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あまねくすべてに(文スト夢?)本編5
あー・・・
「乱歩さん。その足元の本、横の棚に戻さないと」
「おっと、これは失礼」
そう言った乱歩はニコッと笑い本のあるべき場所を指差した。
え…と困惑した表情を浮かべる敦君。
すると国木田君がとっさに拾い、棚へとしまった。
「頼りにしています、乱歩さん」
「そうだよ国木田。きみらは探偵社を名乗っておいて、その実猿ほどの推理力もありゃしない」
あー・・めんどくさいな。
私小言は嫌いなのだけどなぁ。
「皆、僕の能力『超推理』のお零れに与っているようなものだよ?」
「凄いですよね、『超推理』。使うと事件の真相が判っちゃう能力なんて」
「探偵社、いえ全異能者の理想です」
流石国木田さんだ。速攻終わらせた。
「小僧、ここは良いから乱歩さんにお供しろ。現場は鉄道列車で直ぐだ」
「え、僕なんかが探偵助手なんて___」
しかし、助手などいらないと乱歩さんが言った。
「え? じゃあ何故」
ふふ、と笑って乱歩さんが言った。
「僕、列車の乗り方判んないから」
暇だからついてくことになった。
---
「私がついていてよかったねぇ。いなかったら迷子になってたんじゃない?君」
「ハイ…」
「あっはっはっ、まさかきみも駅までの道が判らないとは!」
「すみません……」
しゅん…と余計に敦君の頭が下がる。
「まぁいいよ。君も此方来たばかりなのに指名する国木田も悪い。今から覚えていけばいいだろう」
…結構時間が掛かっちゃったな。
先方、と言っても警察だからそこまで文句は言われないと思うけど──。
「遅いぞ探偵社!」
「ん、きみ誰? 安井さんは?」
箕浦、と名乗った警官は苛々としている様子だった。
そちらが読んだというのに不要だと突っぱねられ、少し腹が立つ。
しかし、そんな私とは違って乱歩さんは堂々と言い放った。
「莫迦だなぁ。この世の難事件は須く名探偵の仕切りに決まっているだろう?」
「抹香臭い探偵社など頼るものか」
「何で?」
「殺されたのが___俺の部下だからだ」
そーゆうこと。
部下が殺されたのに、平常心でいる人は中々いない。…よっぽど嫌いな相手じゃない限り。
私にも、そんな覚えがある。部下…ではなかったけど。
「普ちゃん?」
乱歩さんに横から顔を覗き込まれていた。
「……あぁ、すみません乱歩さん。少し考え事を」
そう、と乱歩さんはいって私の目の前から消えていった。
そうこうしていると、被害者の状態を確認することになった。
「今朝、川を流れている所を発見されました」
「……ご婦人か」
乱歩さんが帽子をとった。
前にも与謝野さんがつぶやいていたが、どうして普段ああなのにこういうところだけしっかりしているんだ…?
「胸部を銃で三発。それ以外は不明だ。殺害現場も時刻も、弾丸すら貫通しているため発見できていない」
「で、犯人は?」
「判らん」
職場での様子を見る限り、特定の交際相手などはいないらしい。
「それ、何も判ってない、って云わない?」
外していた帽子を被って乱歩さんが言った。
「だからこそ、素人あがりの探偵になど任せられん。さっさと__」
「おーい、網に何か掛かったぞォ」
どうやら、証拠が流れていないか川に網を張って調べているらしい。
「ひっ、人だァ!」
「人が掛かってるぞォ!」
まさか第二の被害者じゃ、と焦る周りの人達。
私には嫌な予感しかしない。周りの人たちとは違う意味で。
「……チッ」
思わず舌打ちをしてしまった。年上相手に。これは失礼。
「やぁ敦君、仕事中? おつかれさま」
「ま……また入水自殺ですか?」
「独りで自殺なんてもう古いよ、敦君」
警察の人達は、ポカンとした顔をしていた。
私はもう…呆れと怒りしかなく。
「前回、美人さんの件で実感したよ。矢っ張り死ぬなら心中に限る! 独りこの世を去る淋しさの、何と虚しいことだろう!」
きもちわる。こいつ。
それと、此奴忘れてるな。7年前の約束。…もう7年たつのかぁ。
「というわけでね、一緒に心中してくれる美人募集」
「え? じゃあ今日のこれは?」
「これは単に川を流れてただけ」
ドヤ顔で言うな。万年自殺野郎。
太宰は警察の人達に降ろしてもらっていた。
オーラーイじゃねぇよ。
---
「何と!かくの如き佳麗なるご婦人が若き命を散らすとは……!」
何という悲劇となにか叫んでいる。
またくだらないことだろうと聞き流す。
「悲嘆で胸が破れそうだよ! どうせなら私と心中してくれれば良かったのに!」
は?
「……誰なんだあいつは」
「同僚である僕にも謎だね」
乱歩が被害者の無念を晴らすと何故か自信満々に言っている太宰君。
しかし、未だに依頼は受けていない。
「残念だねぇ。居ないねぇ名探偵」
乱歩さんの言い方がやけに芝居がかっている。
するとふと近くにいた警官に目を付けた。
「君、名前は?」
「え? じ、自分は杉本巡査です。殺された山際女史の後輩__であります」
ポン、と乱歩は杉本君の肩に手を置く。
「杉本君!今から君が名探偵だ!六十秒でこの事件を解決しなさい!」
この日と敦君に似てる…いや、これが普通の人間の焦り方か。
まぁ時間だけは過ぎていく訳で。
「そ……そうだ。山際先輩は政治家の汚職疑惑、それにマフィアの活動を追っていました!」
へぇ。
余計にめんどくさそー。
なんとなく話の顛末は予想がついたが考えるのがめんどくさい。
頑張れ太宰。
「そういえば! マフィアの報復の手口に似た殺し方があった筈です! もしかすると先輩は捜査で対立したマフィアに殺され___」
「違うよ」
「え……?」
杉本君の言葉を遮ったのは、太宰だった。
「マフィアの報復の手口は身分証と同じだ。細部が身分を証明する」
太宰は書かれた文章を無表情に読み上げるように冷静に話を続けた。
「彼等の手口はまず裏切り者に敷石を噛ませて、後頭部を蹴りつけ顎を破壊。激痛に悶える犠牲者をひっくり返して胸に三発」
「た、確かに正確にはそうですが……」
うわー改めて聞くと気持ち悪い。てかそんなことやってたっけ。私達。全面破壊しか記憶にない。
マフィアに似ているけどマフィアじゃない。
つまり
「犯人の偽装工作!」
「そんな……偽装の為だけに、二発も撃つなんて……非道い」
「ぶ〜!」
「はい時間切れー。駄目だねぇ、君。名探偵の才能ないよ!」
「あのなぁ、貴様! 先刻さっきから聞いていればやれ推理だ、やれ名探偵だなどと通俗創作の読み過ぎだ!」
はぁ、とため息をついて乱歩さんは箕浦さんに対して言い放った。
「まだ判ってないの? 名探偵は調査なんかしないの」
彼の異能は確かに凄い。
一度経始すれば犯人が誰で、何時どうやって殺したか瞬時に判るのだから。
それだけでなくどこに証拠があって、どう押せば犯人が自白するかも啓示の如く頭に浮かぶらしい。
「巫山戯るな、貴様は神か何かか! そんな力が有るなら俺たち刑事は皆免職じゃないか!」
「まさにその通り、漸く理解が追いついたじゃないか」
煽るように乱歩は言う。その煽りにきれいに箕浦さんが乗る。
「まぁまぁ刑事さん、落ち着いて。乱歩さんは始終こんな感じですから」
それを制止するのは太宰。あくまでも私は探偵助手ではなく案内係。
「僕の座右の銘は『僕がよければすべてよし』だからな!」
「そこまで云うなら見せて貰おうか。その能力とやらを!」
「それは依頼かな?」
「失敗して大恥をかく依頼だ!」
「あっはっは。最初から素直にそう頼めば良いのに」
乱歩さんは愉快そうに笑った。
「ふん。何の手がかりもないこの難事件相手に、大した自信じゃないか。60秒計ってやろうか?」
「そんなにいらない」
にぃっと笑って乱歩さんは言った。
楽しそう。
『超推理』
「……な・る・ほ・ど」
「犯人が分かったのか」
勿論、と乱歩は言った。
どんなこじつけがでるやら___と箕浦さんが言う間に乱歩さんの手はすっと上がって一人の人物を指した。
「犯人は君だ」
全員が指先にいる人物を見て目を丸くした。
指差されていたのは、杉本巡査。
「おいおい、貴様の力とは笑いを取る能力か? 杉本巡査は警官で俺の部下だぞ!」
「杉本巡査が、彼女を、殺した」
「莫迦を云え! 大体こんな近くに都合良く犯人が居るなど……」
「犯人だからこそ捜査現場に居たがる。それに云わなかったっけ? 『どこに証拠があるかも判る』って」
拳銃、貸してと杉本巡査に乱歩さんは言った。
一般人に官給の拳銃は渡せない、と巡査は断っていた。
その銃を調べて何も出てこなければ、乱歩の推理は間違っていることになる。
でも彼には自信しかないようだった。
「……ふん。貴様の舌先三寸はもう沢山だ。杉本、見せてやれ」
「え? で、ですが」
「ここまで吠えたんだ。納得すれば大人しく帰るだろう。これ以上時間を無駄にはできん。銃を渡してやれ」
杉本巡査はただ地面を見ていた。次に自分がどうすればいいのかを考えるように。
それを見て乱歩は推理を続ける。
「いくらこの街でも素人が銃弾を補充するのは容易じゃない。官給品の銃であれば尚更」
「何を……黙っている、杉本」
「彼は考えている最中だよ。減った三発分の銃弾についてどう言い訳するかをね」
その言葉が切っ掛けになったように、杉本巡査は|私《・》に拳銃を向けてきた。
「おや」
「いけぇ敦君!」
「えっ?!」
太宰に押された敦君が杉本君の身柄を拘束する。
凄い。上達(?)してる。
「放せ! 僕は関係ない!」
「逃げても無駄だよ。犯行時刻は昨日の早朝。場所はここから140米メートル上流の造船所跡地」
「なっ、何故それを……!」
「そこに行けばある筈だ。君と、被害者の足跡が。消しきれなかった血痕も」
ここまですべて予測通り。
……話の流れは。
あとは取り調べで補われることだろう。
---
「凄かったですね乱歩さん!」
敦君がとても興奮している様子で私たちのほうを見た。
太宰は考え事をしている。
「半分……くらいは判ったかな」
「判った、って何がです?」
「だから先程のだよ。乱歩さんがどうやって推理したか」
「え、異能力を使ったんじゃ…」
君はまだ知らなかったか、と言って太宰が続けようとした。
「乱歩さんはね、能力者じゃないんだよ」
云ったのは私だけどw
「へっ?」
「乱歩さんは、能力者揃いの探偵社では珍しい、何の能力も所持しない一般人なんだ」
それに、ああ見えて26歳。そういうと敦君はもっと驚いたようだった。
本人は眼鏡をかけると異能が発動すると思ってるんだっけ。
「でも……どうやって事件の場所や時間を中てたんです!?」
杉本巡査は『偽装の為だけに遺骸に二発も撃つなんて』と言っていた。
普通なら三発撃たれている死体を見たら『三発同時に撃たれた』と考える筈。
つまり、彼は解剖前なのに一発目で被害者が亡くなったことを知っていた。
まぁ、そんなこと犯人しか知らないはずだよね~みたいなことを太宰は敦君に説明していた。
犯行時間については、被害者の状態から想像できる。
遺体の損害は少なかったから川を流れていたのは長くて一日。
昨日は火曜で平日なのに、彼女は私服で化粧もしていなかった。
激務で残業の多い刑事がそんな状態で亡くなったことを考えると、早朝だと推理できる。
「他の……犯行現場とか、銃で脅したとかはどうやって」
「そこまではお手上げだよ。乱歩さんの目は私なんかよりずっと多くの手掛かりを捉えていたのだから」
私でもわからなかったな、それは。
「あ、でも! 彼女の台詞まで中ててましたよね」
「それは私にも判った。被害者には交際相手はいない、という話だったよね。でも彼女のつけていた腕時計は海外の銘柄ブランド。あれは独り身の女性が自分用に買う品じゃあない。そして杉本巡査も同じ機種モデルの紳士用だった」
「じゃあ……あの二人は」
「うん。早朝の呼び出しに化粧もせず駆けつける。そして同じ機種の腕時計」
二人は恋人同士だったんだ。
しかも、職場には内緒の。
「な、なるほど……」
マフィアの仕業にしようとしたけど、杉本君が出来なかった理由。
彼女の顔を蹴り砕くことが、彼にはどうしてもできなかった。
おそろく政治家も捕まることだろう。
「さて敦君、これで判ったろう?」
「何がです?」
「乱歩さんのあの態度を、探偵社の誰も咎めない理由さ」
おーいと手を振る乱歩さんと、そばに立つ箕浦さん。少し疲れたような表情ではあるが、最初の嫌そうな表情はどこかへ消えていた。
ポケットを探ると飴。
「あっ、普ちゃん。ぼくにもちょーだい」
「…薄荷ですけどいいんですか?」
「…いや、やめとく。あスース―するの僕キライ」
「ふふっ、じゃあこのイチゴ味のもいりませんね」
「えっ」
「いいですよー仕方ないです。私はこのスース―する薄荷食べときますよ」
パクっと思い切って口に入れるとスゥっとする、この味が広がった。
私もあんまり好きじゃなかったけど、たまにはいいな。この味。
ここからさきはね、前書いてた書き溜めがないんで、雑になるかも。
あと次回の『蒼の使徒』『理想という病を愛す』は俺的に入社試験として扱いたいんで過去編かつ小説版のネタバレ注意となります。