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二
この感情を愛恋だと名付けられたら、それは誤解である。
ならば何なのかと問われれば、私にも分からない。ただ、私は彼と暮らすようになってからずっと彼を殺したくて、でもそれは決して憎悪から来るものでなくて、他の感情なんか混ざっていないのだ。
好きだからとか、嫌いだからとか、そういう感情を含まない純粋な殺意のみ。お腹が空いたとか、外で遊びたいとか、そういう透明な欲望。ただ殺したいだけ。それだけ。
言っておくけれど、私に快楽殺人の趣味がある訳じゃない。猟奇的なものは人並みに耐性があるだけで、あまりグロテスクなものは受け付けないし、これまでだって人を殺したことはおろか、殺したいと思ったことだってない。でも彼だけが例外で、その理由は分からない。
私に言わせれば、これはもうある種の運命だと思う。他人同士が恋に落ちてどろどろに溶け合っていく運命があるならば、どうしようもなく他人を殺したくなる運命だってあるはずだ。それも私の運命は、こんなに美しい彼。
実際彼は、私の贔屓目でなく美しい。高貴とか類稀とか、そんな言葉も忘れてしまうくらいに。恐れすら抱くくらいに。私が彼に抱く殺意のように、他の要素なんか混じらないひたすらの美しさ。
宝石よりも花よりも蝶よりも、何より美しい彼が私には特別で堪らない。だけど彼を殺したいのと彼が美しいのとは関係がない。
毎日を神がかりのように、精神的に何の汚点も残さず生きている彼には、この感情を理解するのは難しいかもしれない。人間らしい感情をより持っているというのが、私が彼より優っている唯一のポテンシャルだった。