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たいようの花は、溌溂と
描きながら少しウルっとくる自分(内容知ってるから)
真っ暗に変わった視界に、段々とぼやけて一つの記憶が流れた。これから映画館を見るみたいな感覚は、とても興味深く心を弾ませるみたいだ。
浮かんできた景色はパパと僕が向日葵畑に居るところだった。これは確か、二年前くらいの頃だったかな。
「うわぁっパパすごいね、向日葵がいっぱい!」
黄色い花に包まれた畑を、走り回りながらそう言った。
「来てよかっただろ?」
僕は立ち止まって、すぐに大きく頷く。
「うん!綺麗だし、おきっい!」
自分の身長よりも、二〇センチ以上に大きな向日葵は殆どが眩しい太陽の方を見つめていた。
僕は向日葵の晴れやかに咲く花が見たくて、見たくて、一生懸命背伸びをしていた。するといきなり体が宙に浮いて、向日葵よりも視線が高くなった。
「パパ!」
振り向くと、少し汗を掻きながら向日葵みたいな笑顔のパパが僕を抱き上げていた。
「やっと見つけた。まだ体が小さいから見つけるのが大変だな」
「僕もう六歳だよ、小さくないもん!」
「そうかそうか。でも中学生ぐらいにならないと向日葵は超せないかもな」
僕はムスッとしながら、さっきとは違う視点から見た向日葵をジッと眺めていた。
|祭 耀花《まつり ようか》、僕のママは、僕が産まれてからすぐにお星さまになったらしい。だから、顔も声もあまり覚えてないけど、向日葵が好きだったらしい。花のような凛とした人で、高貴な家庭の人だけど、パパ、こと祭 涼太と居るとどこか無邪気な可愛さが出ていると言われた事があるんだって。僕は、二人の名前を合わせて、祭 |太耀《たいよう》になった。
向日葵を見ていると、あんまり覚えてないママの顔が、浮かびそうな気がした。
パパとママは、なんだか向日葵みたいだ。いつか、庭に向日葵を植えたいな。
昔の事を思い出した僕は勢いよく起き上がり、暗い部屋の中パパを揺さぶって起こした。
「な、なんだ。どうした、何かあったのか」
慌てて起きるパパに僕は言った。
「ねぇ、今度の土曜日に向日葵植えたい!植えて、大きくなったら絵を描きたい!」
「あぁ向日葵か……わかったわかった、土曜日に植えような」
僕はやったーと言いながらもう布団にもぐった。
「まだ夜中の三時だ。ちゃんと寝るんだぞ」
「うんっ」
そう言いつつも、興奮しているせいか中々目を閉じても眠れなかった。
「行ってきまーす!」
いつもより大きな声で言うと、奥から「気を付けろよー」と大きな声で返事が返ってきた。僕はドアを開けてワクワクした気持ちになりながら、学校に向かった。
今日は何故か授業がよくわかって、沢山手を挙げた。図工の時間はすごく向日葵が描きたくなって、授業は聞かずにずっと向日葵を描いていた。帰りに先生に驚かれた。特に図工の先生。授業に参加はしてなかったけど、すごく絵が上手だって。向日葵パワーは凄いんだ。
放課後、褒められた絵を脇に挟んで帰っていた。
「あ、やべ俺学校に忘れ物した。先帰ってて!」
「そうなの?わかった!」
友達が珍しく忘れ物を取りに行って、僕は一人で帰っていた。横断歩道、絵を挟んだ反対の手で手を挙げて小走りで走った。
その時、片方の手を動かしてなかったせいか、バランスを崩して転んだ。僕は急いで立ち、すぐに渡ろうとした時、左から凄く速いスピードで黒い車が走ってきた。
少し混乱する間に、視界が斜めになって、地面に叩きつけられた。意識が朦朧とする中、全身が凄く痛かったような、そうでもないような。
ふと気が付けば、僕はあの時居た向日葵畑に居た。
けど、なんだか向日葵が小さくなったようで、いつの間にか、僕の方が高くなっている。向日葵の間を分け入って歩いていると、向日葵たちが僕をジッと見つめて、道を作ってくれていた。
「向日葵さん、この道の先には、何が待ってるの?」
いつの間にか自分の声が低くなっている。向日葵は、何も話さず風に揺られ、「行ってみて」と言うかのように僕を見つめる。
一歩一歩、緊張しながら歩いていく。周りに太陽の花、向日葵が居てくれているおかげか、体は全く震えていない。逆に、急いでと向日葵に背中を押されて小走りしているようだ。
道の端まで来ると、大きな井戸があった。綺麗な水が井戸に沢山入っていて、満開の向日葵と快晴を反射している。
井戸を覗くと、真ん中から波紋が広がり、井戸から声が聞こえた。
『太耀、大丈夫か』 『太耀、今日も目覚めないのか……』 『太耀、どうか生きてくれ』 『向日葵の種、まだ置いてるよ』 『耀花、頼む。太耀を守ってくれ』
『今日はお前の誕生日だ。太耀は絵を描くのが好きだろう?誕生日プレゼント、キャンパスと絵具を買って来たんだ。……だから、早く起きてくれないか』
『太耀、いつの間にか、大きくなったなぁ。このまま一生覚めなかったら、どうしようか……』
しばらくすると、また聞こえ始める。
『パパ、起きて!』
『な、なんだ。どうした、何かあったのか』
『ねぇ、今度の土曜日に向日葵植えたい!植えて、大きくなったら絵を描きたい!』
『あぁ向日葵か……わかったわかった、土曜日に植えような』
『やったー、約束だからね!』
声が聞こえなくなったあと、大切な事を思い出した。
そうだ、僕はパパと約束した。向日葵を、植えるって約束したんだ__。
気が付くと、僕は寝転んでいた。白いベッドで白い部屋で。片手には、何故か点滴をされていて、何故か、僕の体は大きくなっていた。
身体を起こし、辺りを見渡すけど、誰もいない。ただ、窓際に二輪の向日葵が置かれていた。置いたばかりなのか、溌溂と咲き誇っている。
近くに、『ナースコール』と書かれたボタンがあったので興味半分で押した。
すると、少しした後にドタドタと走る音がして、ドアが開いた。
「太耀!」
駆けつけるように来る、少し老けたような、パパ。
「パパ……僕どうなったの?向日葵、まだ植えてないよ」
「太耀、お前は八年間ずっと昏睡状態だったんだ。あの日太耀は事故に遭ってから、ずっと目を覚ましていなかった……」
パパは溢れる涙を袖で拭くも、どんどん流れてくる。
「そう、だったんだ……ごめんなさい、約束守れなくて……」
「良いんだ。目覚めてくれただけで……それに、まだ約束は果たせるよ」
数週間して、退院した僕はすぐにパパと向日葵を植えた。丁度、事故に遭ってから八年ぐらいで、向日葵を植えても間に合う時期だった。
八年間も昏睡していたので、八年間分の勉強を、家庭教師を呼んですることになった。八年間分をするのはすごく大変だけど、毎日お見舞いに来てくれていたパパを想うと頑張れた。勉強もしながら、僕は絵を描いた。誕生日プレゼントとして買ってくれたキャンバスと絵具で沢山の絵を描いた。
絵を描くことは、八年間の勉強を捗らせてくれるようなものだった。
それから、数年が経つ。なんとか八年間分を取り戻して、高校に通って、卒業した後、僕は芸術大学に行くことになった。
芸術大学は、絵を描くことが好きな僕に丁度良く、楽しい日々だった。
そして、夏。あの日植えた向日葵たちを前に、僕はキャンパスに描いていた。
あの日の事を思い出して、はっきりと覚えている。あの情景を。
展覧会に来た。パパとある絵を探していた。
すると、二輪の向日葵が、窓から差し込む光に照らされて溌溂と咲き誇っている絵を見つけた。初めて見たパパは、その場で涙を流し始めた。
【最優秀賞・特別審査員賞】
名: 祭 太耀
題:『パパとママの笑顔』
庭の太陽の花は、溌溂と今日も笑顔で咲き誇っている。