白狐の護り#5

(待って…怖すぎる………) 隣で絶えず呪詛の言葉を呟く怪異……間違いなく、あたしの関わった中でトップレベルの外見のエグさ。 そして、あたしに向けられる底しれない悪意… さっきの白狐達との会話がフラグだったのか、早速やばい。 (どうしよう……) 一人で静かに焦っていると、異変を察したのか、亜弥と零があたしの顔を心配そうに覗き込んでいた。 「大丈夫、恋音…？顔色悪いで……？」 「貧困とか、立ちくらみ？酷い顔してる……」 しまった！顔に出てた…でも、怪異の事は言えないし…… そうだ、とりあえず逃げないといけない、それなら、体調不良という事にして、一旦保健室に行こう！ 「えーっと…あの、ちょっとめまいが…… 念のため、保健室いくね？」 ごめん亜弥、零……嘘をついたのは申し訳ない……が、君らには見えない、怪異のせいなのだよ！ 送ろっか？と聞いてくれる二人には申し訳ないが、万が一怪異が乗り移ったらこまる。 実は、前亜弥に付いていた背後霊を引き剥がそうとした時、へまをして自分にくっついて来てしまった事から、あまり霊に物理的に近づくのも良くないのか？と思っている。知らんけど。 私は小走りで保健室に向かう。が、髪の塊はずっと並走してくる。そして呟く。呪いのように呟いている。 「ユルサナイ ユルサナイユルサナイ ユルサナイユルサナイユルサナイ ユル サナイユルサナ イユルサナイ アアアアア アアアアアアアアアアア アアアアアア ヤ ダ ……ユルサナイユルサナ イユルサナイ ユルサナイユルサナイ…… アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア………」 ん……？ 今、この怪異、「ヤダ」って言ってなかったか…… それに、「恋」というワードへの過剰反応、そして、「許さない」の連呼。 何かが繋がったような気がする。 あれは……確か数年前、この街で起こった、無理心中未遂事件の……… そこまで考えた時、うっかり油断してしまい、足を止めてしまった。 あたしの隣にいた怪異は、その一瞬の隙を逃さず、あたしの頭に…吸い込まれるように、入っていった。 --- 一方その頃。 「ﾈｴ、フラグって知っﾃﾙ？」 ふと顔を上げて白狐に聞く寝子。 「いや…妾は横文字に弱いのじゃ…… ふらぐ、とは何の事なのじゃ？」 白狐に聞き返された寝子は、小さく首を振って答える。 「こうはならないでしょ！ﾄｶ、こうなるかも！とか言った事がトリガーになっﾃ、実際に事が起こってしま う……みたいな？例えば、この戦争が終わったﾗ、結婚するんだ…… って言う人は、死んじゃうって言う法則、ﾀﾞﾈ〜」 「む…… 寝子よ……… とりがーとは、その、なんじゃ？」 「ｿｺｶﾗ……」 呆れた寝子は、白狐に横文字講座をしながら、考える。 (大丈夫かな…恋音……)