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マーシャル・マキシマイザー
今日も私は臨界実験に付き合う。
およそ14|听《ポンド》程の重さの塊が核兵器になろうとは誰も思うまい。
あの実験に参加するなど、自ら命を投げ捨てるようなものだ。
ガラス越しから見る|研究者《かれら》が、とても愚かに見えた。
傍から見ればその姿は気が狂っているようにも見えるだろう。
だが彼らも我らと同じ人間。悪魔のコアを前にして恐れ慄いているはずだ。
つまりあれは所詮、気が狂うヒトの振りをしているだけに過ぎない。
そんな彼らの姿を私は観ている。
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多くの科学者はこの実験の危険性を理解し、彼らを早々に切り捨てた。
その判断は聡明だと思われる。
一歩間違えれば死ぬような代物を安全に実験するなんてことは出来ない。
そんな実験に私は参加しているのだが。
勿論、研究者ではなく監視員として。
こんなモノに無為に期待を背負わすなんて正気の沙汰では無い。
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また別の日の深夜。不慮の事故が起きた。
寝不足で意識が朦朧としていた研究者に担当が回ってきたのが運の尽きだった。
この実験において唯一の安全装置であるドライバーが、外れた。
カッと眩い目に焼き付いた青の閃光。
走馬灯のように流れ行く、私のモラトリアム的人生。
デーモン・コアは重なり合った。それは最大公約数の緩衝材のように。
ああ、私達はこれから人では無くなる。私達は人でなしだ。
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--- 失敗 ---
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実験者は咄嗟にコア同士を払い除け、光は止んだ。
そんなことをしても死は免れないだろうに。
哀れな実験への|追求者《マキシマイザー》よ。
私以外の監視員が叫び、慌てて彼らに駆け寄った。
「なんてことだ!死んでしまう!」
だがこうしている間にも、彼らの|寿命《ツマミ》は回っていく。
雁字搦めな実験室内では阿鼻叫喚が続いていった。
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実験の失敗により、今までに掛かった莫大な|埋没的費用《サンクコステス》。
掛かった時間も、費用も。全ては取り返しがつかなくなった。
研究者たちはこの費用を取り戻そうとし、この研究を続行させる気だそう。
そしてまた事故は起こることだろう。
これではまるで無限地獄へ堕ちているようだ。絶対に抜け出せない地獄へ。
彼らは一筋の薄っすらと輝いた光と言うなの"希望"に手を伸ばした。
だが眩みバランスを欠いて遠くへ乖離した!
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唖々、前回の事故から生還した私はあの忌まわしい実験を知らせるアラームを
聞く羽目になった。とても気が滅入る。
チェルノブイリ原発の4号炉で、これから大規模な事故が起こる。
そんなことを知る由もない我らは旧四ロンドを微笑う劣等だ。
私は研究者に言う。前回の失敗を「如何しようもないから」の一言で済ますのか?
気が狂うヒトの真似をしているキミへ。
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事故は突然起きるものだ。今度は担当研究者の不注意による大失態。
この現状に|後悔《エゴ》が暴走している彼ら。
手に焼き付いた青の残像を呆然と見つめる哀れな|追求者《マキシマイザー》。
与えられた猶予に甘えた、モラトリアム的人間達。
眼の前に差し出された最大公倍数の断頭台。
今度こそ、死が迎えに来たようだ。
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「参っちまうな、|追求者《マキシマイザー》。」
私は一言呟いた。
救世に愛待って焦がしたって繰り返される凶行にはもう懲り懲りだ。
|追求者《マキシマイザー》が死んだって。あの悪魔の核がある限り。
今回も核があるか確認し、叫んだ。
「なんてことだ、生きてしまう!」
私は生き続けるしかない。
この実験のために造られた、監視員としての自分を。
恨みが逆巻く惨事に意見も出来ない私の意思は追い出される。
ああ、お前らを精一杯怨もう。|軍事の追求者《マーシャル・マキシマイザー》達よ。