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【魔導院結界】壱
長いが読んで
ーーこの学園の地下、そこにはとある伝説が眠っているとされていた。
そう、龍だ。それも特殊属性持ち。
この世界で使われている魔術の基本、先天的なものといえば"属性"だ。
努力でもすれば後は好きに変えられるこの属性は、先天的に持ったものの方が強力だ。
ほとんどの場合、人間は光、火どちらか二属性を持って生まれる。
そしてその次に水、雷。
特殊属性は、毒、闇、影、幻、霊の五属性にあたいする。
もっとも、この国は魔術専門校が多い。
それほど魔術の種を持つ者が多いものだから、特殊属性を持って生まれる者も多数いる。
この龍は、幻属性とされていた。
まあ、噂の範囲だが。
ーーーレイルーナ王立魔導院にて
ラベンダーのような薄紫色の髪を太ももまで伸ばした少女ーーランはとにかくご機嫌そうだ。
「お〜っうりつ〜♪まど〜がーくえーん♪」
早朝、起きたそばからずっとこんな調子だ。
知った魔導院だから行くな、とあれほど言ったはずなのだが。
彼女は言っていた、「クラスの奇妙な生徒」だと思わせれば良いと。
正直、全然良くない。反対したい気分になるが堪えた。
「学校了解の範囲で暴れ回ろ〜」
ランは独りでにえいえいおーのポーズをする。
何が了解の範囲なんだ、貴殿は。
多分壊滅するぞこの魔導院。
など、様々な思考でランの奇行に呆れまくっているこの少年はラウニャと言う。
変わった名だが、まあそれが本名なのだから仕方ない。
大した偽名もニャンコウとかしか思い付かなかったので結局諦めた。
使ったところで大した偽名ではない。ふざけた名前だ、親の顔が見たいわ!とか|出鱈目《でたらめ》な偽名だな!とか殴って蹴られてもう二度とこの魔導院には顔を出せない酷い有様になるだろう。
何せ、貴族らが唯一通うだからな。
ラウニャがそう言うと、逆にランの気合を昂らせてしまったようで、
「見てろよ全世界の貴族らよー!!魔術実戦で|悶《もだ》え苦しむ同志の貴族の姿をぉー!」
と叫んでいた。
「なぁ、ランに一発怒声入れてくれない?」
ラウニャはこっそりとラウニャより少し幼く見える灰藍色の髪の少年に声を掛けた。
「………」
返事しないなぁと思って黙っていたら、寝息が聞こえる。
寝てんのか、コイツ。
ここは魔導院だぞ、仮にも。
明らかに無防備な感じで眠るこの少年の名前はルィ。
普段からこんな奴なのだ、まったく。
と、その時。
「皆さんおはようございます〜」
音もしないで開けられた教室の扉はまた閉められ。
二十歳半ばくらいの容姿の女性が入って来た。
「私が、今日からこのクラスの担当をさせていただくことになりました、ルノア・メイレオと申します〜」
容姿端麗、全体的に細いラインだが芯が強く、魔術講師という職業が謎に似合う彼女こそが、今日からこのクラスの担当をする先生なのか。
この時、ラウニャとランと、ルノアが来る直前に目覚めたルィが同時に思った。
魔術講師的に、相当な玄人だな、と。
およそ十五年は魔術に費やしているであろうその身体に秘める魔力は物凄かった。
多分ラウニャやルィには劣るが。
周りに各々座っている生徒たちの魔力はラウニャにとっては米粒ほどに思えた。
ルノアが来てからすこし騒然としている生徒陣は
「あの先生可愛いよね?」
「ランさんに負けてないくらいには」
「括弧苦笑」というアレが付きそうな程にはやましいことを言っていた。
何故ランが挙げられたかというと、それは
細く輝く(?)しなやかなライン、ほんのり人間味の増した白い肌、光に反射でもするように透き通った薄紫の長髪、いつでも楽しそうに浮かべる優しい笑み。
それらが見事に生徒たちを魅了したからだ。
|それ《ラン》に付き纏われているラウニャは男子たちに付き纏われた。
「付き合ってんの?」とか、
「いいなぁ、あんな嫁が欲しかったぜ!」だとか。
ラウニャにとっては面倒くさいことこの上なく、耳を塞ぎたい気分になっていた。
一人で時間を睡眠に捧げるルィが羨ましかった。
そういえば、一限目は実戦だとかなんとか言ってたっけ。
「折角なので、はじめに実戦からしましょうか」
ルノアは心が無いようだ。
突然のことに焦りが募る生徒たちを嘲笑し、魔術練習場に向かわせた。
魔術練習場は、強力な結界が施されているらしく、頑丈で壊れにくい。
ルノアが説明してくれた。
なにせ、世界屈指の大魔法使いレヅサが。
レヅサって知り合いにいなかったっけ?
ラウニャとルィは、二人がいつも行く森にいる、とある少年の姿を思い浮かべる。
あれが自分を大魔法使いレヅサだと名乗った野蛮者か、本物か分からないが。
そういうことをする奴ではないと思った。
ルノアのように他人を嘲るような性格をしているというのはあるが。
そのレヅサとやらがかけた魔術結界で、そう簡単に破れるものではないと。
生徒たちがルノア教授に必死に詰め寄るから、一限目は好きに練習して良いという内容に変更された。
二限目は実戦として、生徒同士の魔術の撃ち合いをするらしい。