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もう、やだ
「…行ってきまーす…」
「行ってらっしゃい、気を付けるのよー!」
今日もお母さんに、あきらかに元気の無い「行ってきます」を言い、家を出た。
「はぁ…」
ため息をついたが、その息は春の風にさらわれて飛んでいった。
学校に着いた。
木のロッカーに靴を揃えて置く。
すると。
「あ!また出会っちゃったー。ざこばかあほゴミカス愛菜w」
嫌な声が聞こえた。
谷川さんが笑い混じりに当たり前の様に悪口をぶつける。
そのまま私は逃げる様に3階に続く階段を駆け上がった。
「もう、やだ」
呟く。
返事は、ない。
ランドセルから教科書やノートを出し終え、席に座る気にもなれず、適当にソワソワするふりをした。
なぜこんなふりをしようと思い立ったのかは自分でも謎だ。
すると。
「あれ…?」
嫌な予感がした。
今まで気がついていなかったことに、今更気付いた。
ランドセルの横につけていた、うさぎのぬいぐるみのキーホルダーが……ない。
あのうさちゃんは、2年生の頃有希ちゃんとゲームセンターに行って、必死にクレーンゲームで取ったものだ。
「うさ…ちゃん?嘘…なん、で…?」
また、谷川さんが盗んだか隠したのかも…
あっ…もしかして、上靴と一緒に?
私は教室を飛び出していた。
みんなが驚いて私の方を振り返って視線を沢山浴びたけど、そんなの視界に入っていなかった。
「はぁ…はぁ…」
いつの間にか女子トイレに並ぶスリッパの前に立っていた。
個室には誰も入っていないようだった。
いつもの奥の個室の扉を開け、いつものように便座に腰掛ける___はずだった、のに。
「え…?」
便器の中に、びしょ濡れになった上靴と…うさちゃんが、あった。
「なん…で…」
もしかしたら、私が個室から出た時を狙って、ここに上靴とうさちゃんを放り投げたのかも…。
「嘘…こん、な…も、やだ…」
言葉が出ない。
言葉の代わりに、嗚咽が漏れた。
「うっうっ…なん、でっ…もう、やだっ…死に、たいよっ…」
___その時。