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第八話 雨夜、ミーティング
やっっっと書き上がりましたよ!
一万数千文字の犠牲を経て今!
雨夜が戦場に向かいます!
雨夜がその日練習場に行くと、悪鬼羅刹が待ち受けていた。
「昨日ぶりだねえ、雨夜。元気にしてるかい?」
言葉とは裏腹に、行動は全く雨夜を慮っていない。日向坂が持ち上げた刀身はその白さも合間って本物の旋風のようかに閃く。
雨夜は咄嗟に|短刀《ナイフ》を出す。しかし|短刀《ナイフ》は日本刀に比べて切れ味が低く受け太刀はやや不利。ましてや上段斬りだ、勢いが桁違いである。
そのため雨夜は、やり返すことにした。間一髪上段斬りを避け、避け損ねた長い髪が宙に舞う。それに構わず、|短刀《ナイフ》を日向坂の無防備な首もとに突きつける。
「そっちこそな、日向坂」
「あいにく元気だよ」
へらへらとした返しに細く青筋を立て、髪一房の報復として日向坂のトレードマークたる羽織の胸元を斬りつける。羽織はぱっくりと開いた。
「あー、雨夜ちゃんったら。ほら師匠、これ替えの羽織です」
いそいそと羽織を取り出す日向になんで持ってんだよと内心毒づきながら、雨夜は「で?」と問いかけた。
「何の用だよ、日向坂」
「用だよ、私の」
日向坂の背後からいきなり女が現れた。雨夜は思わずのけぞり、一歩後ずさる。するとなにかにぶつかった。
またしても、知らない女だった。
「もう、なんで逃げるの。ダメだよ、大事なお話あるんだから。ね、月宮さん?」
月宮!? その不吉な名前に振り返ると、そこに月宮がいた。後ずさろうとすると二人目の知らない女に阻まれる。雨夜がその女を睨んでいるうちに、月宮が口を開く。
「君たちには今日から任務についてもらいたいと思ってね」
雨夜は嫌悪感も忘れ、月宮を凝視した。
「任務って、え、私たちがですか!?」
日向が驚きの声をあげる。
「うん、そう。だよね、日向坂」
「まあ、戦場に出してもいい頃合いだろうさ」
日向坂は頭を掻いて、不敵に笑う。
「私の時間を一ヶ月も使ったんだ。簡単に死んでくれるなよ」
「……はいっ!」
日向は一瞬恐れを瞳によぎらせたが、ひとつ瞬きするとそれは消え失せ、覚悟が燃えた。
「それで……ええと、こちらの方は?」
日向は横目でさっきの女を見る。女は微笑んだ。そして、冗談めかして敬礼をする。
「昼神。昼神五十鈴、私の名前」
自分の名前を名乗った女ーー昼神は、次に二人目の女を指し示す。
「こっちは、春冷。春冷美依」
「よろしくね」
春冷は礼儀正しく九十度でお辞儀をした。
「そうじゃなくて、なんでいるんだって聞いてるんだ」
雨夜は痺れを切らして聞く。すると、昼神はよくぞ聞いてくれましたといわんばかりに微笑んで、言った。
「隊長、私。雨夜と日向の隊の」
情報処理にいささか時間がかかった。
「……は!? 待て、ちょっと待て!」
雨夜は思わず隊長と名乗る女に叫ぶ。
「それってつまり、僕と日向が……」
「一緒の隊ってことだね、雨夜ちゃん!」
雨夜は頭を抱えた。人事係は一体なにをしているのだ。
「まじか……」
「なにが不満なのかい、雨夜。日向はいいやつだろう。そんなにしつこく話しかけてくれるやつはなかなかいないと思うがねえ?」
それが余計なお世話なのだ。世間一般でいえばいいやつと言うのはなんとなく分かる。こいつはガリ勉委員長ではなくみんなに好かれる委員長タイプだ。
「はいはい、雨夜。早速任務に行ってもらうんだから、早く早く」
月宮が急かすように手を打ちならした。しかし、そこで昼神とやらが首をかしげる。
「ボス、待って」
月宮、ボスなんて呼ばれているのか。いや、呼ばせているのか……。どちらにせよ、いけ好かないやつだ。
「司令部の人は? ボス直々にナビゲーションしてくれるって訳でもないだろうし、まさか」
司令部。
雨夜は眉をひそめる。またやけに軍らしい名詞が出てきたものだ。エネミーといいアンノウンといい、一体誰が呼びはじめたのか。
ともかく、その司令部とやらが今回はナビゲートしてくれるらしい。頼もしいが、雨夜は極力人と関わりたくないためつい顔をしかめずにはいられない。
「それに、今回は合同任務だったんじゃないの?」
雨夜にとって司令部以上に厄介な言葉が耳に届いた。
「その通り! 待たせたね」
が、それに声を荒らげる前に、昼神の声の末尾を誰かの声が掻き消した。
「ロクが来たよ!」
第一印象は、チャラい、だった。
怪我しているわけでもないのに顔に絆創膏を貼っているし、天然パーマだし、おそらく雨夜より年下なのにピアスをつけているし、凝ったデザインの厚底ブーツを履いているし、なにより雰囲気がやたら明るい。
ロク、とはなんだろうか? 僕のいい間違いではなく? ……もしや、ろくでなしのロク?
一瞬真面目にそんなことを考えてしまう。
「あ、キミ、雨夜くんだよね?」 どこからともなく現れたそいつはまたいつの間にか近づいてきている。やたら派手なくせに忍者のような身のこなしだ。
「……僕のこと、知ってるのか?」
「もちろん! よく見に行ってたしね~。あ、ロクは夕守路玖。よろしくね~」
不穏な言葉が聞こえたような気がする。
「まさか、見に来てたのか? 訓練……」
「もっちろん! いやあ、すごい才能だと思ったよ! ロクに勝るとも劣らないんじゃない? さすがに千さんには勝てないと思うけど、有望株だよ~」
雨夜は一連の台詞にーー特に、月宮に勝てないという言葉でーー青筋を立てたが、驚きによって怒りは霧散した。
視線の先に、知った顔がいたのである。
「朝霞……」
朝霞航。ほとんどしゃべったことはないが、一応同期である。側に四人のやつがいるが、一番後ろで嫌そうな顔をしている。
……まあ、気持ちは分かる。
「あ、あれは合同任務をしてもらう、鴇崎隊だよ~」
夕守は鴇崎隊の方にひらっと手を振り、そのうち一人に話しかける。
「桜庭くん、地図、持ってきてくれた?」
「もちろんです」
桜庭は澄まして言うと、ばさばさと地図を広げ始める。その脇でこそっと、夕守が「桜庭くんは司令部の子だよー」と教えてくる。
「それじゃあ、概要を説明するね~」
地図のある一点。「文」という地図記号は、なにを意味するのだったか。ともかくそこには、赤いペンで丸がつけられている。
そして、くっきりと、「エネミーの大群潜む」と書かれているのだった。
予告詐欺です。戦場行ってません。
今回登場したのは、
黒波こう様の朝霞航!(以前も名前だけ出ていました)
liena様の夕守路玖!
栞奈様の桜庭景!
そして、甘味の春冷美依!
キャラ敬称略ですみません。
スランプ抜けられるように頑張ります。