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玉響
晴瀬です。
ぺんぎん様にリクエストして頂きました。
ありがとうございます。
幸せな少女の話です。
学校から帰って、鞄をリビングに置く。
すーっ、と息を吸って、吐く。
何度か繰り返して、走って帰ったせいで荒れた息を整えスマホとイヤホンを取った。
家を出て、裏山を登る。
家の裏には小さな山があって、私はその山に登るのが好きだ。
木が多くて、大きくて涼しいけど暖かいんだ。
頂上まで上がったらスマホから音楽を聴く。
イヤホンを耳に挿してプレイリストを開く。
静かに流れる音楽につられて目を閉じた。
息を吸う。
酸素が私の体に染み渡る。
はあ、と息を吐けば風が吹いて木が揺れた。
ザアザアと葉が擦れ音をたてる。
音楽がサビに入ったところでもう一枚上着を着てくればよかったかなとすこし思った。
下の方から子供の声が聴こえた。
音楽に混じって楽しそうな笑い声が響く。
幸せだと、思う。
幸せだ。
私はこの瞬間があるだけで生きていける。
静かな音楽に、風に、緑に、葉や土の匂いに。
『|玉響《たまゆら》』そんな言葉を聞いたときこれだと思った。
私のこの瞬間は、玉響だって。
しんみり、幸せを実感する。
瞼をゆっくり持ち上げてぐーっ、と大きく伸びをした。
私は一歩、踏み出す。
山を下りて家までの道をゆっくり落ち着いて歩いていく。
鍵を片手に、ジャラジャラと鍵とキーホルダーが当たる音を聴く。
ドアの前で、鍵を開け外に引っ張る。
ふわっと鼻孔をくすぐるのはカレーの匂い。
「ただいま」
と言えば
「おかえり」
と返ってくる。
その声に、その匂いに、そのいつも変わらない風景に、私の顔は思わずほころぶ。
「お母さん、私幸せ」
「ん?何。何急に。変なこと言うのね」
ふざけてんお母さんが肘で私の肩小突く。
そんな日常が私は好きだ。大好きだ。
私は玉響を大事にして、この幸せを噛み締めていたい。
「私も幸せよ」
お母さんが言う。
「ふふ、そうでしょ?」
私は微笑む。
こんな幸せな日常がずっと続くことを私は願って信じてる。
私はまた笑った。
お母さんも笑う。
暖かい雰囲気が私を包んだ。
ぺんぎん様
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