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天ノ子 参
(ふぅ…すっきりした。)
お風呂から上がって髪を乾かしていた。洗面所の鏡の自分と見つめあっていたら、鏡越しで自分の後ろにいる死神に気が付いた。
「なんですか」
ドライヤーの電源を切り、後ろに振り返る。すると死神は少し動いて腕を後ろに組んで言った。
「そういえばさ、君の名前を聞いてなかったね。」
そう言われるとそうだった。死神の名前を言われただけで俺は自己紹介しても意味ないだろうと言っていなかった。死神は俺の名前が気になるのか?そう考えながら、死神に「圭」と答えた。するとどういう漢字と聞かれたので、お風呂からの水でぼやけた鏡にキュキュッと音を鳴らしながら書いた。
「圭かーいいね。」
最初から呼び捨てなのか。なんで圭って名前かも覚えてない。親の顔だって忘れた。今の家族は条おじさんだけだ。
「確か圭っていう漢字の意味は磨き上げられ形の整った宝石って意味だから、圭に純粋で無駄のないすっきりとした心を持つかっこいい人になってほしかったんじゃない?」
「でも俺は親にあったことない。あっていても覚えていないぐらい前に捨てられたんだ。」
「でも、捨てられたっていうのは本当かどうかわからないじゃない。真実は違うかもしれないよ。」
鏡にニコニコを書いて言った死神の姿は、何か見たことあるような感じだった。優しくて、楽しくて、俺を誰よりも大事にしていてくれた人。…誰だったかな、もう忘れてしまった。
「じゃあ死神の名前の意味は?」
「死神じゃなくて織斗ね。ぼんやりと覚えているよ。織姫の織と北斗七星の斗だったかな。どっちも夜空に関係することだから夜空が好きになったんだ。」
窓に手をあて、少し寂しそうな雰囲気の中、死神は言った。
「じゃあ今夜も屋根の上って空を眺めようか。」
そう言ってあげると、死神は振り向いて「うん。」と言いながら頷いた。
夕方。ここまでは勉強したり、折角死神が来たので二人でできるカードゲームやス〇ブラをした。初めてと言いながらやっていたけど、案外上手かった死神。少しいつもより楽しいと自分自身で思えてきた。笑い声が廊下に漏れていたのか、昼食の後からメイドがよく部屋の前を通った。気になるのだろうか。まぜてほしいとかか?
「条おじさん、今日は先にご飯を食べるよ。」
「そうか。分かったよ。」
条おじさんは死神を見ながら優しい笑みを浮かべて言った。それからは暗くなるまでテレビを見ていた。ふと天気予報を見ると、今夜の天気は曇りだった。思わず死神の方に顔を向けると、残念そうにしていた。
「今日は星が見えないんだって。残念だけど、また明日にしよう。」
「そうだね…」
見えない顔が見えてくるかのように悲しそうだった。俺は「北海道とかに行ったら、快晴だったのに。」と呟くと、死神はピンと背筋を伸ばして俺の手を握った。
「そうだ!それだ!北海道、日本全国周ろう!」
…え?
「日本全国からの夜空の景色をこの目で見てみたい。違うところや似たところを気づきたい!」
さっきまでの雰囲気がなかったかのように死神は飛び跳ねた。
「全国…?」
混乱したが、曇りで見れなかった分をこれからのことについて死神と話した。普通の人には早々出来ないことだろう。南から全国を周って夜空を見る。その夜空を地域の景色と共に写真に残す。そのためならまず、お金という物が必要だが、こちらは大手企業の社長だ。問題はない。自分的にもその案には興味があったため、行こうとOKした。条おじさんは相変わらずいいよとニコニコしながら言った。すると、条おじさんは胸ポケットから袋を取り出した。かなり分厚い。何が入ってるのと貰いながら言うと、「百万円分の札束。」といってカードも渡してきた。同じく「千万分のカード」と言っておよそ千万ぐらいは入っているであろうクレジットカードを貰った。
「気を付けて行けや。」
そう言われて俺たちはキャリーバッグを持って大きすぎるドアを開いた。
「行ってきます。」
死神と俺の声は綺麗に重なった。