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風の刃と世界の行方 第4話
「入れ」
中からそう声がかかり、少し緊張しながら扉を開ける。
「失礼します」
部屋の中は校長室みたいになっていて、部屋の一番奥に大きな椅子があり手前にテーブルと革張りの長椅子が置かれていた。その大きな椅子には、立派な耳としっぽを持った、銀髪のイケオジがいた。目は紫とピンクの間みたいな、可愛い色をしている。
「はじめまして。私はこの世界の王で千景たちの父親をしている、|兆輝《ちょうき》だ。君の名前を聞かせてくれるか?」
「風見響です。この世界の人には名字がないみたいなので、響って呼んでください。えと、16歳の高校2年生、です」
そういえば私敬語苦手だったわ。大丈夫かな、この人一応王様だし。ていうか千景『たち』って言ったよね?もしかして兄弟とかいる感じ?
「慣れない場所に来て大変なことも多いだろうが、不便なところがあれば遠慮なく言ってくれ」「お心遣い痛み入ります。これからよろしくお願いします」
よし。ここは問題ない。
「また何か用があれば来るといい。では」
「失礼しました」
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「きんっちょうした………」
部屋を出て千景のもとに戻るなり、私は大きく息を吐いて呟いた。
「いやいや、初対面であそこまで父さんと話せるの凄いよ。大体初対面の人ってビビって喋れなくなるからさ」
「そうなの?」
「うん。じゃあ次は母さんの部屋だね。違う階にあるから、迷わず着いてきてね」
「ういっす」
また階段を降りたり角を曲がったりして、国王の部屋には少し劣るけどにしてもかなり豪華な扉を持つ部屋にたどり着いた。
「ほとんどさっきと同じ感じでいけばいいよ。落ち着いて話せば大丈夫」
「うん。行ってくる」
さっきみたいにノックをして、入っても良いと言われたので中に入ると、扉を閉めた瞬間に私に向かって風車が飛んできた。
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「わーお………」
すんでのところで風車を避けると、風車は壁に当たり音を立てて床に落ちた。普通の風車じゃなくて、持ち手のところが金属になってる武器みたいな感じのやつだけど、当たったらどうなってたんだこれ。飛んできた方向に目を向けると、座椅子に座り文机に向かう真っ白な髪とカリビアンブルーの透き通るような瞳を持つ美女がいた。肌も白くて、瞳を縁取るまつ毛も白くて………なに?妖精?しっぽも耳も真っ白で綺麗。本当に子供産んでるんだよね?若すぎない?
「千景たちの母で兆輝の妻の|仙珠《せんじゅ》よ。よろしく」
「………風見響です。あの………これなんですか?」
「何って、見ての通り風車よ」
いやそれは分かるんだけども。
「ここはね、豪華だけどつまらないのよ」
「はい?」
「電波はあるからテレビだって見れない訳じゃないし外の情報だって入ってくる。でも、ここにいる人はずっと同じ人ばかりだから人との関わりで得られる楽しみがなくてね」
淡々と何をおっしゃるんだこの美女は。
「今のはただの遊びみたいなものよ。だってほら見てみなさい。持ち手の先、丸くなってるでしょ」
「あ、ほんとだ……」
拾い上げて見てみると、確かに先が丸くなっている。だから壁に刺さらなかったのか。
「私ね、これでも貴女が来るのを楽しみにしていたのよ。うちの息子、ぜーんぜん女の子を連れてこなかったくせに急に連れてくるって言うからどうしたのかと思えば人間の子だったもの。遊びたくもなるわ」
「あー、なるほど」
要するに人をいじるのが好きってことだな。合ってるか分からないけど。
「なんか悩みとかあればいつでも相談しにきて。ていうかそのうち私の方から話に行くわ」
「えっ?」
「女同士だもの。いくら結婚するとはいえ千景には話せないことだってあるでしょう?」
「確かに。ありますね」
月イチのアレとかね。
「それと千景から聞いたのだけど、武器と稽古場が欲しいんですって?」
「あ、はい」
千景に対してあんな偉そうに言っておいて、こんな高貴な人の口から改めて言われるとなんか焦る。冷や汗出てきたわ。
「他に何か欲しいものはある?遠慮せずに、正直に言ってちょうだい」
とは言われましても……ちょっと躊躇っちゃうな……
「私、この世界のこと本当に何も知らないのでそういうことを教えてくれる先生が欲しいです。あとは社交の場でのマナーとか……」
「家庭教師ってことかしらね。あとは?私としては武器と稽古場が欲しいなら剣術を教えられる人もいた方が良いと思うんだけど」
「じゃあ、それもお願いします」
「はーい」
そう言って、手元の紙に私の要望などを書いていく。字も綺麗だし手も綺麗。
「人が揃ったらまた呼ぶわ。これからよろしくね」
「お願いします」
私は深々を頭を下げ、部屋を出た。
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「でさ、いきなり風車飛んできたからホントびっくりしたよ」
「母さんって、ああ見えて結構人と話すの好きなんだよね。怪我しなくて良かったよ。じゃ、部屋戻ろっか。」
「うん」
私は頷き、自分の部屋に戻るために千景と並んで歩き出した。すると、向こう側から歩いてくる人が見えた。誰だろう、と思っているとその人はだんだんこちらに近づいてくる。
「おっ、千景じゃ〜ん!」
「げっ……」
千景がそう呟き、顔が歪み汚いものを見るような目に変わる。目の前に来たその人は(狐だけど)ウルフヘアで、千景と同じ銀髪で千景と同じオッドアイの男の人だった。
「君が千景の彼女?いいね〜可愛いじゃん」
「兄さん、勝手に響に話しかけないでもらっていいですか」
兄さん……え、千景ってお兄さんいたんだ。似てるかと言われれば似てるような気もする。イケメンだし。
「名前は?」
「いい。名乗んなくていいから。戻ろう」
「え〜名前ぐらい教えてくれたっていいじゃ〜ん」
千景がキレ気味に言ってもなお、お兄さんは構ってくる。
「まあいいや、今度話そうね。あ、俺の名前|万輝《まき》っていうんだ。よろしく」
そう言って万輝さんは去っていった。
「兄さん、あんな感じでヘラヘラしてるけどマジで普段もそうなんだよね。女遊び激しくてさ……」
「あー、チャラ男だってことか」
「そうそう。だから話しかけられても無視していいから」
「それは流石に……」
仲が悪い、っていうか千景が一方的に嫌ってる感じだ。闇深ァ……
実はこのお話書き始めたの2月末