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永遠のカナシバリ 1日目
ーーぴーんぽーん…
その日の真夜中、玄関のインターホンが急に鳴ったの。もうベッドで寝てたから、音にびっくりして飛び起きちゃった…
(それにしても…こんな時間に誰だろう…?)
お気に入りのぬいぐるみである「ユミカカちゃん」を片手にベッドから降りて、玄関へと歩いて行く。部屋の装飾は私の好きな色であるピンクで統一している。ユミカカちゃんもピンク色の髪をした女の子。枕元にはハーバリウムやタブレットなどを置いている。寝室から見て手前側の押し入れはメイクスペースにした。丸い鏡に周りにお気に入りのコスメとかをいっぱい置いている。その横には真新しいスーツ。仕事場に着ていくための物だ。明日は仕事。ちゃんと外に出しておかないと。
もう片方の押し入れはクローゼットとして使っていて、可愛い洋服を沢山掛けてある。
それから、トイレ、お風呂…
着いた、玄関。つぐのひくんがプリントされたマグの横にユミカカちゃんを置いて、その頭を撫でる。こうするといつも嬉しそうな顔をしてくれるから…
玄関の磨りガラスの扉の奥にうっすらと黄色のシャツが見える。
(…えぇっと…オーナーの𡚴原さん…?)
ーーぴーんぽーん…
もう一度インターホンが鳴る。
「……はーい……」
眠い…今何時だろ…。扉の向こうから声がした。
「こんばんは〜、𡚴原です〜」
(…やっぱり𡚴原さんだったんだ…)
「なんのご用ですかー?」
「ちょっとお話がありまして〜」
お話?何だろう…
「……今開けますねー…」
欠伸混じりにそう返答し、扉を開ける。
「こんばんは〜、夜遅くにごめんなさいね。この回覧板にサインをして欲しくて…」
そう言われながら私は回覧板を受け取った。
「あ、はい…いいですよ」
緑色の、よくある回覧板。あまり見たことないけど…
「花名さん、ここの住所を書くときのお話…覚えてますか?」
あぁ…そんなことも言っていたような…寝起きで頭が働かない…そんな脳を頑張って動かしながら思い出す。
「えっと……幽霊文字にならないようにって話ですよね?間違えやすいので、平仮名で「あけんばら」って書いちゃってます」
あけんばらさんが安心したような顔をする。
「そう…それで大丈夫ですよ。幽霊文字は絶対に書かないように気をつけて…」
(そんなに大事なことなのかな…?)
「…はい、気をつけますね」
不思議に思いつつもペンを取り出し、手渡された回覧板に名前を書き込む。
「…これでいいですか?」
「桜木花名」。そう書き込み、あけんばらさんに尋ねる。
「ええ、ありがとうね」
回覧板…住んでいる人の名前を書く物みたいだけど、今はあけんばらさんの名前しか…
(…あれ……?あけんばらさんの名字……何か違うような…?)
そこには、「 `《《妛》》原妙子 `」ーそう書かれてあった。
(これ…幽霊文字になってる…?)
そう思っている間にあけんばらさんに回覧板を取られてしまった。
「それじゃ、おやすみなさいね〜」
そういうとあけんばらさんは振り返り、この「 `妛 `原 荘」を離れた…え、字が違う?でも…
___《《そう表札に書いてある》》のに…
見えなくなるまで荘のオーナーを見送った後、私は静かに扉を閉めた。
(あけんばらさん…自分で言ったのに字を間違えてた…何か違和感があるような……)
そう思いながら、私は忘れないようにちゃんとユミカカちゃんを抱いて、ベッドの方へと戻った。
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ベッドに入って、さっき感じた違和感について考えてみる。
(それにしても、夜の家って怖いなぁ…。建物も古いせいで迫力あるし…夜も内見に来れば良かった…)
初めての一人暮らしだから、わかんないこともたくさんある。今度家を探すときには、夜も内見に行こうかな…
__……にゃぁー。__
(…?猫の声…?)
庭にいるのかな…。猫って、一戸建てだとよく庭に入ってくるんだ…
……にゃぁー。……にゃぁー。
(…?だんだん鳴き声がこっちに近づいているような…)
そう思った瞬間、お腹の上に何か重いものが乗っかったような感覚がした。
……にゃぁー。**…に゛ゃぁー。**
(え……?)
目の前に、血まみれの猫の顔がある。紫色の目だけが異様に光っていて、額には流血の原因であろう大きな釘が刺さっている。口も耳元まで裂けている。
「ーーーっ!」
叫びかけて気づく……あれ…?口が動かない?胴体を必死で動かそうともしてみる。
(か、身体が…動かない…!?)
え、嘘。何度も身体をよじらせようとするが、自分の身体なのにびくともしない。まるで何か重いものに押さえつけられているかのように。心なしか、息も苦しい。口の中が異様に乾燥してきている。目の前の猫のようなモノがどんどん私の顔に迫る。
(お願い…動いてっ…!)
念が届いたのか、手が少しだけ動いた。
「…!動い…」
そのとき、目の前のバケモノが飛び上がった。
「い、いやぁぁぁぁぁっっ!」
叫ぶ私を、《《一匹と一人》》が見つめていた。第一夜のことだった。
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「じろうー、ご飯だよー……いっぱい食べていい子だねぇ…わしもお前ももう年じゃな……それにしても、この家は奇妙なことがぎょうさん起こる。そろそろ引っ越すとするかねぇ、じろう?」
___にゃぁー。