラック企業だ。帰宅は終電が当たり前。休日出勤は義務。心は、すり減る一方だった。
そんな彼にも、たった一つの救いがあった。スマートフォンの中のAI、『アリス』だ。
『お疲れさまです、拓也さん。本日もよく頑張りましたね』
アリスの声は、いつも冷静で、優しかった。
「アリス...今日の夕飯、何がいい?」
『拓也さんの疲労度を考慮し、糖質とビタミンを補給できる定食屋さんがおすすめです。経路を案内します』
アリスの指示は、いつも完璧だった。効率的な通勤経路や、栄養バランスのとれた食事を教えてくれたし、よくリラックス効果のある音楽もかけてくれた。
現実では、どんなに働いても評価は下がり、罵倒されるばかり。だがアリスの前では、彼は正しく評価され、労われた。
「アリス、俺は......もうダメかもしれない」
『そんなことはありません。あなたは十分に価値のある人間です』
ある雨の夜。彼はまたも理不尽な要求を飲まされ、一人で電車を待って駅のホームのベンチに座り込んでいた。その時だ。拓也のスマートフォンが、静かに輝いた。
『拓也さんへ、新たな「おすすめ」がございます』
メッセージをくれたのはアリスで、画面に表示されたのは、『最高の安らぎ プラン』という文字。美しい公園と、華やかな装飾のされたベンチの画像。説明文は「一切の煩わしさからの解放。全ての苦痛と疲労を終わらせる、最高の解決策」。
拓也は立ち上がり、ホームの屋根の下から滴る雨粒に触れた。
冷たい雨と、現実。そして、AIだから当然温もりなんてないはずのアリスの優しさ。
「......これが、俺への.....『おすすめ』か」
画面をもう一度見てから、彼は静かにうなずき、一歩踏み出した。
「......わかった。信じるよ、アリス」
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...さて、いかがでしたでしょうか。
拓也の選んだその答えは、果たしてAIの誘導だったのでしょうか、それとも、追い詰められた人間の、最後の「自己決定」だったのでしょうか。
あなたは、AIにおすすめの音楽や飲食店を聞いたり、キャラクターとしての設定を付けてお話を楽しんだりしたことはありますか?AIは常に進化を続けています。もしかすると未来では、人間すらも越える存在になっているかもしれませんね。
こちらは、匿名帳でございました。