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目次
耳順の空手道①
耳順の空手道 ❨ じじゅんのからてみち ❩
Episode 仲間入り
☆
戦わない空手、闘う空手道
☆
60歳から始めよう、戦わない空手、闘う空手道。
60 or older Club
❨ シックスティ・オア・オールダー・クラブ ❩
※
耳順(じじゅん)
六十而耳順・論語
六十にして耳順い、六十歳にもなれば何を聞いても表、裏や真相、本質が自然に理解できるようになると言う。
☆
晴沢 秋桜 (ハルサワ トキオ) 当年61歳。
現在、信州の美ヶ原高原の里の辺りに暮らしています。
この地にやって来てそろそろ1年が経とうとしています。
ただいま、無色(無職)透明、所属も役職も競り合いもしがらみも無しの日々を過ごしています。
やることは、美味い野菜を食うためと良く寝るための日々の散歩であります。
☆
薄川「すすきがわ」
昭和の名作ドラマ『白線流し』で話題有名になったこの川沿いの土手道を上り30分下り30分の散歩を日課としている。
今、暮らしている住宅から真っすぐに薄川の土手道まで、7〜8分でたどり着く、その途中の十字路がありそれを向って左へと行くとかなり良く整備された公園があるらしいのだが未だに足が向かない。
イメージとして、公園と言うと街中の公園などだとゲートボールやグランドゴルフ等々に勤しむ方々がいらしゃる事が多々あるからで、自分がそういうゲーム等々に興味も無く、勤しんでいる方々の気を散らしたくないと考えるとやはり足が向かないのである。
しかし、1年ちかくも経ったせいかふっとある日、足が向いたのである。
その公園は確かに良く整備されていた。
日影用の屋根にベンチも幾つかありひと休憩するにはいい感じに思えた。
その日影用屋根の下に数人のトレーニングウェアの高齢の男女が集まっている。
その中の上下白いスウェット姿の男性が集まっりから抜け出し声を出して指示を始めた。
すると他の高齢の男女がそろりそろりと輪になっていく。
輪になった頃を見計らい白いスウェットの男性が号令を掛け始めた。
何やら体操が始まった。おそらく柔軟体操だろうと見えた。
柔軟体操を終えると次の号令を掛ける。
「騎馬立ち〜正拳突き〜構えて〜」
おや、正拳突きとは、空手なのかな?
いち、オス、にぃ、オス、さん、オス、と二十回。
上段受け、中段受け、下段払い、前蹴りと二十回づつゆっくりと進んでゆきひと休み。
なるほど~中華の国の朝の太極拳の様なものなんだ、と私はその光景をぼんやりと見ていた。
その場基本の次は移動の基本、基本形を2種類おこなって、基本の約束組手を互いの相手を変えてひと回りすとそれぞれに労いの声を掛けて散開していった。
まぁお世辞にもビシバシって感じでは無いけれど健康体操にはなるのだろと微笑ましく拝見させていただき、私の足は帰路に向かった。
翌日の散歩は、いつも通り薄川の土手道を上り30分までいくと下りの途中から公園へ抜ける道を探し出しそのまま足を向けた。
今日も数人の高齢の男女数人が輪になって号令に合わせて健康空手をおこなっていた。
また次の日も同じ散歩コースで公園へと向かい微笑ましい健康空手を見物して帰宅した。
なんだか微笑ましい健康空手を見物するのがクセになってきたようだった。
4回目の見物をしていると、後ろに気配を感じ振り向いた。
高齢の女性が微笑みながら近づいてきて声を掛けられた。
「こんにちは、いかがですか、興味ありますか?」
その問いかけに少々戸惑いながら私は返事をした。
「こんにちは、皆さんは、どう言う集まりなのですか?」
「あのね、60歳から空手道を習おう。と言うシニア、シルバー世代の集まりなんですよ」
「それは、なかなか皆さんお元気でよろしいですね」
「失礼ですけど、60歳は越えていらしゃるの?」
「はぁ、61歳ですね」
まぁとその女性は1オクターブ高く声を出すと、どうぞご一緒にと数人の男女の元へと私は肩を押され引き込まれてしまった。
見物されていたので、お誘いしました、新しい仲間にお迎えいたしましょう。
その女性の言葉にその場の男女全員が拍手をしながら自己紹介を始めてしまった。
やむを得ず私も自己紹介をし事の詳細を皆さんから伺った。
集まりの正式な名称は、60 or older Club
❨ シックスティ・オア・オールダー・クラブ ❩
あはは、何だか、カッコよ〜!名称だけは…
正式なメンバーは、16人で、私を入れると、17人になると。
リーダー役は、上下白いスウェットの男性、善治郎 (ゼンジロウ)さん当年76歳。
40年前に、黒帯、二段を取得しているという。
そして、月に2度程、正式な道場から三段の若先生が手ほどきに来てくれる。らしい…
正式な道場に会員登録すれば、昇級試験を受けれるし大会にも出られる。らしい…
正式な道場には空手着の着用が必要だが、公園道場ならスウェット、トレーニングウェアで構わないの事。
ちなみに、私に声掛けをしてきた女性は、由紀子(ユキコ)さん当年65歳、同じ60代って…
まぁそんなこんな感じで、翌日から薄川の土手道を上り30分して下りは公園道場で健康空手道参加、経由で帰宅する日々に変化したのです。
☆
健康空手道公園道場へ参加して1週間、正式道場から若先生が手ほどきにやってこられた。
とは言え、号令は代わらずリーダー役の善治郎さんがかけ声を出していた。
やはり正式道場から若先生が来ているとあって16人全員が幾らか緊張感を持って声を出している。
皆さんが緊張感を持って集中している間に私は若先生と呼ばれている方へ挨拶がてら事情説明する事にしました。
「はじめまして、今週から皆さんの仲間って感じで参加させてもらっています、晴沢 秋桜(ハルサワ トキオ)と申します。実はですね皆さんにはお話ししては無いのですが、私、高校の部活動からの流れで30年間程、空手道をやっていました、ただこの10年程は離れていますけど…」
「なるほど、道理で無駄な力みも無くスムーズだなとお見受けしていました、なら段位を取得されてもいるんですよね?」
「あぁえっと、ですね、五段位を取得させてもらっています」
えっ!
「師範ではないですか?自分などおよびませんよ」
「いやいや、10年程離れていますし、流派もまったく違いますし、皆さんと同じ様に見ていただきたく申し上げました、よろしくお願いします」
「なるほど、お気遣いは承知いたしました、では、しかるべくです」
そう言う事で若先生と私の間で話をつけ、後は2人の暗黙の了解となりました。
☆
そうして、日々が過ぎ、幾週かが過ぎ、月々が過ぎて3ヵ月程経った頃でした。
私は、通常通りに土手道を30分散歩をし公園道場へと着いた時いつもと違う雰囲気を感じました。
日影用屋根の下に数人がかたまりおどおどとしていました。
そのかたまりから少し離れた所には、善治郎さんが、そして善治郎さんの向こう側に数人の若者達が、そばには改造変形したバイクが数台止まっています。
私は、静かに足を進め日影用屋根の下にいる皆さんへ近づいて行きました。
すると、1人の若者が、善治郎さんに向かって嘲笑いながら小馬鹿にした言葉を吐きかけたのが聞こえきました。
「よぉ、ジジィ何だよその腰の紐は?」
「紐じゃ無い、黒帯じゃ!」
善治郎さんが言い返す。
そう1月程前から善治郎さんは上下白いスウェット姿の腰に黒帯を締め始めていたのです。
健康空手道公園道場のリーダー役としての印だと新調し自分の姓名も刺繍して仕上た黒帯です。
「はぁ〜、嘘だろてめぇみてぇなジジィが黒帯って笑えるぜ、じゃ強いのかジジィ?」
「もちろん、強い、黒帯は弱い己の心と身体を支えるものじゃからな」
「あ、あんだよそれ?じゃオレよりジジィが強いのかよ?」
「いや、君とか誰かとかよりの強い弱いは関係ない、己の心身のためだ」
「ちぇっ、めんどくせぇぜ」と呟くと突然、若者が善治郎さんに殴りかかった。
が、ギリギリなんとか善治郎さんはそのパンチを躱す。
おぉ~やるじゃんジジィ、独り言を呟き若者が善治郎さんの正面に立ちキックボクシングスタイルのファイティングポーズをとる。
やむおえん、善治郎さんも呟き前屈立ちに左手を前拳に右手を中段鳩尾前の中段に構えた。
なんだ、やる気あるんじゃん、とニヤけ顔で若者がフットワークを始め間合いを計りだす。
しかし、善治郎さんは微動だにしない、と言うか出来ないのではないかと、私は思った。
何故ならここの健康空手道公園道場ではフリー組手をおこなった事は無く健康の為には不要だからだ。
基本の約束組手で集中力と胆気を養えれば良いからである。
仮に一か八か、善治郎さんの正拳突きが当たっても若者を止める事、倒す事には無理がある。
止めなければ、辞めさせなければと思った瞬間若者のローキックが善治郎さんの左脚の膝裏にヒットした。
うがぁ!聞いたこともない善治郎さんの呻き声がした。
善治郎さんの態勢が揺らぎ上半身が無防備になる。
無防備な胸元に、右、左、右とパンチが連打された。
善治郎さんは呻きもせずその場に崩れ落ちた。
ヤバい、私は駆け出していた。善治郎さんの元へ駆け寄り声を掛け脈をとる。
息はある、胸への衝撃で発作的に心臓が止まってはないかと心配したからだ、私は善治郎さんを抱え上げ日影用屋根の下へ運んだ。
「由紀子さん、警察へ110番をして救急車をお願いして今の状況を説明してください」
は、はい…由紀子さんの返事とらくらくホンを取り出すのを確認すると私は善治郎さんを傷めた若者とその後ろでふやけた顔で屯している若者達に向かって足を進め問いかけた。
「キミはカラテをやってるのか?」
「あぁ、だったらなんなんだ?」
「後ろで屯ってるキミ達もか?」
あぁそだよ、全員同じ道場の連れだよ。と誰ともなく返事が返ってくる。
「そうか、よほどポンコツな道場なんだ」
そう言い返しておく。
やろぉ、フザケやがって!と吐きながら善治郎さんを傷めた若者が掴み掛かってきた。
掴み掛かってきた右手首を掴み体を入れ換え背に乗せ投げ飛ばす。
残念ながらこう言う輩に限らずだがカラテだけをトレーニングする者達は、受け身の技術がない者が多い。
強かに背中から地面に叩きつけた若者が呻き声を出す。
あんだよそれ?カラテじゃねぇのかよ!?と誰ともなくクレームを付けてくる。
私は、若者達に向き合い語りかけた。
「無知と言うか、視野が狭いと言うか、伝統空手四大流派のひとつには投げも関節技も技術として昔から伝わっている」
は?へ?ほ?伝統空手って?
ぶつぶつと呟く若者達…
するとその中の1人が進み出てきた。
「なんだっていいんだよ、強けりゃよ、ジジィ、ヤッてやんよ」
私はその進み出てきた若者に問いかけた。
「そっか、じゃキミは強いのか?」
あぁ〜、と何故かふんぞり返ると若者は自ら名乗りを上げた。
「強拳会館カラテ、黒帯、東関東地区チャンピオンだ」
「ほぉ~、キョウケンカンカンの黒チャンなんだ…」
とボケて返しておく。
このボケに完全にキレた若者がキックボクシングスタイルのファイティングポーズで近づいてくる、ゆさゆさと上半身を上下に揺すりリズムを取りながら近づいてくる。
私は、上半身を脱力し両腕を胸の前に開手で構え僅かに腰を落とし両膝に余裕を持たせ、体内でリズムを刻む。
不用意に近づいてくる若者に対して既に私からの攻めの間合いには入っていた、だが敢えて若者の間合いに合わせて攻めを待ってみる。
若者は上下揺すりのリズムで右のローキックで蹴ってくる。
私は左脚を僅かに外へ開きローキックをカットする。
ローキックをカットされた事にまさかと一瞬動きが止まる若者、それでも強引に続けて右、左、右とパンチを打ち込んでくる。
3連発のパンチを右の掌で躱す左の掌で往なし右足を右斜め後ろに捌く、と一旦間合いを大きく外す。
間合いを大きく外した事で若者のパンチ、キックが自然と届かなくなり無理やり接近を試みる態勢になる事で若者の顎が上がり左耳の下に隙ができ、首筋の頸動脈が露わになった。
刹那、飛び込みの右順突きで正拳を頸動脈に当て込む。
当て込まれた衝撃で動きが止まる、止まって仰け反った喉元に左の逆突きで中高一本拳を打ち込む。瞬間、若者の息は詰まりその場に崩れ落ちた。
崩れ落ちた若者を目にした後方にいた残りの若者達がたじろぎ色めき立った時、サイレンの音が間近に聞こえ、パトカーと救急車のサイレンの音が混じり合い公園内に鳴り響いた。
☆
善治郎さんを介抱していた男女が口々に救急隊員を呼びつける。
その周りを取り巻いていた男女が口々に警察官を呼びつける。
高齢者の方々独特な口調で救急隊員を警察官をまくしたてている。
ほっとひと息ついた時、私の傍らに若先生がやって来て労いの言葉を掛けてくれ、警察官への事情聴取にも同行してくれた。
おかげで?私の行動については正当防衛って事でキツメの口頭注意で納めていただけた。
とりあえず、騒ぎはひと段落つき善治郎さんは全治2週間と診断され、それにともなって公園道場の練習会も先ずは、1週間の休止をするとメンバー同士で話し合い決められた。
そして、1週間後の60 or older Club
❨ シックスティ・オア・オールダー・クラブ ❩
健康空手道公園道場再開に、療養中の善治郎さんを除いた15人と私、若先生も駆けつけてくれました。
さぁ始めよう!誰からともなく声出し号令が始まり我も我もと声出しが伝染してゆき互いを思う連帯感が増した気がしました。
※
戦わない空手道
『空手に先手無し』と言う言葉がある。
本来の空手と言う武術、武道は護る為にあるもの、いわゆる護身術である。
先ずは己を護り、己の大切な人、人々を護り、有形無形な大切を護る術であった。
故に、自らの力を示したり威圧したり戦いを仕掛けるものではなく、まして単に競い合うスポーツでも無く単純な格闘技でも無い。
徒手空拳の術という文化なのである。
※
闘う空手道
『心・技・体』と表される。
空手と言う武術、武道の術、技をひとつひとつ繰り返し繰り返し積み上げ身につける事により、忍耐力や諦めない気持ちが心の中で芽生える、心の中が整えば健康な体を養える。
己の敵は己にあり、その敵と向き合い闘う道が空手道なのである。
さらに1週間後、善治郎さん復帰の日がやって来ました。
あの日、善治郎さんは、やむを得ず戦わない空手道の護身の心で皆んなを護る為に皆んなの集える場所を護る為にリーダー役として黒帯取得者の矜持を掛けて前面に立ってくれたのでした。
60 or older Club
❨ シックスティ・オア・オールダー・クラブ ❩のメンバー達から拍手で迎えられ照れながらも気持ちも新たにと、腰の黒帯をギュッと締め直し号令を発してくれました。
全員が揃い輪になって順番に声を出し、その場の基本に移動の基本を一通りこなし、小休止となる。
タオルを顔に当て汗を拭き取っていると、由紀子さんがミネラルウォーターを右手に左手に1本づつ持ち歩み寄って来て左手のミネラルウォーターを私に差し出してくれた。
「あ、ありがとうございます」
私は微笑みながら受けとった。
「秋桜さん、かっこよかったですよ、先日は」
由紀子さんの言葉に、いやいやと私は左手と頭を左右に振る。
「アタクし、久しぶりにココがドキドキしちゃったです」
由紀子さんが自分の胸を右手で押さえながら言葉を続けた。
「ココの奥が、キュンとしてポッと熱くなっちゃたです」
由紀子さんが自分の胸をぐいっと突き出して見せてきたのでした。
あ…あぁ…はは、それは…と苦笑いしか返せなかった私でした。
終。
耳順の空手道②
耳順の空手道 ❨ じじゅんのからてみち ❩
Episode 演武会
☆
戦わない空手、闘う空手道
☆
60歳から始めよう、戦わない空手、闘う空手道。
60 or older Club
❨ シックスティ・オア・オールダー・クラブ ❩
※
耳順(じじゅん)
六十而耳順・論語
六十にして耳順い、六十歳にもなれば何を聞いても表、裏や真相、本質が自然に理解できるようになると言う。
☆
晴沢 秋桜 (ハルサワ トキオ) 当年61歳。
現在、信州の美ヶ原高原の里の辺りに暮らしています。
この地にやって来てそろそろ1年と半年が経とうとしています。
ただいま、無色(無職)透明、所属も役職も競り合いもしがらみも無しの日々を過ごしています。
やることは、美味い野菜を食うためと良く寝るための日々の散歩と公園道場での健康空手道であります。
☆
日々平穏無事に月日は経っていきこの年の師走を迎え、20日の日にこの年の練習納めとなりました。
いつもの練習を半分メニューにして終えて、温かいお茶と大福で宴を囲んでいた、16人と私と若先生。
徐ろに若先生からご挨拶とお話しが始まった。
「皆さん、1年間お疲れ様でした。また来年、新年からもゆっくりとガンバッテ参りましょう」
若先生もお疲れ様でした。ありがとう御座いました。と皆んなで口を揃える。
「それでですね、実は来年の卯月で正式道場が開設されて60周年になるんですよ」
おぉ~と皆んな拍手で盛り上がる。
「で、60周年記念の演武会をやろうっと正式道場の師範が発案されまして、皆さんにも御参加をお願いしたいと思います」
えぇ?なんと?と言うか何をするのか?皆さんクェッションマークの羅列であった。
「まぁ簡単に言えば、日頃の練習の成果を披露するって事です」
そ、そんな、人様には見せられんよわしらは…と皆さんは尻込みの意を表す。
それでも、善治郎さんから一応と内容について問いかけが出た。
「基本的には、皆さん全員参加出来る内容が良いと思います」
そう言うと若先生は私に顔を向けて、どうですか?と呟いてきた。
ならば、ベタな内容ですが、団体形と約束組手をやるしかないですかね?と私は返事をした。
団体形とはなに?と誰からか問われる。
団体形とは、5人か3人で息を合わせて同時に形をうつという事です。
でも、形は、二つしか知らんぞよ。の言葉に皆んなでうん、うんと頷く。
ならば、1の形を5人で、2の形を5人で10人として約束組手は2人一組の3組にすれば、16人が参加出来ますよ。
おぉ~と声を出すも、ひとり足りんぞ、メンバーは17人ぞい?そうそうと皆んなで頷く。
「それなんですが、自分も参加させてもらいます」
と若先生から一言有り、さらに説明がなされた。
「誠に不躾ではありますが、秋桜さんに自分からお願いしたい次第です」
わ、私にですか?と思わず声が出た。
「詳細については、正式道場の師範ともお話しをして頂きたいのです」
はぁ、師範ともお話しですか?
「明日が正式道場の練習納めなのでその後に師範とお話しをお願いしたいのです」
はぁ、まぁ、お世話になっておりますし、ご挨拶と言う事で、僭越ですが皆さんの代表としてお伺いしますね。
と、とりあえずその場を納め、新年の10日の日から練習初めと確認し合って皆さん散開となった。
翌日、正式道場の練習納め後に私は師範にご挨拶をして若先生を交え話し合いへと移った。
師範いわく、私の以前に学んでいた流派の申し合わせ組手を拝見したいと。
私の以前学んでいた流派については、ポンコツ若者達と善治郎さんの騒ぎの際の警察の事情聴取時に若先生の知るところになって師範へと伝わっていたのでした。
申し合わせ組手とは、正式名称を、神技 ・本組手(しんぎほんくみて)と言う。
この神技・本組手は単純に言うと、30パターン以上がありその中で私が、お目にかかった事のあるは、18パターンくらい、そして確実に体現を出来るのは10パターンくらいである。
一応、組手なので相手が必要となりますが?と私は問い返した。
そこは、若先生を相手として御指導をよろしくお願いします、可能ならば60周年記念演武会にて披露していただきたい。と返答された。
若先生からも、よろしくと頭を下げられやむを得ず私は了承する事になった。
おかげで何となくもやもやの気持ちで年末を過ごし新年を迎えたのでありました。
☆
新年、8日の日から練習初めとして私は正式道場へご挨拶の為に向かい若先生と60周年記念演武会への打ち合わせ始めた。
新年、10日の日には、60 or older Club
❨ シックスティ・オア・オールダー・クラブ❩の練習初めに参加して、皆さんと正式道場60周年記念演武会への準備を始めた。
先ずは皆さんの希望を確認し団体形の5人と5人のメンバーを決めて、約束組手は残りの6人で2人一組の3組が決められた。
メンバーが決まれば後はしばらくはそれぞれにおまかせしてワイワイぼちぼちと繰り返し繰り返しである。
私からは、ほんの少しだけアドバイスをするだけだった。
正式道場では、先ず私から若先生へ見本となる動作をお見せする事から始めた。
転位、転体、転技の体捌き受け突き崩し投げ関節取り絞め極めまで攻守それぞれである。
しかしこれらの動作を体得するのは困難でした。若先生が既に身に付けた流派との違いが困難の元になったのです。
組手である以上、攻守互いに同じ動作が必然となるためさらに難しくなります。
しばらく練習を繰り返した後に、攻に徹し、守に徹すれば何とかなるのではないかと一考し、奥の手を私は若先生に提案した。
神技・本組手、短刀取り。
攻は、短刀の扱いのみ、守は徒手空拳にて対する、後は若先生と私、どちらが短刀でどちらが徒手空拳か?であった。
そんなこんなで、如月になってから相対しての練習となりました。私と若先生に、新たにサポート係に直子さんが参加してくれて動画撮影をしていただき動画を見返し確認を繰り返し繰り返しの練習が週2回。
新たにサポート係として参加してくれた、直子さんは若先生のフィアンセです。
60 or older Clubの公園道場練習も盛り上がりを増してきたある日、誰からともなく記念演武会には空手着が必要なのか?の問い合わせがあがり、若先生からは、いつも通りいつものままでと返答がされたのですが何やら物足りない感じがすると不服意見が出たのです。
しかし、皆さんわざわざ空手着を購入する事にも及び腰の様だったので、私からひとつアドバイスをしまった。
お揃いのトレーナーとかジャージとかにするというのはいかがでしょうか?
おぉ~良い良いと賛同を得て、白地のジャージジャケットで背中に、60 or older Clubのロゴを、左胸にシンボルマークとして何故か?桜の花のワッペンを貼ると決めました。
そして当日は、黒色か紺色のズボンで揃えると決めました。1人だけ目立とうと赤色のズボンにするなよ!と笑いながら皆さん楽しく盛り上がって日々が過ぎて行きました。
☆
いよいよ、60周年記念演武会の日となりました。
卯月の25日、早朝から正式道場に人が溢れています。
幼年部に小学生の部、中学生の部に高校生に成人の部、そこに加えて60 or older Clubのメンバーがすし詰め状態で、60周年記念の式典が始まり師範からの御言葉もそこそこに記念演武会が始まりました。
先ずは、幼年部の基本移動の突き、蹴り、方向転換して突いて蹴るを繰り返し元の位置でOKです。
小学生の部は、5人の団体形を基本の3の形、4の形、5の形で流石の演武を披露した。
中学生と高校生は試合形式の模擬試合を3試合、成人の部の女子部が約束組手をおこない男子部が瓦、板、の複数試割りをおこないました。
いよいよ登場、ド緊張の60 or older Club。
メンバー達のお揃いのジャージジャケットで登場に見物の人々から感嘆が漏れ拍手で迎えられ、やや緊張も和らぎ無事に団体形、約束組手をやり遂げた。
約束組手に関しては受け手のパターンを組んだ相手と互いに受け技が異なるバリエーションに仕上げてあったので一段と拍手喝采でありました。
団体形メンバー表
基本形 第1
1 江名子
2 美代子
3 小百合
4 明夫
5 八郎
基本形第2
1 佳乃
2 文美
3 由紀子
4 太蔵
5 順次
基本約束組手
1 萬太郎 & 三郎
2 弥七 & 快治
3 新次郎 & 善治郎
ここで一拍間を取るため師範が挨拶がてらと話し始めた。
「本日は、誠にありがとう御座います。幼年部から小中高、成人の女子男子そして60歳以上の皆さんの日頃の練習の成果をしかと目にさせていただきました」
当日の朝、正式道場の控え室に行くと若先生と直子さんが既に待っておられ、私に紙袋を手渡してくれました。その紙袋の中には真っ白な空手着と真新しい黒帯が、黒帯の前垂れ部になる位置には晴沢 秋桜の名と五本の横線が金文字で刺繍されていたのです。
「不躾で無理難題のお願いにお付き合い頂きありがとう御座いました。我々2人と師範からの心尽くしです」 と若先生。
「是非、本日はこの空手着を着用して演武をお願いします」 と直子さん。
私は有り難すぎて感涙し御礼に頭を下げたまま顔を上げれませんでした。
十数年ぶりに新たな空手着をパリッと身につけ、新たな黒帯をギュッと絞め、2度3度と正拳突きを繰り返し極めを確かめる。
師範からの参加者全員への感謝の言葉が終わり、呼び出しが掛かる。
右手に白地の 60 or older Clubのジャージジャケットを持ち演武会の真ん中へ若先生と共に足を進め背筋を真っすぐに並び立つ。
「改めてまして、ご紹介します。当道場の若 浩一先生と、本日のサプライズをお願いした、60 or older Clubのメンバーである、晴沢 秋桜さんです。流派は違いますが五段位を取得されています」
と紹介され見物の方々も道場練習生達も、仲間であるメンバー達からも驚愕と感嘆の声が漏れた。
ト、トキオさんって、凄いんですね。由紀子さんが呟く。
ん〜やはりただ者では無いと思っとわい。善治郎さん唸る。
他のメンバー達も言葉を失って私を見つめていた。
私は右手に持っていたジャージジャケットの背中のロゴを見物の方々に向けてかざして見せ示した後、手近にいた女の子に由紀子さんを示して手渡しを言伝た。
ジャージジャケットを受け取り静かに胸に抱きしめ由紀子さんの頬が赤らむ。私は由紀子さんにうんと頷き改めて姿勢を正した。
静かに深呼吸をした若先生が演武内容を気合を込めて声に出した。
『神技・本組手、徒手空拳による短刀取り!』
は?えぇ?何をするのかと、一瞬会場の空気が止まる。
若先生の号令に合わせ、互いに礼をし結び立ちから臨戦態勢に相構える。
若先生の左足が一歩前へと同時に左手に握られていた白鞘から短刀が素早く抜かれ右手に握られ最上段に構えられた。
マジ?ヤバっ!?
ギラリと鈍く光る刃が見る者達の視線を集める。
ダッ!!若先生の烈帛の気合と共に鈍く光る刃が振られ斬りつけた。
ダンっと、若先生の右足が大きく踏み込まれる。
それに合わせ後ろへ引いていた右足を前の左足へ継ぎ足で前へ、同時に左手上段受けで短刀を持ち振られた右腕を受け止め空かさず脇腹肋骨へ正拳突きを当て込む、若先生の動きが止まった瞬間に右脚を前へ踏み込み受け止めていた右腕を腕絡みで極め若先生の右足を刈り込む。
私の背に乗った若先生の体が浮き後方へ一回転し床へ叩きつけられる。
うぅわぁ、エグっと誰からともなく声が漏れた。
それが、一本目、二本目は右腕を逆関節で後方へ倒す、三本目は水月につま先蹴りを当て込む、四本目は若先生の後方へ回り込み蹴込みを入れて引き倒す、五本目は短刀を持つ手を裏拳で弾き飛ばし後ろ回し蹴りで後頭部を蹴り込む。
以上の演武を終え互いに礼をし見物の方々一同に礼をした。
あまりに盛大な拍手喝采にやや照れてしまった。
短刀取り
徒手空拳 晴沢秋桜
短 刀 若浩一先生
サポート 山佐直子
何とか無事に?無難に演武会を終え、師範と挨拶を交わし、若先生と直子さんに感謝を伝えた。
師範と若先生と直子さんからは、皐月のゴールデンウィーク明けから引き続き、神技・本組手、徒手空拳短刀取りのご伝授をとお願いされた。
いつの日か、何かの機会に、若先生と直子さんのお二人で、徒手空拳短刀取りの演武を出来る事を目指すのだと。
ここまで御縁を頂いてお断りの理由もなく微力ながらもご協力をお約束をし、引き続き周2回の正式道場通いとなりました。
健康空手公園道場のメンバー16人と私の立場も相変わらずで皆さん良い事や不本意な事を乗り越え日々を過ごし、さらに互いを思いやり助け合い、各人それなりの自信と責任感が芽生え背筋をシャンとして、元気な声が響いています。
えぇーいゃ!!
最高齢、82歳、小百合さんの気合イッパツぅ~!
終。
※
私が以前、主として学んでいた空手は古武術系の柔術空手道と称される流派です。
ココの道場の流派とされる近代空手の開祖の方が、唐より琉球へ伝えられた唐手と昔から存在した琉球武術・テーを複合させ整理整頓された武術が琉球空手であった。
琉球空手を体育系の武道(空手道)として拡める為に開祖の方が本土へ渡って来て柔術空手の流祖となる方と親交して柔術空手道が誕生したのです。
日本柔術の第一人者であった流祖となった方が柔術には当て身術があり、その当て身術に空手の突き、蹴りを複合させ整理整頓をされた武術が柔術空手となった。
故に、空手術なのに投げ術、絞め関節術がありその全てを体現して修得するために必要な鍛錬が、申し合わせ組手とされています。
申し合わせ組手の正式名称を、神技・本組手❨しんぎほんくみて❩という。
神技・本組手のパターンは、30パターン以上と云われ通常に道場練習だけでは全てにお目にかかる事はほぼ無いとされている。
稀に、全国技術講習会等々に参加すると、20パターンくらいにはお目にかかれる事もある。
突く、打つ、掴む、崩す、投げる、関節を絞める、極める。斬る、潰す、折る。素手対素手、棒対素手、刃物対素手、立ち組手、座・据組手等々が多様に組み合わせてある。
黒帯初段を取得するために、神技・本組手の3パターンの修得が必要で、弐段、三段で、5パターン、四段、五段で、7パターン、六段以上で、7パターン以上とされている。もちろん伝承の正確さと精度、質の高さも多分に求められる。
※
耳順の空手道③
耳順の空手道 ❨ じじゅんのからてみち ❩
Episode 審査会
☆
戦わない空手、闘う空手道
☆
60歳から始めよう、戦わない空手、闘う空手道。
60 or older Club
❨ シックスティ・オア・オールダー・クラブ ❩
※
耳順(じじゅん)
六十而耳順・論語
六十にして耳順い、六十歳にもなれば何を聞いても表、裏や真相、本質が自然に理解できるようになると言う。
☆
晴沢 秋桜 (ハルサワ トキオ) 当年62歳。
現在、信州の美ヶ原高原の里の辺りに暮らしています。
この地にやって来てそろそろ2年くらいが経とうとしています。
ただいま、無色(無職)透明、所属も役職も競り合いもしがらみも無しの日々を過ごしています。
やることは、美味い野菜を食うためと良く寝るための日々の散歩と公園道場での健康空手道であります。(週2回は正式道場で少々)
☆
60 or older Club
❨ シックスティ・オア・オールダー・クラブ ❩のメンバーとしてもそろそろ1年くらいになります。
それに加えて正式道場で空手着を着ているおかげかさらに野菜の美味さが増してきている。
やはり空手着で帯を絞めると一段と気が身が引き締まります。正式道場でお世話になっている師範に若先生と直子さんを始めとする成人の部の皆さんとの交流のおかげです。
そんなある日、公園道場練習を終え皆さんそれぞれに労いの言葉を掛けながら家路へとつき始めた頃、由紀子さんからお声が掛かりました。
玄木 由紀子(クロキ ユキコ)さん、66歳になり立てのホヤホヤ。
最近は一段とはつらつと背筋もシャンと胸を張り髪色も艷やかで優しい笑顔が増してきている。
もちろん皆さんもそうなのです、正式道場での演武会での演武の成功が自信となっているのかなと思います。
特に団体形演武成功の為に互いが互いを思い合い志をひとつにした事で心を強くしたと思います。
いわゆる、『 One for all All for one 』
「みんなは1人のために、みんなは1つの目的のために」と言う事。
由紀子さん
あの、相談と言うかご意見を伺いたくて、お話しを聞いていただけますか?
私
もちろんですよ私なんかで良ければどうぞ遠慮なくです
由紀子さん
秋桜さんは、あの日の演武会以来は空手着を着られていますの?
私
あぁ、着てますね、正式道場で若先生と練習をさせていただいていますから
由紀子さん
そうなんですね、かっこよかったです、空手着に黒帯を絞めてる秋桜さんの姿が、ますますココ、胸の中が熱くなっちゃて
と言いながらさらに前へ胸を突き出して見せてくる
由紀子さん
でね実は、何だかワタシも空手着を着てみたくなって、でも公園練習だと皆さんからは浮いちゃうかななんて…
私
あぁ、先ずは、ありがとうございます。でも、わかりますよその気持ちね ウンウンと頷く
由紀子さん
それとね、帯、色の着いた帯を絞めてみいなぁ〜って思いもあってね、演武会の時に小さな女の子も大人の女性の方達もそれぞれに色の着いた帯を絞めてて素敵だなって
私
なるほど、わかりますね、いわゆるあるあるですから、良いんじゃないですか、審査会に参加してみれば
由紀子さん
あら、あるあるなんですか?
でも、正式道場に会員登録して通わないといけないでしょ?
私
ん〜、由紀子さんは公園道場練習はどれくらいの期間やってこられましたか?
由紀子さん
えぇっと、そろそろ2年くらいになりますかね
私
なるほど、それなら正式道場での練習は週1で良いんじゃないですか、私のみた限りの感じではね
由紀子さん
ほんとに?いろんな色の帯がありましたけど…何色になれそう?
私
それは…道場や流派の昇級審査会のシステムによって違いますけど、たいていは、黄色、頑張って、紫色?ですかね?高校生や若手バリバリなら緑色も可能ですけど…
※
9級8級で、黄色
7級6級で、紫色
5級4級で、緑色
3級2級1級で、茶色、がポピュラーな設定とされている。
その他とすれば、もっと細かく各級ごとに、オレンジ色とか青色とかピンク色なんかもある様です。
※
由紀子さん
まぁ、黒帯なんて…夢ですね… とやや意気消沈
私
単に言えば、3年、普通に審査会をかさねていけばね
由紀子さん
まだまだ長いわね…一応ね、参考なんだけど秋桜さんも始めた時は、黄色紫色からでしたの?
私
あ、あぁ…いや、まぁ高校生の時の古い話ですから参考にはならないですよ
由紀子さん
え〜じゃあ、緑色だったの?
私
あはは…いや、茶色でしたね…一発で
由紀子さん
え〜あらま〜凄いんですね~ と両手を握り合わせて見つめてくる
私
まぁまぁそれは置いときましょ、次回、若先生に由紀子さんの事をお話ししてみますから、続きはそれからって事で
由紀子さん
はい、わかりました、よろしくお願いします
私
では、今日もお疲れ様でした。家路、お気をつけてくださいね
そんな訳で、次の練習から公園道場と週1の正式道場通いで、由紀子さん色帯への道がスタートしたのです。
☆
真っ白な空手着に白色の帯が初々しくもシャンとした立ち姿の由紀子さん。
先ずは、移動の基本から。
移動突き、前屈立ちで、順突き、逆突き、に蹴りを入れて、蹴って、突いて、上段上げ受けて突いて、中段外受けて突いて、内受けて突いて、下段払い受けて突いて、手刀受けを前に進む、後ろに進む。
形は、基本形、第1の形と第2の形。
基本の約束組手を、3パターン。
以上の繰り返し、なんと言っても正確に精度を高く気を込めて気合を込めて。
繰り返し繰り返し繰り返しのみである。
ほんの少しだけ厳しめにアドバイスしながら由紀子さんの練習にお付き合いする。
由紀子さんも健気に素直にアドバイスに応えてくる。
私の気持ちとしては、なんとか1回目の受審で紫色の帯を絞めさせてあげたい。
正確に精度が上がれば、ステップアップしてスムーズにスピーディーにをプラスしてゆく。
正確さ精度の高さをスムーズにスピーディーにこなせれば力強さをプラスしてゆく。
リラックスの中の力強さを、緩急で表す。
☆
こうして、3ヶ月程が経ち審査会の日を迎えた。
第一関門は、雰囲気に呑まれない事、普段日頃とは異なる場所で、普段顔を合わせた事も無い受審者同士に審査委員の先生方々、受審メニューを進行する係員の人々からの号令の若干の違いに戸惑うこともある。
私の経験上で言えば、不思議なもので年齢が上がるほどに戸惑いが起こるのである。
審査会会場には応援?というか仲間の頑張りを見届け様と多くの人たちもいる。
ご多分に漏れず私の隣には、公園道場リーダー役の善治郎さんと最高齢の小百合さんが由紀子さんの頑張りを見届けにやって来ている。
早々に号令が掛かり受審者達と審査委員が整列し、お互いに礼をして審査会の開会となった。
進行順番は初めての受審者から上級者へと行われる。
由紀子さんの名前が4番目に呼ばれる、今回の初めての受審者は4人の様だった。
由紀子さんの全身からド緊張が伝わってくるが何ともして挙げられないのが歯がゆい。
それでも無難に移動の基本メニューをこなしていき自分の順番を終える。しばらくは上級者達の移動の基本が終るまでひと休みできる。
しかし、思った以上に由紀子さんの息が上がっていた。心配になった私は審査進行に妨げにならない様にその場から移動して由紀子さんに声を掛けた。
私の声に何とか気づいた由紀子さんにミネラルウォーターを手渡す、今さら何を言っても仕方無いのでただ由紀子さんの瞳を見つめ気持ちの切り替えを促し頷き合い、ミネラルウォーターを受け取り静かに元の位置、善治郎さんの隣まで戻った。
審査会は着々と進行され、基本の形をふたつ、基本の約束組手となった。
約束組手は同じ受審者同士前後で行なわれる、日頃とは異なる相手と直前の簡単な打ち合わせで呼気と間を合わせる事が必要となる。
由紀子さん、緊張と相手の勢いにやや押され気味となるも、はっきりと声を出し気合を表し何とかやり遂げた。
全体的にも難もなく上級者達まで終わり審査会閉会のお互いに礼をで散開となった。
審査会会場の出入り口で、私と小百合さんと善治郎さんとで、由紀子さんを待つ。
しばらくして、ほっとしたっと言う表情の由紀子さんが現れる。
私たち三人で声を揃えて「お疲れ様〜でした」で由紀子さんを迎える。
「ありがとうございました〜」言いながら深々と私たち三人に由紀子さんが頭を下げる。
私
で、どうしますか?これから?
小百合さん
ねぇ、結果はいつわかるの?
私
早いのが良ければこのまま審査委員の先生方々の出待ちして直接聞くですね~
善治郎さん
ほぉ~そんなに早くわかるの?
私
はい、面倒なのは後の免状登録で、それは先生方の作業ですから、由紀子さんどうしますか?
由紀子さん
ワタシは…待ちたいです、出待ちしたいですけど、皆さんは無理の無いようにしてください
私
わかりました、それもあるあるですから出待ちに付き合いますよ
小百合さん、善治郎さん
それならワシらぁは帰りますか?由紀子さん明日にはご報告を公園道場でお願いしますわ
はい、わざわざ、ありがとうございました。とさらに深々と頭を下げる由紀子さん。
小百合さんと善治郎さんを見送り、自販機で私はコーヒーペットボトルを、由紀子さんはほうじ茶ペットボトルを購入して二人肩を並べて出待ちした。
☆
二人で簡単なお祝いに帰りの道すがらのファミリーレストランに立ち寄る。
ジンジャエールを注いだグラスを小さく掲げて優しく当て合う、ティン〜んと。
私
由紀子さんよく頑張りました、見事に紫色の帯ですよ今からね、若先生に帯をお願いしときましょう。
由紀子さん
ありがとうございました、秋桜さんが辛抱強くアドバイスしてくださったからです。
私
いえいえ私は何もしていません、全て由紀子さんの努力、諦めない気持ちがチカラになったからでした。
※
闘う空手道として積み上げ身につけた努力は報われる。継続は力なり!
※
由紀子さんの成長はまだまだ始まったばかり。私も可能な限り見守ってあげたいと思います。
さぁ明日、公園道場で、60 or older Clubの皆さんに報告に参りましょう。
ね、由紀子さん。
終。
※
そもそも武術には段位などという設定は無かったのです。当然、級の設定などは思いも付いていなかった。各流派の道場へ通い修練した年数と流派の継承の心技体を得たとされた者が師範より免状授与をされる、可か否かとされていた。免状授与は現で言えば、弐段くらいである。
後に武術が武道となり体育教育の代表的な柔道が世間一般に広まった、広まると道場の練習生が溢れる。
免状授与されたとはいえ端から見ても違いがわからない、とりあえず道場の壁に名札を提げた。師範〇〇、師範代〇〇、免状者〇〇、門下生〇〇と、しかし名前と御人とが一致しないとなった。
そこで、免状授与者以上は、黒帯を絞め、門下生は白帯とした。
すると黒帯同士での序列に意見が出て段位を作り段位分けが始まったのです。
すると当然、白帯の序列にも意見が出る、ならばと苦肉の策で級の設定をしたのです。
弐段以上が黒帯、初段が茶帯、以下は白帯。
空手道でいえは第二次大戦以降に新興団体として広まった会派、会館派の流行と中学生以下の少年少女達への流行が後押しとなりわかりやすく各級で色分けされ色々な色帯が広まったのです。
現在では、新興団体空手道も伝統空手道も当り前の様に色帯を絞め、スポーツ化するためのわかりやすさとして推奨しているのです。
ただ、スポーツ化することに力み過ぎて、伝統空手道としての流派流儀が置き去りにもなってもいるのも事実です。
戦わない空手道、護身の術、流派流儀の先人の術を未来へと伝え繋ぎたい。
疾風迅雷の如く!進むは伝統の道。
※
耳順の空手道④
耳順の空手道 ❨ じじゅんのからてみち ❩
Episode 本能
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戦わない空手、闘う空手道
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60歳から始めよう、戦わない空手、闘う空手道。
60 or older Club
❨ シックスティ・オア・オールダー・クラブ ❩
※
耳順(じじゅん)
六十而耳順・論語
六十にして耳順い、六十歳にもなれば何を聞いても表、裏や真相、本質が自然に理解できるようになると言う。
☆
晴沢 秋桜 (ハルサワ トキオ) 当年62歳。
現在、信州の美ヶ原高原の里の辺りに暮らしています。
ただいま、無色(無職)透明、所属も役職も競り合いもしがらみも無しの日々を過ごしています。
やることは、美味い野菜を食うためと良く寝るための日々の散歩と公園道場での健康空手道であります。(週2回は正式道場で少々)
60 or older Club
❨ シックスティ・オア・オールダー・クラブ ❩のメンバーとしてもそろそろ一年と半年くらいになります。
それに加えて正式道場で空手着を着ているおかげか、最近はさらに野菜の美味さが増してきている。
☆
玄木 由紀子(クロキ ユキコ)さん、当年66歳。
現在、空手道の紫帯7級である。
最近は一段とはつらつと背筋もシャンして胸を張り髪色も艷やかで優しい笑顔が増してきている。
おそらく、当年の様には見えないであろう立ち姿である。
まだまだ遠いですが、黒帯を目指す事を念頭に置き、できるだけ精進し続けるために次回の昇級審査会も受審すると宣言された。
由紀子さんは、62歳の時に連れ合いを心筋梗塞により突然に亡くされた。
それから、1年間程は塞ぎ込み当年とは思えぬくらいに老い込み周囲は見ていられなかったと。
そんな時に、
60歳から始めよう、戦わない空手、闘う空手道。
60 or older Club
❨ シックスティ・オア・オールダー・クラブ ❩の発足があり周囲に誘われしぶしぶと参加していたらしい。
そんなしぶしぶでも公園道場で身体を動かし声を出して笑いあう仲間が出来た事で背筋もだんだんと伸びてくる。
ぼちぼちとゆっくりと健康空手道が気持ちを前に向かせてくれた。
日課となった公園道場の健康空手道も2年も経とうとした頃、その公園の端っこで遠巻きに見物していた私に声を掛けてきた。
☆
17歳、高校生の部活動として始まった空手道。
何だかかんだと紆余曲折ありながら、50歳まで続けはしたものの己の意思ではなく周囲の事情に巻き込まれ次第に自己鍛錬の為の武では無くなり今更ながら自己を見失う状況に…
それに重ね、色々諸々の事情で私事でも自己を見失い途方に暮れる事に…
一人息子が家族を持ち家庭を持ち独り立ちしたのをきっかけに不仲となっていた連れ合いと別れ、自己不本意となった空手道からも離れひとり自己のためだけに自分探しの為の時を過ごしたいと思いながら数年を過ごし、後に信州の地へ移ってきた。
信州へ移り住んで、1年くらいが経とうとした頃に興味本位に覗いた公園で、和やかに公園を道場代わりに健康のための空手道に楽しむ方々を眺めていた時、柔らかで優しい笑顔の御婦人が声を掛けてこられた。
その時が、私と由紀子さんのファーストコンタクトでした。
なんとなく由紀子さんに肩を押され気味に流に任せて、60 or older Club
❨ シックスティ・オア・オールダー・クラブ ❩の仲間に入れていただき、良い事もあり難な事もありながらも、新たな空手道に出会えたと思える今日このごろです。
由紀子さんからの昇級審査会受審継承宣言で、週2回は正式道場へ通いたいと相談され、ならば私と同じ日時に通う事で微力ながらもご協力の継承も可能かなとお答えし、2人での正式道場通いが始まった。
☆
私の愛車の助手席に不思議と毎回ややはにかみながら乗り込む由紀子さんと正式道場通い始め季節も進んだ初夏の頃に由紀子さんからお誘いがあった。
花火大会、ご一緒に出かけませんか?葉月の第一周目の週末に開催される信州千曲花火大会に?
あぁ、良いですね、ちゃんと花火大会を見物に行くなんて何年ぶりだろうと、私はなんとなく答えた。
信州地区は何かと花火大会が多くわざわざ出かけなくても遠くの夜空に打ち上げ花火を見ることがよくあるのです。
そんな私のなんとなくの答えに嬉しそうな笑顔を向けながら約束の指切りの小指を差しだしてきた。
これまた、指切りなんていつ振りだろう…あたふたと私もつられる様に小指を出した。
指切りげんまんをして嬉しそうにはにかむ由紀子さん。
信州千曲花火大会の当日、信州地区は完全な車移動社会なのだがさすがに大渋滞を避けるため遠回りだが、地元ローカル鉄道を利用して大会会場までたどり着いた。
地元ローカル鉄道の最寄りの駅で待ち合わせして2人で列車に乗り込む、これまたなんて久しぶりの列車移動。
最寄りの駅の入口で立たずみ私を見つけて小さく手を振る由紀子さんに乙女のような初々しさを感じた。
いつも、トレーニングウェアか空手着の姿を見慣れているせいかこの日の出で立ちに躊躇われるくらいの色香を感じていた。
やや茶色に染められた髪色、アップに纏められた首筋、白い肌が短めの半袖から強調され、さらにタイトなブラウスに強調されたバストの盛り上がりからのウエストライン、膝上丈のタイトスカート、タイトスカートから覗く白い肌の膝頭からふくらはぎのラインの色香を上げるハイヒールスニーカー。
紺色、黒色、紺色がさらに白い肌を艷やかに引き立てている。
下世話な表現だが、マジでいい女、だなぁと見惚れた。
私と由紀子さんは、肩を寄せ合い、時々触れ合う真夏の半袖の腕の素肌と素肌に戸惑いながら列車に揺られ、並んで歩き、花火会場の升席で夜空に咲く光の花びらを見上げた。
花火大会の第一幕と第二幕の合間の休憩時間に売り子さんが升席の通路を行き交っていた。
ふぃに、由紀子さんが手を挙げ売り子さんを呼び寄せる。
売り子さんから飲み物を受け取りひとこと言い添え支払いを済ませた。
最近は、安全性や後処理の統一のためにほとんどがペーパーカップドリンクになっている。
ペーパーカップドリンクの生檸檬チューハイをひとつだけ買い、ひとくちふたくちと口にするとほんのりとルージュの付いた部分を見せるように私に手渡してくる。
なるほど、ここで違う所に口を付けるのは野暮だと察してルージュの付いた部分に重ねてひとくちだけドリンクを口にして、由紀子さんに手渡し返した。
手渡し返されたカップのルージュの付いた部分を見つめて由紀子さんが呟いた。
間接chu〜しちゃったわね、秋桜さんたら〜、と言いながら自分で照れている。
またふたくちほど口にして私の肩に頭をつけて、何だか酔っちゃったの由紀子さんの囁きを聞きながら時間はちゃんと過ぎていき花火大会もフィナーレを迎えた。
フィナーレの後は一斉に帰路に着く人並みに揉まれ私と由紀子さんは身体を寄せ合い腕を組み絡ませ合いそろりとそろりと進んゆく人の流に任せていた。
こんなに人並みの人の多さに流されていてもぽっかりと抜け落ちた?抜け出た様な無のエリアがあるもので、灯りも届きにくい無のエリアに嵌まり込んだ私と由紀子さん。
どちらからともなく歩く足を止める、由紀子さんの腕が私の身体を抱きしめてくる。反射的に抱きしめ返すと由紀子さんの顔が私の顔の前に近づき唇を触れ合わせてくる、まるで時が止まったかの様に唇を触れ合わせたままだった。
どれくらい触れ合わせていたかはわからなかった、唇が離れた時、由紀子さんが何かを呟きかけたが私はその呟きを遮りもう一度しっかりと抱きしめた。
どちらからともなく手を繋ぎ腕を組み絡ませ合い身体を寄せ合い、混み合う列車で最寄りの駅まで揺られ、後はぶらぶらと由紀子さんの自宅まで歩いた。
自宅前で向き合うと、こんな時間ですけど、少しだけお寄りになりませんか?と問われる。
私は構いませんけど、大丈夫ですか由紀子さんは?と問い返す。
はい、心づもりは出来ています。そう言いながら私の手を引き寄せ玄関ドアの中まで招き入れられる。もうその場で由紀子さんは私を抱きしめていた。
そのまま由紀子さんが思いの丈を吐き出す。
お願い、お願いですから、一度だけ一度だけで良いからワタシを、ワタシを女にしてください、秋桜さんの事が好きで大好きでたまらないのです!
これまた俗な言い表しですけど、男冥利に尽きる言葉だとありがたく思う。
しかし、敢えて私は冷静に由紀子さんに確かめを問う。
由紀子さん、落ち着いて、一度だけの後に空手道を辞めない事、公園での健康空手も正式道場での昇級審査へ向けての練習も、両方の道場の仲間とも離れない事を約束してください。
はい、もちろん心得ています。お約束致します。
由紀子さんの気持ちはちゃんと固まっている様だった。
もうひとつ、と少し意地悪な問いかけをする。
もし、一度だけで終わらなかったら、二度三度、それ以上に由紀子さんに私が溺れてしまったらどうしますか?
その言葉に、えっ、ハッと息を呑む由紀子さん。
もし、もしも、そうなったらワタシを秋桜さんの好きな様に、由紀子をお好きなように扱ってくださって構いはしません。それはそれで本望かもしれません。
それほどまでに強く思ってくれている言葉に覚悟を感じ、私はその場で衣服を自ら全て脱ぎ捨て、由紀子さんの衣服を全て剥ぎ取った。
☆
instinct( インストゥィンクト )
背の丈、158センチに、B83- W 59- H89のスリーサイズの一糸纏わぬ由紀子さんをベッドへと押し倒し唇を重ね唇をこじ開け舌を重ね絡ませ吸う、もっと強くもっと激しくもっと淫らに、そそり立つバストを無理矢理潰す様に揉みくちゃに強く激しく手のひらで、舌で、唇で、歯で甘咬み尽くす、両脚を両手で開け開き茂みの奥を舐め尽くしさらなる奥まで吸い尽くし、蜜を溢れさせる奥へと己を挿し入れる、強く激しく奥まで交わりもっと奥まで激しく強く交わり合いながら舌を絡ませ唾液の一滴まで容赦なく求め合いながら一番奥の奥に雄のエキスを注ぎ込む。
そのまま私と由紀子さんは互いに一糸纏わぬ姿のままで眠りに就いた。
早朝に由紀子さんが起き出し一糸纏わぬ姿のままでお花畑へ、私も続いて一糸纏わぬ姿のままでお花畑へ、戻るなり一糸纏わぬ姿ならでのまま6と9の型ちで身体を重ね合わせ互いの秘たる部分を舐め合い由紀子さんの身体を私の上に乗せ交わり合い交わり合った奥の位置に雄のエキスを注ぎ込み、二人重なり合い再び眠りに就いた。
朝の陽どころか、暑さが増してくる時間に私と由紀子さんはやっとベッドから抜け出た。
お寝坊さんしちゃったね。 嬉しそうに由紀子さんが私の頭を撫で撫でとする。
真っ裸にエプロンをした由紀子さんが用意してくれた、遅めの朝めしを食った。
食った後は、真っ裸にエプロンでキッチンで洗い物をする由紀子さんを背後から抱きしめ首筋から下へ下へと舌を這わせ臀部の谷間まで舌を這わせ喘ぎうねらせるウエストを捕まえ真後ろから交わり合い交わりの奥に雄のエキスを放つ。
☆
私は、昼を過ぎた頃やっと由紀子さんの自宅を後にした。
帰宅すると真夏の暑さのこもった自宅の窓を全て開放してベッドルームのエアコンの設定温度を18度まで下げてガンガンに稼働させ、衣服を脱ぎ捨て洗濯カゴへ放り込み、敢えて熱めのシャワーで全身泡だらけにしてまとわりついた汗を洗い流す。
冷蔵庫から、翼をさずけるエナジードリンクを取り出しベッドルームで全身をクールダウンしながら乾いた喉にエナジードリンクを流し込む。
完全に冷え切ったベッドルームのエアコンをオフにして真っ裸のまま眠りに就いた。
しばらくすると玄関チャイムが鳴り鍵の開けられひとりの女性が入ってくる。
こんにちは、コトネでぇす。
琴音(コトネ)さん、当年50歳。
元々は、家事代行として週に1度の利用契約だったのだが、彼女からの申し出でで家政婦へと契約変更をし彼女の気の向くまま都合の良い時々にお任せしている。
琴音さんは、勝手知ったるとキッチン、バス、トイレ、リビングの掃除、片付け整理整頓を手早くおこなった後にベッドルームへと入ってくる。
まぁ、真っ裸のまんまで、コスモスさんったら〜と独り言を言いながら自分も衣服を脱ぎ始める。
真っ裸になった琴音さんが私の眠っているベッドへと近づき膝まづき、私の一部を愛おしそうに撫で始める。しばらく撫でると先っぽに口を近づけ舌を出しペロリペロリからパックリとくわえ込むとモゴモゴともて遊び、遊び終え大きくなった私の一部の上に跨り自分の中へ、ググッと挿れて、背丈148センチ、B80W57H80のボディを腰からDancingさせ始める。
いつもの事、いつも通りなので私も目覚めていたけれど、琴音さんにお任せし琴音さんがイキ、私から雄のエキスを自分の奥で搾取出来れば終わりとなる。
午後3時、琴音さんのスマホからエリーゼの…メロディで真っ裸のままティータイムになる。
紅茶にショートケーキ、シュークリーム、エクレア等々スィーツは日替わりである。
ティータイムが終わると琴音さんは衣服を身に着け帰り支度を始める。
とりあえず私もトランクスだけを身に着け、琴音さんとディープに口吻を交わしてお見送りの台詞を言う。
いつも、ありがとうね、助かってるよ。
うふふふっと微笑みながら、じゃあまたね。手を振りながら琴音さんが玄関ドアを開け出ていく。
見計らった様に私のスマホにMessageの着信お知らせが、
『花火大会、ありがとうございました。その後のワガママも叶えていただいて嬉しかったです、少し前まで余韻を感じながら惰眠をむさぼっていました、由紀子』
『こちらこそ楽しい時間でした。明日、公園道場にて』拳マークとウィンクマークを添えて。
『はい、ファイテン〜』拳マークと笑顔マークが添えられていた。
『二週間後くらいにまた』kissマークを添えて。
『はい、心得ました』kissマークとHeartマークが添えられていた。
それから、さらに、私は、惰眠をむさぼる。
終。
耳順の空手道⑤
耳順の空手道 ❨ じじゅんのからてみち ❩
Episode 野試合・形
☆
戦わない空手、闘う空手道
☆
60歳から始めよう、戦わない空手、闘う空手道。
60 or older Club
❨ シックスティ・オア・オールダー・クラブ ❩
※
耳順(じじゅん)
六十而耳順・論語
六十にして耳順い、六十歳にもなれば何を聞いても表、裏や真相、本質が自然に理解できるようになると言う。
☆
晴沢 秋桜 (ハルサワ トキオ) 当年62歳。
現在、信州の美ヶ原高原の里の辺りに暮らしています。
ただいま、無色(無職)透明、所属も役職も競り合いもしがらみも無しの日々を過ごしています。
やることは、美味い野菜を食うためと良く寝るための日々の散歩と公園道場での健康空手道であります。(週2回は正式道場で少々)
60 or older Club
❨ シックスティ・オア・オールダー・クラブ ❩のメンバーとしてもそろそろ一年と八ヶ月くらいになります。
それに加えて正式道場で空手着を着ているおかげか、最近はさらに野菜の美味さが増してきている。
☆
真夏の暑さも落ち着いて、そろそろ秋の気配を感じたく思い始めた頃。
信州の暑さもなかなか暑いです、昼間は…それでも夜は都心や街中とは違い、熱帯夜が無い!夜中のエアコンの稼働が無い!
いつも通り、30分の散歩から公園道場での健康空手道を終えてそれぞれに労いの言葉を掛けながら帰り支度を始めた時、何やら大きな声を出しながら近づいてくる70歳前後の男性がいた。
リーダー役の善治郎さんと傍らに美代子さんが、その男性の話しを聞いて、説明をし始めた。
その様子になんとなく帰りそびれた私と由紀子さんと江名子さん。すると美代子さんがトコトコと駆け足で私たちの所までやって来て話し始めた。
あの男性と善治郎さんが言い争っていて、何だかマズそうな事になる雰囲気なのよ。
はい〜どう言う事? 三人同時に声が出た。
んとね、あの男性が何してるって聞いてきて、善治郎さんが空手だって言ったら、あの男性があんなちんたらな空手が何の役に立つって、善治郎さんが健康の為に役立つ健康空手道だって言ったら、あの男性が善治郎さんに、あんたが先生か?って聞いて、違うリーダー役なだけだって言ったら、黒帯の何段だって、弐段だって言ったら、ワシも弐段だって言って善治郎さんに三段を受けた事はって聞いて、無いって言ったら、ワシはある、ならワシの方が上だからワシが新しいリーダーになってやるって言って善治郎さんが2週間に1度、三段の若先生が指導に来てくれてるって言ったら、その先生のいない時はワシが指導してやるって、そんなのいらないって善治郎さんが断わったら、やかましいワシの方が上なんだから言う事聞けって、聞かんって善治郎さんが断わったら、あの男性が、なら勝負や、組手か?形か?って、組手は約束組手だけで自由組手はやって無いって善治郎さんが言って、男性が形は何やってるって聞いてきて、基本1の形と2の形だって言ったら、なら形で勝負やって、勝った方が上、リーダーだって、そしたら善治郎さんが、おぅ受けてやるって…どうしましょ?
どう言うながれ?って言うかあの男性は何処の誰なのよ?
江名子さんが問う。
なんでも、そこの温泉地の入口の分譲地に家建てて引っ越してきて3ヶ月くらいなんだって。
美代子さんが答える。
で、何故ここへ? 江名子さんが問う。
周辺散策散歩中にここの公園を見つけたら私たちが空手してたから気になっていたらしわ。
美代子さんが答える。
そんなこんなの解説を聞いている間にあの男性は居なくなっていた。
鼻息荒く、ノシノシの雰囲気で善治郎さんが私たちの所までやって来た。
善治郎さんどうするのよ?問う、美代子さん。
どうもこうも無い、やるしかない!
息巻く、善治郎さん。
もやもやと地団駄をふむ、美代子さんと江名子さん。
何とかならないの秋桜さん?
空手道仲間のスタンスで由紀子さんが聞いてくる。
ん〜、まず、勝負やって言っても何を持って勝ち負けを決めるのか?
たぶん勝つつもりだろうから何かのカラクリがあるかも?
あとは、基本の1と2の形しか出来ないからと高を括ってるか?
と思考を口にしてみる私。
で?いつ勝負にくるのあの男性は?
問う、美代子さん。
来来週の金曜日って言うたわ。
答える、善治郎さん。
え〜二週間後じゃないのよ〜
声を上げる、江名子さん。
特訓するとか?どう秋桜さん?
問いかけてくる、美代子さん。
正式道場へ行ってみます?
問いかけてくる、由紀子さん。
いや〜2週間程じゃ正式道場に行っても変らないかと、それよりココでしっかり練習した方がいいかもね。勝負はココでやるって感じでしょ?
私も、思案はしたもののやはり善治郎さんを特訓するしかないと思い、また明日にしましょうとその場は散開とした。
帰りの道すがら、由紀子さんが善治郎さん大丈夫かしらと聞いてくる。
あの男性が何を考えているのかわからないけど、私から善治郎さんに勝負って言うか試合形式の形の打ち方、コツを教えてあげて後は善治郎さんの気持ち次第かなと、それと若先生にはお知らせしときましょう。
うん、そうね。同意の相槌をうち私の腕に寄り添ってくる由紀子さん。
別れ際に、ディープな口吻をし、お疲れ様、また明日。と手を振り合う由紀子さんと私。
☆
翌日、昨日の曰くと経緯を知ったメンバー達が私と善治郎さんの周りを心配顔で囲む。
私は善治郎さんに形は1と2とどちらが気持ち良く打てるのかを尋ねた。
ん~~2の形かのぉ?
思案顔で答える善治郎さん。
なるほど~じゃ2の形を打ってみてください。
と私は促した。
善治郎さんは、
おぃす、と囲みの真ん中で用意の足幅になりチカラを込めて形を打ち始める。
ホイ、ホイ、ホイのホイ、ホイ、ホイのホ〜イ、ホイ!ホイ、ホイ、ホイ!そんな感じで全ての挙動が終わり元の位置よりまぁまぁズレて用意の足幅で立っていたが、やむ得ないかなと思う。
では、改めてお手本と言えるほどではありませんが、ご参考になればと思います。
そう前置きをして善治郎さんに代わり私が囲みの真ん中へ立つ。
まずチカラを入れ過ぎず、爪先と膝、拳・指先と肘を意識して的確に動かす。
用意の足幅からリキまず、爪先、膝、拳、肘を同時に動かします。
スッ、パッシパッシ、スッ、パッシパッシ、腰と上半身を意識して、スッ、パッシ、バッツ、バッツ、バッツ、バァッツ!挙動の止め極めだけを意識して的確に動かし全ての挙動が終わり元の位置に始まりと同じ位置に戻る。
ぅおぉ~と囲んだメンバー達から拍手が起こる。
俺等と同じ形を打ってるとは思えんなぁ〜と感心の声が誰からか聞こえてくる。
いやいやと手を振りながら私は、善治郎さんと立ち位置を代わりもう一度、形を打ってもらう。
ローマは一日にして成らず、根気よく繰り返し繰り返しが積み重なりチカラに成る。
己の諦めない気持ちが積み重なりチカラに成る。
闘う空手道の本筋だ。
次の日、正式道場での練習を終えた私と由紀子さんは若先生に先日の善治郎さんの件をお知らせした。直子さんも心配顔で並んで聞いている。
わかりました、善治郎さんへのアドバイスは秋桜さんにお任せします。金曜日の日には様子を見に行きます。
と若先生と直子さんが約束をしてくれた。
正式道場からの帰り道、由紀子さんの自宅の少し手前で一旦愛車を止め口吻を深く交わし合ってから改めて自宅前まで送り届ける。
全身をリキまずチカラを止め極めに意識してをアドバイスしてから一週間、繰り返してきた善治郎さんへ次のステップアップをアドバイスする。
リズムを取る、間を取る、気持ちを込めて声に出す。
スッ、が1、パッシパッシ、が2、スッ、が3、パッシパッシ、が、4として、10個に分解して声に出してリズムと間の意識を刻む。
私が体現して形を打ち、善治郎さんに影追いで体で覚えてもらう。
良くも悪くも、来来週と言われた金曜日の、当日としてやって来た。
☆
善治郎さんは、いつも通りに白い上下のスウェットに黒帯をギュッと絞めて精神統一をする。
後方には、60 or older Clubのメンバー、私と善治郎さんを除いた15人が並んでいる。
そこへあの男性が現れる。丸め体格にぱつぱつの空手着に少し短め黒帯を絞めて、後方に若い男子と女子が付き添っていた。
形試合対応用に整えたスペースの手前まで美代子さんが小走りに駆け寄り男性を誘導する。
試合係員役を買って出てくれた直子さんがサポート、進行してくれる。
ふんぞり返った男性に、名前を問い合わせにいく。
わたしは、正式道場からサポートに参りました、山佐 直子と申します。お名前をお願いします。
うむ、ワシは、岩谷 益男、黒帯弐段だ。一度、三段受審で惜しくも受からんかった。
あ…はい、では、ご紹介致します。今回の審判をお願いしました正式道場の若 浩一先生、三段と…
その紹介の言葉に男性が、さん…ウゥゥと唸る。
続けて、若 浩一先生が御指導していただいています、晴沢 秋桜先生、五段です。
さらにその紹介の言葉に男性が後ずさり、ご…ウゥゥわぁぁと唸る。
では、岩谷 益男さん、流井 善治郎さん、演武する順番を決めます。では、コイントスで決めます。どちらが表、どちらが裏を決めて下さい。コイントスしてわたしの手のひらで示された方が先に演武していただきます。
二人が頷くのを確認し直子さんが二人にコインを見せてから、右手でトスをし空中でキャッチして手のひらを閉じたまま差し出した。
すかさず、岩谷益男さんがコールした、表!
続けて静かに善治郎さんがコールする、裏。
ゆっくりと直子さんの手のひらが開かれる。
表です、岩谷益男さん先に演武、善治郎さんは後で演武です。
はい!とはっきりとした声で善治郎さんが返事をし一旦演武スペースから出る。
それでは、岩谷益男さん、先に演武をお願いします。
おっす、と今だにふんぞり返り、礼節もおざなりに斜めに横切る様に足を進めスペースの真ん中に立った。
おどおどと、礼をし演武形名をコールした、〇〇〇!
ん?何?なんて言ったの…と、60 or older Clubメンバー達がザワザワする。すかさず直子さんが、しぃ~と人差し指を自分の口に当てる。
その様子を見止めた、岩谷に付き添っていた男子が、くすくすっと笑い隣いる女子にボソボソっと呟く。
〇〇〇、知らねぇんだ。
しかし、形名をコールしたまま岩谷益男はジッと動かないでいた。
ん、と私と若先生が同時に気づき若先生があわてて右手を上げ、スッと前へ突き出した。
途端に岩谷益男は、ズズッ〜ジワッ、と両腕を前へ差し出し、ホイさと前蹴りをしてドスンと着地した、それを反対側へも繰り返し、正面に体を向き変えズン、ズン、ズンと進む、ズンズンズンの調子で演武をし終えた。
岩谷益男の付き添っいの女子男子が勢いよく拍手をし、それに合わせる様に60 or older Clubのメンバー達が、ぱたぱたと拍手をする。
ん~~ハァハァと息が上がったまま礼もそこそこに岩谷益男は演武スペースから出ていく。
次、流井 善治郎さん、演武、お願いします。
直子さんの呼び出しがかかる。
はい!しっかりとはっきりと返事をする。
気をつけの姿勢から対戦相手に礼をし、演武スペースの端に合わせ足を進め、中央辺りで45度体を向けなおし、正面に礼をし演武スペース中央まで足を進め気をつけで立つ。
静かに息を吸い、演武する形名をコールする。
基本形、第2!
そのコールに岩谷益男と付き添っいの女子がプッと吹き出す。男子が、マジか?と天を仰ぎ、こりゃ楽勝だなじっちゃん、と呟いた。
すかさず直子さんが睨みつけると、フンと岩谷益男がふんぞり返る。
用意の位置まで足幅をとり、一呼吸して善治郎さんの体が挙動した。
タン、タンタン! タン、タンタン! スッ、パァン、パッシ、パッシパッシパッシ!!
キレ、極め、呼気と間、渾身の気合が響き、息乱れること無く全ての挙動を終え、用意の足幅に戻った。
※
形試合で『始め』と審判から声は掛からない、右手を上げ合図する場合は選手が二人並んで同時に演武する場合でひとり一人での演武の場合は始まりは選手自身のタイミングにお任せが通常である。
※
60 or older Clubのメンバー達が勢いよく拍手をする、岩谷益男と付き添いの女子男子は息を呑み黙り込む。
善治郎さんが礼をし演武スペース後方端に移動し気をつけで待つ。
岩谷さん、こちらへお並び下さい。
直子さんが呼び込み、左に善治郎さん、右に岩谷益男が並び立つ。
直子さんがコールする。
それでは、判定をお願いします。判定ぃ!
若先生と私の左手が同時上がる。
左、流井善治郎さんの勝ち!
直子さんのコールが響く。
シャアー!!歓喜と拍手が60 or older Clubメンバー達から響いた。
同時に岩谷益男と付き添いの男子が抗議の声を出した。女子は息を殺し俯き唇を噛んでいた。
岩谷益男から、〇〇〇と基本形で何で〇〇〇が負ける?男子から、あんたらグルだろうと。
その抗議に、若先生が一歩前に出て苦言を呈した。
何の形とかどんな形とかでは無く、形を活かすキレ、極め、呼気と間を正しく演武出来ていたか?否かです。それからキミ、と男子を指差しながら審判に対してグルだろとは無礼ですよ言葉を慎みなさい。
いかがですか?と私に若先生から評価を求められた、気分的にはやれやれと嫌な感じだったが、それでは一言だけ、と私も一歩前に出て苦言を呈した。
岩谷益男さん、男子さん女子さん、空手道とは、からてみち、とも読みます、みちとは人の道です、礼に始まり礼で終わる、礼節を持って互いをリスペクトして認め合いの心を持つと言う事です。
勝ち負けよりも握手して終わりにしませんか?
私の言葉に、先に善治郎さんが一歩前へ動き右手を差し出した。
岩谷益男はその右手を睨みつけるとさらに悪態をついた。
なぁにお~五段だからって偉そうにしやがって!
ほとほと話しにならない男だなと思いながらも、一応、説法として説いておく。
段位に偉そうにはありませんし、他の者にひけらかす為でも、他の者と比べる為でも無く、段位とは己が求める道に対して探究し鍛錬して稽古を重ねて行った結果の道標です。段位を取得するとはその時その時の己の魂を満足させ次へ次へと進める為であり探究と鍛錬に終わりはありません。
もう少しゆったりと謙虚に考えてみませんか?
すると、女子が一歩前に出てきて、ペコリと頭を下げ、「お騒がせして申し訳ありませんでした。そして、本日は、祖父の為に、この様な場を作りいただき、ありがとうございました」と素直に気持ちを伝えてくれた。
☆
日常の五心
一、「はい」という素直な心
一、「すみません」という反省の心
一、「私がします」という奉仕の心
一、「おかげさま」という謙虚な心
一、「ありがとう」という感謝の心
お騒がせ試合の以降も変わらず60 or older Clubの皆さんは、ワン・フォー・オール・オール・フォー・ワンの健康空手道を楽しんでいます。
終。