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    転校生
    
        ゆりかご
    
    
        「井垣くん、みんなあなたに迷惑しているのよ。自分が何をやったのか分かってる?」
クラスの問題に先生が首突っ込んでくる必要なくね?
「なんでメイワクしてるのに俺に直接言ってこないんですか?俺分かんないですよ。ねぇなんで?」
「...」
なんにも言わねえんだな、誰も。一人ひとりの視線の先をわざとらしく追ってみたりする。
「私はふざけているわけではないの。結城さんに答えづらい質問を押し付けていたでしょう?ここは学校です、多くの人が気持ちよく過ごせるように配慮するべきですよ。」
「じゃあ俺は死ねってか?」
「そんなことは一言も言っていません。授業が進みませんね、この話はまた放課後に残ってしましょう。」
お説教になんの意味があるのか俺には分かんないな、だって叱られて反省するわけねーじゃん。わざとでもないし、なんでかも分からない。もちろん俺は反省した素振りなんてしない。こうやって毎日毎日叱られ続けている。学校も家もクソ。だから俺は、今日も土手で一人水切りをしている。仕方ない。金ないし。明日も叱られ続けるんだ。
    
    
    「今日は転校生がいます。...入ってきてください。」
は?転校生?なんで?まだ5月だぞ?
「おはようございます。僕は|白水《しろず》|流希《るき》といいます。両親の仕事の都合で転校してきました。仲良くしてくださると嬉しいです。」
随分|下手《したて》に出るなコイツ。短髪の割に男なんだか女なんだか分からん見た目。声は男だな。右目が前髪にかかってる。陰キャっぽい。その割に堂々としてるのが不気味だな。
「席は...あそこに座ってください。」
チッ...よりにもよって隣かよ。学校来てないやつの席を|充《あ》てたか。楽で良かったんだけどな〜、隣がいないの。
「よろしくね。」
「よろしく。」
こういうのってよろしくする気がないフラグだろ。俺もダルいからテキトーに返すけど。
「まだ教科書が届いていないから見せてあげてね、井垣くん。」
マジかよ。
「ごめんね。これから色々メイワクかけると思うから先に謝っとくよ。」
両手合わせて申し訳なさそうにしてる。周りのやつ騒いでんな、俺に関わんないほうがいいとかなんとか言ってる。転校生のやつ気にしてなそーだけど。まぁいいわ、変に気まずくてもやりづれぇし。
俺、授業は割と真面目に受けてるつもり。騒いでもないとこで騒ぐなって理不尽に言われるんだけど、なぜか転校生のやつが俺を庇うようになってる。
「俺に恩売っても何も返ってこねえよ。」
って言った。
「僕が言いたくて言っただけだよ。」
優等生すぎる。俺は優等生アレルギーで耐えかねる。
屋上、立入禁止なんだけど俺はズカズカ入ってそこで飯を食ってる。便所飯なんてする気さらさらない。
ガチャ
さすがに先生でも来たかと思ったが違ったらしい。いつもの怒声は聞こえてこない。解放してない割に広い屋上で、俺は扉のずっとずっと向こうに座って弁当を食ってる。俺は目が悪いから誰が来たかよく分からなかった。随分せかせか歩くやつだなーと思ったら一直線でこっちに歩いてくる。と思ったら転校生か。真顔で俺を見ている。
「お前も飯?」
「いや...。なんでもない。」
あまりに不自然だと思い、彼になにかおかしな点がないか探した。あった。彼の手に握られているのは煙草だろう。教室で吸うわけにもいかんのは納得だ。
「吸ってけよ。」
「...!
 ...止めないんだね。」
少し驚いていたが、すぐ落ち着いた表情に戻った。
「まあな。本人がいいならそれでいいんじゃね?」
俺は変わらずフェンスを背に空を仰ぎながらご飯を食べていたが、隣の彼はフェンスの向こうをぼんやり眺めながら煙草を吸っていた。
どうやら今日はお叱りがないようだ。授業中に転校生が庇ったからか?まあいい。気が向いたから図書室に行って勉強でもする。これといってやることがないのは帰宅部だからだ。まあ、部活に入ったら青春できますかって言ったらそうでもない。俺は有意義な方を選んだ。現に、部活内のギスギス具合はクラスを見渡すだけでよく分かる話だ。メイワクな後輩やら上から目線な先輩、部活内恋愛、先生が|煩《うるさ》い、まあいろいろ。そういや転校生って部活入ったんだろうか。ってかなんで転校生のこと考えてんだ俺。
「あ、井垣くん。こんにちは。」
転校生だ。図書室は試験1週間前になるまで誰も来ないような場所だから、変なことにはならないと思っていたが。
「ハイハイこんにちは。転校生さんはなにかお探しなんですか?」
「そうなんです。蔵書検索がしたいのですが、機械はどこにありますか?」
テキトーに言っただけだった。まさか本当に探し物があるとは。自分の吐いた言葉に責任くらい持ちますよ、俺だってね。
「あ~それか。こっち。着いてこい。」
スタスタ歩いて図書室の奥の方で|埃《ほこり》をかぶってるソレの前に立った。
「コレ。」
機械に指を指してもう案内は終わったぞ、そんな表情をしておく。
「ありがとう。」
嬉しそうに彼は言った。
「どういたしましてー。」
俺はその場を離れて机がある場所に向かい、勉強に取り掛かった。しばらくすると彼もやってきた、大量の本を持って。俺は勉強に集中していた。一応視界の隅に映っていたが、そこまで気にしてはいなかった。
もう閉館時間だ。帰る支度をしていたら転校生が話しかけてきた。
「一緒に帰らない?」
?
今まで一度も言われたことがない言葉を言われた。俺は混乱した。
支度が終わった。...なんて返せばいいんだ、俺は。
「方向どっち。」
「うーん...治安悪い方、で伝わる?」
「そっちか、俺もだ。っていうか大丈夫なのか、いつも一人なんだろ。」
「?」
口が滑った。有名な不良の集まりがいる学校があるからもやしっ子に見える転校生が一人で歩いてて大丈夫なのかと勝手に心配になった。
「...なんでもねえ。さっさと出ねえと怒られるぞ。」
俺らは帰路に就いた。...やっぱりこの道は治安が悪い。柄悪そうなやつがウロウロいる、こんな時間なのにな。ああいう奴らはもっと遅くなるとバカうるせえバイク走らせてる。四六時中元気な奴らだ。転校生の方はというと、なんともない様子で歩いている。俺は存在が面倒くさそうに思われてるのかそこまで絡まれねえけど、人によっては何回もパシられたりするのかな。と思ったら不良がこっちに歩いてきた。初めてこんなことが起こった。
「財布出せよ。」
ああ、不良だ。しみじみと思う。でも俺は残念ながら財布を持っていないし、やったこともないから殴り合いはできない。転校生の方を見てみた。彼は呑気に不良を見返している。そんなことしても怒らせるだけだぞと思ったが、案の定怒った。
「んだお前、最近越してきたらしいな。あんまり舐めてもらっちゃ困るんだよ。」
転校生に殴りかかっていた。
「僕は、喧嘩が好きじゃないんだ。何故か分かるかい?」
彼は最小限の動きでそれを避けた。
「必要のない暴力が大半だからさ。」
「一発避けたくらいで...!調子のんなよ!!」
転校生は一発で彼を|伸《の》した。
転校生は、俺が思うようなもやしっ子ではないらしい。そういえば煙草も吸っていたっけか。それも関係あるんだろうか。
    
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