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なんだか思ってた展開と違うが、楽しいのでいい。
「拝啓、実家の皆様へ」
***
ローラ・シュナイダーは家で使用人のような扱いを受けていた。父親の愛人の娘だからという理由なのだが、これが本当に酷いのだ。
掃除、洗濯、料理などの雑用はもちろん、姉や姉の母の世話。更には使用人たちにまでパシられる。
毎日ろくな食事も与えられず、家の者には散々いびられ、隙間風の通る馬小屋で寝る日々。
そして、この自体を生み出した元凶―――我が父だが、この女たちの陰湿な雰囲気に耐えきれなくなったのかほとんど家に帰ってこない始末。
そんなローラに転機が訪れたのは一週間前のこと。姉の母に呼び出されたローラは部屋に入った。
「ローラ。あなたにいい話があるの」
残念ながら、姉の母が言う「いい話」がいい話だった試しがない。ローラは本当に、それはもう本当に聞きたくなかった。
「オリバー・ミラー様から婚約の申し出が出たの。ね?いい話よね」
オリバー・ミラー
この国の軍の一番偉い地位についている人。これだけ聞くといい話に聞こえるが、もちろんこれだけではない。
かなりの戦闘狂で、やれ敵軍を生き埋めにしただの、女子供も見境なく殺すだの、殺した人を喰らい尽くしただの。そんな彼についた二つ名は【冷酷の鬼人】
正直、そんな彼に嫁ぐなんて怖いので辞退したい。したいが⋯。
「もう受けてしまったから、貴方は今すぐに出ていきなさい。ローラ。」
姉の母の言葉に思わず崩れ落ちそうになる。ローラはなんとか震える足に力を入れる。
なんとか白紙に戻す方法はないか―――そう思うが、何も閃かなかった。
「わ、わかり⋯ました」
ローラは泣きそうになりながらそう言葉を紡いで部屋を出ていった。
*
馬小屋へ戻ると、使用人たちがローラの持ち物を燃やしている最中だった。
ローラが呆気に取られていると、それに気づいたメイド長が近づいてくる。
「あら、ローラ様。」
「⋯どうして、わたくしの物を、燃やしているの⋯?」
「嫌ですわ。私どもはただ、ローラ様の婚約のために荷物をまとめるよう仰せつかったので、ゴミを燃やしていたのですわ」
クスクスと意地の悪い笑いに打ちのめされつつ、ローラは何も積まれていない馬車に乗せられた。
なんでも、御者を付けるのももったいないとのことで、己で馬車を操りながら婚約者がいるとされる軍の訓練場へ向かう羽目になってしまった。
雨も降っていないのに、ひどく頬が濡れてしまっていた。
*
軍の訓練場についたローラは受付を済ます。
受付人は「このまま真っ直ぐ進んだところにいると思います」と言った。
何やらニヤニヤしていたが、どうしたというのだろうか。受付人の言う通りにまっすぐ進む。
開けた場所では、大勢の軍人たちが打ち込みや、筋トレをしていた。が、ローラを見ると、何やらヒソヒソと話し始めてしまう。悪口でも言われているのか、なんだかちょっぴり泣きたくなってしまった。
「あの⋯オリバー様は⋯いらっしゃいますか?」
なんとか勇気を振り絞って声を上げると、軍人たちは「やっぱり⋯」「え⋯本当に?」と何やら騒がしくなった。見る目が何故か生暖かい。その視線に萎縮していると、一人の大男が近づいてきた。
間違いない、彼が、オリバーだ。ローラは勇気を振り絞ってオリバーの前に立つ。
「オリバー様⋯ですよね?わたくし、この度婚約者となったローラ・シュナイダーです。」
深々と丁寧に礼をする。⋯しかし、いつまで経っても返事がない。思わず顔を上げたローラの目に映ったのは軍人たちに小突かれている顔が真っ赤のオリバーだった。
「ちょっと。皆。集合。」
集合した軍人たちはオリバーと共にヒソヒソとなにか話している。ローラは知る由もないのだが、彼らの会話は主にこうだ。
「え?俺の婚約者綺麗すぎね?そして可憐。」
「わかる。正直羨ましすぎて殺したい。」
「それな」
「俺、女子と会話したことないんだが、どう声かければいいんだ?」
「いや、俺達に聞くなよ。なぁ?」
「そうだよ。昨日ナンパに失敗した俺達に言われても何も出てこねぇよ」
「安心しろ。俺は生まれてこの方、ナンパなんて怖くてできた試しがない」
「度胸がねぇな、おい」
「敵軍には全力で突っ込んで行くのにな?」
「うるせぇな」
そうして一通りヒソヒソし終えたオリバーはスッと立ち上がり、ローラへ近づく。
軍人たちはそれぞれ「ヒュー!」「いったれオリバー!」と野次を飛ばしたり「あのオリバーが⋯」と涙を流したり忙しそうだ。
「オリバーだ。よろしくな⋯ロ、ローラ。」
スッと片手が差し出される。握手だろう。ローラがその手を取ると、「おぉっ!」と歓声が上がり、その場は謎の拍手で包まれた。ローラは、「まぁ、歓迎されてるみたいだし、いっか。」と一人静かに思った。
**
ローラは幸せだった。オリバーの住む屋敷は広く、使用人たちはとても親切で、ご飯も美味しい。服も上等であった。ただ、困るのは「二人きりだと何を話していいかわからない」という理由で、例の軍人たちが屋敷に頻繁に招かれることだった。
軍人たちは優しいが、ローラとしてはもう少しオリバーと二人っきりになりたい。
そのことを軍人たちに伝えると、彼らは嬉しそうにオリバーの背中をバンバンと叩いた。
***
「わたくしとこの方との縁談を持ってきてくださり、ありがとうございました。お陰でわたくしは幸せになれました。貴方がたにも幸せが舞い込みますようお祈り申し上げます。
敬具
ローラ・シュナイダー」