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全ての世界が狂した時 第5話
~黒雪side~
ラスとガクが教室を出て行ってから、俺たちも教室を出る。
「止まれ、誰かいる」
先頭にいた屑洟はそう言うと、近くの教室に隠れる。
うっすらと聞こえてくる足音。
「───誰かいるの?」
そして、その人も俺たちの気配に気がついたのか、そんな声を出した。
どこか少しだけ聞き覚えのある声。
ただ、最後に聞いた時より一段と低くなっているような気もする。
───それもそうか。
なんせ全ての人生で高校を卒業したことなんてなかったのだから。
記憶が消えたのも高校生の時。
大学生にもなった今、相手も成長するはず。
「───黒雪、くん…でしたよね?」
そしてその人物が、俺たちに気がついたかのように声をかける。
綺麗な茶髪の髪からのぞく少し赤がかかった瞳。
「てこ───さん」
俺より一つ年上の、それでいて紗英の彼氏でもあるてこさんが、そこにはいた。
「なぜ、てこさんがここに───」
俺のその問いに、てこさんは俺の後ろにいるみんなを見てから微かに目を細めた。
不気味な沈黙が続く。
てこさんの瞳に捉えられているのは孌朱。
孌朱は、ただ呆然とてこさんを見つめている。
「───黒雪くん」
「黙れ」
てこさんが口を開いた瞬間に、孌朱は冷たい声を出す。
2人の視線が混じり合った。
孌朱の瞳には、憎悪とも呼べるようなものを感じられる。
一方、てこさんの瞳には、孌朱を嘲笑うかのようなものを感じられた。
「───黒雪、逃げろ。鬼、だ」
そう、小声で屑洟が俺にそう囁く。
「必ず追いつく」
氷夜はそう言ったかと思うと、俺を後ろに突き飛ばした。
下は階段。
咄嗟に受け身を取って着地をする。
「ねぇー黒雪くんをなんで飛ばしたの?」
不気味なほど低いてこさんの声が聞こえた。
てこさんが、鬼?
でも、なんで俺が逃げるんだ…?
なんで、なんで俺が
なんで俺がみんなに守られる?
俺はなぜ守られる資格がある?
ないじゃないか。
全ては‘俺が引き起こした’事件なのに
なんで結局…
なんで毎回俺だけが
俺だけが守られているんだ。
『俺は黒雪くんのことが大好きだよ』
『なら殺せばいいんだよ』
『君の手で』
誰だ…
俺にこう言ったのは誰だ?
何回目の人生で言われたのか
それさえも分からない。
ただ、それでも
てこを殺せばいい
俺はさっきから持っていた銃を握りしめた。
階段を駆け上がり、さっきまでいた所に向かう。
「───っ‼︎」
てこさんが、力強く氷夜を蹴り飛ばす。苦しそうに蹴られた場所を押さえながら、のんびりと立ち上がった。
屑洟からは、ポタポタと腕から血が垂れている。
孌朱が、いない?
いや、違う。
近くの教室の奥の方、苦しそうに顔を顰めながら、孌朱はのんびり立ち上がる。
───許せない
俺は震える手に力を込め、てこさんに銃口を向けた。
「黒雪くん───【お座り】」
「⁉︎」
突然、足に力が入らなくなり、そのまま床に崩れ落ちた。
「んーよかったよかった。まだあの時の効果は残ってるんだね」
不気味な笑みを湛え、てこさんはのんびりと俺に近づいてきた。
「本当、‘彼’が約束を破るから大変だったよ。折角、紫雲くんに君を10回殺してもらえたら、君も鬼になって俺の好きにして良いよって言われたからあの時紫雲くんに引き渡したのに──」
何を、言ってるんだ?
「黒雪っ‼︎ソイツはお前を───」
何かを伝えようと叫んだ孌朱に、容赦なくてこさんが発砲した。
「うっさいなぁ。負け犬は黙っとけよ。負け犬って言うか…駄犬か」
てこさんは不気味に微笑んで俺の方へしゃがみ込み、俺の体の後ろに手を回した。
「てこ、さん?」
「ちょっとだけ眠っててね?」
~黒雪side END~