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私の勝ち
「あたし、未来がわかるの!」
きゅうしょくのカレーを食べながら、あおはちゃんがそう言った。
あおはちゃんはだいじなおともだち。
ずーっといっしょなんだよ。でも、やっぱりへんだな、ふしぎだなって思う!
"みらい"ってなんだろう?
「あおはちゃん、"みらい"ってなぁに?」
「ねえねえ、これからどうなるかおしえてあげよっか?」
ほら、あおはちゃんはこたえてくれないの!へんでしょ?
「わたしのばんごはんあててみてよ!」
あおはちゃんならわかるってことでしょ?
ママはハンバーグって言ってたんだ!わかるかな?
「ゆいちゃんはね、シチューがたべられるよ!」
やっぱりわかんないんだ! あおはちゃんうそついた!
おうちにかえってから、ママに聞いてみた。
「ママ、今日のごはんは?」
「あぁ結衣ちゃん。ごめんね、お肉がなくてシチューなんだけどいいかな?」
わたしはとてもびっくりした。
蒼羽ちゃんの言ってたことは本当なんだ!
わたしはあおはちゃんに言ってみた。
「なんでわかったの!? おもしろいしすごい!」
あおはちゃんはニコニコしながら言った。
「あたしには未来がわかるんだ。」
「もっと聞いていい!?」
いっぱいみらいのこと、知りたいな!
でも、ただ聞くだけじゃつまんないや。
「じゃあさじゃあさ? あおはちゃんはたまーにうそついてよ!」
「嘘? どうして?」
「わたしがうそをあてるの!」
あおはちゃんはさっきよりもニコニコした。
「楽しそう! やろうやろう、しょうぶだ!」
こうして、わたしとあおはちゃんのしょうぶが始まった。
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小学校4年生になって、私と蒼羽の関係は少し変わった。
親友ではなく、秘密の友達として話すようになった。
学校での友達も違うし、クラスも変わった。
そのせいか、私は学校ではなく家で予言を聞くようになる。
「蒼羽、今日の放課後に来て。」
「うん、わかったよ。結衣ちゃん。」
蒼羽は小1のころからずっと嘘をつかない。
もう|ゲーム《勝負》の意味がない。
そして、今日も私は「予言」を聞く。
宿題のことも、私の未来も、聞きまくって。
今の私なら、なんだってできる。
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6年になると、蒼羽が私を避けるようになった。
新しい友達が増えたからだろうか。
その友達に「予言」をしている気配はない。
私だけの|予言者《あなた》だもん、当然か。
「蒼羽、今日ね。」
「ごめんなさい、今日は塾があって。」
そう言いながらも、蒼羽は笑みを崩さない。
「関係ないから。昇降口にいてよね。」
蒼羽の都合なんて関係ない、あいつは予言だけしてればいい。
放課後、蒼羽は昇降口付近には見当たらない。
探していると、校門近くを男と歩いている蒼羽を見つけた。
「ごめん、C。今日は蒼羽との用事があるんだ。」
そういって半ば強制的に蒼羽を引き剥がす。
Cは私が狙ってるのに、勝手に仲良くなってるなんて。
・・・それに、あんたは私のもののはずでしょ?
家に帰ると、私はランドセルを放り投げた。
「蒼羽、まずは宿題の答え。聞くから質問に答えて。」
「うん。問1は―――」
蒼羽はなぜか頭が良い、だから聞けばすぐ答える。
宿題が終わり、ジュースで唇を湿らせながら一番気になっていることを聞いた。
「Cは私のこと好き?」
Cのことは去年から気になっていた。
あわよくば付き合いたい、そう願っている。
「うん。」
その返事を聞いて、私は目を輝かせて食い気味に言った。
「本当? 本当だよね?」
「本当だよ、未来がそう告げてるの。」
ふん。告げてる、なんてカッコつけて。
まあいい、あとで告白しないと。
そう思いつつ、クッキーを口の中で砕いた。
その後とっておきの質問を、蒼羽にぶつけた。
「あなたは嘘をつかない?」
ずっと気になっていた。小1のころから、ずっと。
私が覚えている限りだと、一度も嘘をついていなかったはず。
蒼羽は戸惑いとも驚きともとれる表情を浮かべた。
私は蒼羽の笑っているとき以外の表情を初めてみた気がした。
「―――はい。」
そう答えて、蒼羽は静かに息を吐く。
私は笑いが止まらなかった。
やっぱりそうだ、蒼羽は嘘なんてついてない。
ずっと私のために尽くしてくれてたんだ。
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小学校の卒業式で、私は見た。
隣の中学校の質素な制服の中に、かわいいリボンのついた制服を。
それは、蒼羽のものだった。
「蒼羽、受験したの? どこに行くの?」
蒼羽があげた名前の学校は、県内屈指の進学校。
・・・・・私のことを、置いていかないでよ。
胸の奥でもやもやと何かが広がる。
「あんたがどこにいくかなんて関係ない! また予言してもらうから!」
こいつの予言のおかげでCと付き合えた。
提出物もやれているし、怖いものなんてない。
・・・きっと、そのはず。
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ただ、結衣は自分の甘い考えを悔やむことになる。
中学校に入学すると、結衣はすぐに不登校になったのだ。
知らず知らずのうちに、蒼羽に頼りすぎていたのだから。
当然だが勉強にはついていけず、友達もできない。
「・・・私はやれるわ、たとえ蒼羽がいなくても。」
独り言を何度も呟く。自分に言い聞かせるように、何度も。
だが、その言葉は虚しく散り、結衣が復帰することはなかった。
彼女は気づいていたが無視していたのだ。
蒼羽の予言がなくなったときから、胸に穴が空いたような感覚があることを。
こうして結衣と蒼羽は疎遠となって、別々の道を歩むことになったのだ。
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その後、結衣と蒼羽が再会したのは同窓会だった。
同級生たちが酒を飲み、言葉をかわす中、結衣と蒼羽も昔話に花を咲かせていた。
「小さい時にはたくさん遊んだよね。」
「そうね、あの頃は楽しかったわ。今の仕事は―――」
結衣も蒼羽も「予言」のことは話さない。
2人とも大人になった、ということだろうか。
他愛もない雑談をしているうちに今回はお開きとなった。
帰り際、蒼羽はこう言い放った。
「私の勝ち、だね。」
結衣はきょとんとした顔で聞き返した。
「勝ち? 一体、何が勝ちなのよ?」
その問いには答えず、笑いながら去っていく蒼羽。
蒼羽がいなくなった後も、一人立ち尽くす結衣の姿があったそう。
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私―――、蒼羽は笑いを堪えることができなかった。
だって、結衣ちゃんは知らないのだから。
私の「予言」には嘘が紛れ込んでいたことを。
本当は全部「いいえ」だったのにね。
C君のときも、すべて。
裏での細工、大変だったんだから。
まぁ、そのおかげで信じ込んでたのだけど。
ちょっと手間だったなぁ。
でも、思い通りに動く結衣を見るの、面白かったな。
それにあの子はもう1人じゃ生きられない。
私がいないと何もできないもんね、結衣ちゃん。
結衣ちゃんも、お馬鹿だよ。
私の「|予言《幻》」を全部真に受けてるんだから。
やっと言えた。「私の勝ち」って。
リクエストの作品です。
細かい部分まで書かれていてとっても書きやすかった。
リクありがとうございました!
前半読みにくくて申し訳ない、ひらがなばっかり。