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オリキャラ増えたから…
その日、莉刀が死んだ状態で発見された。
これが、地獄のデスゲームの始まりだと誰も知らずに…。
※ この作品には流血、グロ表現、自殺表現、ネクロフィリアなどの要素が含まれます
【職業一覧】
村人1 錦莉刀(にしきりひと)
村人2 早乙女水湊(さおとめみなと)
村人3 白羽根杏翔(しらはねあんと)
村人4 紅哀採(くれないあいと)
村人5 黒井海斗(くろいかいと)
神官 須藤栄都(すとうえいと)
葬儀屋 哀川啓人(あいかわけいと)
騎士 橘晴兎(たちばなはると)
【1日目朝】
午前7時。いつも通りの時間に目が覚める。鳥のさえずりが聞こえる中、俺、「黒井海斗」はカーテンを開けた。清々しいほどの晴天だ。きっと今日はいい日になるに違いない。
「さて、そろそろ着替えて散歩にでも行こうかな・・・」
そうつぶやき出かける準備をしているとふとノックの音が聞こえた。
「こんな朝早くに誰だろう?」
急いで階段を降り、ドアスコープを除くとそこには見慣れた顔があり、俺はすぐに扉を開けた
「おはよう。白羽根」
「おはようございます。黒井さん。今日は素敵な晴天ですね」
彼の名は「白羽根杏翔」お菓子作りが得意で紳士的な男だ。
「朝早くからすみません。パンが上手く焼けたのでもしよろしければ朝食にでもと。」
「そうだったのか。なら、せっかくだし一緒に食べないか?」
「お気持ちはありがたいですが、他の人にもパンを渡しに行きたいですし…今朝から錦さんを見かけていなくて心配でして…」
「なら、俺も一緒にパンを渡しに行くよ。それに、錦の方も一緒に探そう。」
「ありがとうございます。」
俺はすぐに靴を履き替えて白羽根とともに他の住人の家へ向かった。向かう途中で一番最初に訪れたのが錦の家だったのだが、返事がなく、家にいる様子もなかったためパンを配りつつ探そうとしていたと白羽根から聞かされた。
そうこうしているうちに一人の村人と出会った。
「あれ?杏翔と海斗?どうしたのこんな時間に」
彼は哀川啓人。飄々としていて掴みどころのないミステリアスな男だ。
「実はパンが上手く焼けたので皆さんに配りに来ていたんです。それと、錦さんを探していて…。」
「へぇ。じゃあ、パンはありがたくいただくとして…。莉刀はどこ行ったんだろう。朝が強いほうじゃないんだけどね。」
ひょいっとチョコレートの菓子パンを取り、口に加えたところで怒声が聞こえた。
「ちょい待て!!食う前に手ぇぐらい洗えや!!!」
彼は橘晴兎。この村の騎士であり、キレのあるツッコミに定評のある男だ。
「手は洗いました〜」
「んにしても、流石にもらってすぐの立ち食いはアカンで?」
「私は気にしませんので平気ですよ。」
「なんか、すまんな。」
「いえいえ。橘さんもどうぞ。」
「なら、家でお茶でもたるわ」
「お構いなく。」
そのまま四人で錦が何処かに行ったとか。白羽根の作る菓子は美味いとか。他愛もない話をしている中でまだ教会の鐘がなっていないという話になった。
「たしか…神官は栄都だよね。栄都が寝坊なんてするかな…」
「確かに、いつも鐘の音で大体の面子起きるはずだけど。」
「では、先に教会の方に向かってみましょうか。」
「せやな。」
するとまるで会話を聞いていたかのようなタイミングで須藤が走って来た。彼、須藤栄都は真面目で規律正しい博識な男だ。そんな彼が取り乱しているのを見て俺達はだいぶ驚いた。
「須藤!?どうしたのそんなに慌てて…。」
「黒井…。全員いるんだな。詳しい説明はあとだ。とにかく教会前に来てくれ。そこに他の村人は揃っている」
「ちょ、栄都!どうしたんだよまじで…」
須藤は哀川の声に耳を傾けることなく教会の方へと歩き出した。俺達も何となく彼の後を続く。道中は終始無言で、誰も何も話さなかった。重い沈黙に耐えきれず、俺は少しうつむきながら足を速く動かした。
どれほどの時間が経っただろうか。実際には3分も経っていないだろうが俺にはとても長く感じられた。ふと須藤の足が止まる。それと同時に俺も顔を上げる。そして、顔を上げたことをすぐに後悔した。そこには―――――――変わり果てた錦莉刀がいた
「なぜ…錦さんが…死んで」
「ゔっ」
「海斗っ」
鼻を突く強い血の匂いと目の前の死体が受け入れられず強い吐き気を覚え、俺はすぐ茂みに走った。なんで錦が殺されたのか。あれは本当に死体なのか。死んでるならなんで十字架に張り付けにされているのか。いろいろな考えが頭の中をぐるぐるとかき乱すような感覚で意識を失いそうになるがなんとか正気を保ちみんなのもとに戻った。
冷静に周りを見渡せば、他の村人全員が確かに揃っていた。
「海斗、お前顔真っ青だぞ?栄都に言って教会の中で休ませてもらうか?」
彼は早乙女水湊。チャラくて軽薄そうに見えるが誰よりも仲間思いの男だ。
「それより死体をおろしたほうがいいだろ。啓人が埋葬してくれるはずだ。」
彼は紅哀採。無口で常に冷静な男だ。そんな彼でも目の前の死体には少し動揺しているようだった。
「ちょっと哀採。なんで俺だけで埋葬する前提なんだよ…。」
「お前だけなんて一言も言ってない。」
「落ち着いてください。どちらにしても早く錦さんを降ろしてあげたほうが彼的にも嬉しいでしょう」
「それも…そうやな。せや。早乙女。一緒に降ろしてくれへん?」
「別に構わないぜ。」
錦にくくりつけられた紐を早乙女と橘が丁寧に解き、地面に横たわらせる。そして、啓人が死亡確認をしつつ、死因なども探っていた。そこに、教会から何かを持って須藤がやってきた。
「みんな聞いてくれ。たった今、神から神託があった。」
「信託?投資的な?」
「今ボケてる場合ちゃうねん!」
こんなときでもいつも通りに会話をする哀川と橘を見て少しだけ落ち着いてきた。そんな彼らを一瞥して、須藤はまた話し始めた。
「今から神託の内容を読み上げる。『気高き古の惡魔が 蘇り「誰か」に憑き穢れし村人の魂に死を施すだろう』とのことだ。」
「えぇっと…。それってつまり?」
「この中に悪魔が取り付いた村人がいてそいつが錦を殺した。ということだ。」
「はぁ!?悪魔って…そんな人狼ゲームやあらへんし…。」
「だが実際、人狼ゲームみたいに悪魔を処刑しない限り、また誰かが犠牲になる。」
恐ろしい事実がまた頭を埋め尽くす。今までずっと一緒に生活してきたみんなのうちの誰かが錦を殺した。そして、そんなみんなを疑わなくてはいけない。胃の中に鉛が落ちたように心が重い。それはみんなも同じようであるものは不安そうに。またあるものは訝しげに。またあるものは好奇心からか目を光らせて。それぞれ顔を見合わせた。
「私も本当ならこんなことはしたくないが…。状況把握のために錦を埋葬し終えたら教会の中で話し合いを行う。」
「なるほどねわかった。じゃあ俺はちゃちゃっと錦を埋葬してくるよ。あ、じゃあ水湊手伝って!」
「俺はお前のパシリじゃねぇよ。ま、手伝うけどさ。」
「どうも〜。」
錦の死体を抱え、墓地の方に歩く二人を眺めながら俺達は教会の中に入っていった。
教会の中にはいつ用意したのか丸テーブルに八個の椅子が並んでいた。と言っても錦がいないのだから必然的に一つ余るのだが…。各々が適当に席につく。そして、あとから来た二人も席についたあたりで、須藤がまた話し始めた。
「あくまで今日は昨日何をしていたかを話して終わらせたい。まだ誰が犯人か確実にわからない段階で、その人を殺すことはできない。」
「と、言われても全員家で寝てたんやろ?ならアリバイも証拠も何もないやん」
須藤の言葉に橘が即座に返す。たしかにそのとおりだ。だが、逆に怪しい。須藤も錦が死んだのに淡々としすぎている気がする。哀川や早乙女もいつも通りだし。全員が怪しく見えてくる。そして、そんな自分に嫌気が差す。
「本当に、本当にこの中の誰かが…」
それ以上言葉が出てこない。だがそれを代弁するように白羽根が続ける。
「錦さんを殺害…したんですよね?外部からの犯行ではないですよね?」
「ここは山奥の村だ。わざわざ外部のやつが来て錦を殺し、貼り付けにする理由がないだろう。」
「そう…ですね。」
沈黙。みんなを疑っている状況の沈黙は苦しくて今すぐにでも何かを話したくなったが、下手なことを言えば俺が怪しまれる。何も言えずにただただ沈黙が流れる中、それを破ったのは意外にも紅だった。
「なぁ、本当に話し合う必要あるか?悪魔なんて戯言信じて、殺し合いでもするつもりか?」
「紅!そんな言い方はねぇだろ…」
「ま、それに関しては俺も思うけどね。悪魔なんて非科学的でしょ?」
「哀川もなぁ…」
「あー。もう!!今ならまだ錦一人の犠牲で済む。といってもだいぶな犠牲だが、悪魔に取り憑かれたのは誰なんだ!名乗り出ればそいつを処刑して終わりだろ!無駄に殺し合わなくてすむだろ!!」
2度目の沈黙。どうやら、悪魔は名乗り出るつもりなんてないみたいだ。
「なぁ、俺に考えがあるんやけど、ちょっとええか?」
ふと橘が話し始めた。
「俺はこの村の騎士や。せやかて、今晩俺がこの村を見回って悪魔を退治しようと思っとるんや。」
「え、でも退治できる保証ないよね?」
「せやなぁ。けどな、怪しい人間ならわかるやろうし、今ここで誰か吊るよりよっぽどいいに決まっとる。」
橘の提案にみんな納得したようだった。最終的に今日は誰も吊らず、夜に橘が家の電気とか夜で歩いてる人がいるかどうかなどを確認してくれることになった。そして、俺達は一度家に帰ることになった…。
【1日目夜】
まさか、俺が村を見回ることにあっさり許可が降りるとは思っとらんかった。一つ間違えれば俺が吊るされていたっておかしくない提案やったが、皆不安なんやろうな。なら尚更今日の見回りでなんか成果を出さなあかんなと俺は今一度銃を構え直した。
村の構造上、すべての家を一度に見ていられる場所はない。だから、歩きながら確認していくつもりやった。
「…ん?チョーカー?」
ふと足元を見るとチョーカーが落ちている。このチョーカーは村人全員がお揃いでつけている装飾品だ。宝石の色で誰のものかは見分けることができる。
「黄色…っちゅーことは早乙女のチョーカーやな。早乙女の家までは…ちと遠いな。まだ起きてるとええが」
眠っていたらポストにでも入れとくかとチョーカーを拾い上げ、足早に早乙女の家まで向かう。彼の家は教会の近くであり、墓地の近くでもある。せっかくやし錦の墓参りもするかと思いながら足を進めていくと、墓地の辺りに人影が見えた。
(まさか、悪魔か?)
俺はその人影にそっと近づく。しかし、そこにいたのは俺が最も信頼している人だった。
「何やっとるんや!もう時間も遅いんやで!?危険だからとっとと家帰って…」
そこまで言ったところで相手が何かをこちらに投げてきた。なんとか避けられたが頬に傷ができた。大方、ナイフだろう。その時点で相手が悪魔だということに気づいた。俺は銃を構えて悪魔に発砲した。銃弾は見事相手の足に命中したようで、バランスを崩す。俺は相手を取り押さえた。
「ったく、元猟師舐めんなや。」
このまま一晩押さえつけ続けるのはしんどいのでなにかツタでもないかと周りを見渡す。その一瞬の隙に相手は俺の拘束を解いた。
「しまっ…!!」
そのまま首を切られる。俺が最後に見たのは悪魔が彼を侵食している姿だけだった___
【二日目朝】
昨日はなんとなく寝付けず、眠い目をこすりながら俺はいつも通り着替えていた。
「ってあれ?チョーカーなくね?」
そこで俺のチョーカーがないことに気づく。昨日は啓人と一緒に錦の墓参りをして、そのまま啓人を家まで送ってから帰った。その後シャワーを浴びたときにはもうチョーカーはなかったようにも感じられる。
「…てか普通チョーカーとかなくさねぇだろ!」
と自分自身にツッコミを入れながらどっかに落ちてるだろうと楽観的に考えて俺は外に出た。なんとなく教会に向かうべきだと思った俺はそのまま教会まで歩くことにした。
教会が近づくにつれ鼻をかすかに血の匂いがかすめた。今日もまた誰かが犠牲になったのだろうか。不安とともに教会の前につく。そして、そこにあった死体―――晴兎と対峙した。
「マジか…」
大切な仲間がまた犠牲になったというのに思ったより冷静な声が出た。むしろ、頭が真っ白だったからこれしか言えなかったのかもしれない。それから、俺は何をしていたかなんて覚えていなかった。気がついたら村のメンバーが全員揃って晴兎の死体を見ていた。
「全員集まったか。今日もまた神託があった。」
栄都はそう言うと手に持っていた神を広げ、読み上げ始めた。
「『怒れる古の悪魔が哀れなる【騎士】を救い、穢れし村人も残らず殺してみせるだろう』だそうだ。」
「哀れなる騎士って…。そんな…ふざけるなよ…」
他人事のように話される神託に怒りが込み上げてきて、思わず声が漏れてしまった。どれだけ泣こうが怒ろうがもう晴兎はこの世にはいない。それでも、この感情を発散する方法が怒る以外に思いつかなかった。
昨日も遺体が上がったこともあり、晴兎の埋葬は予想よりも早く終わった。啓人が少しだけこちらを見たのが気になったが、それよりも早く悪魔を処刑して次の被害者が出ないよう話し合いを始めてしまいたかった。
全員が席についたのを見計らって栄都が話し始めた
「今日も被害者が出てしまった以上、一刻も早く悪魔を処刑しなくてはいけない。だから、今日は夕方までには悪魔を処刑したいと思う。」
「…本当にこの中に悪魔に取り憑かれたやつがいて、そいつが晴兎を殺したのなら、俺が晴兎の敵を取ってやる…!!」
俺は今の決意にも似た思いを口に出した。そのおかげで今までずっと渦巻いていた負の感情が少しだけ軽くなったように感じた。
「それで…晴兎がいないから真偽はわからないけど、昨日、今日時点で怪しい行動を取った人を見た人はいる?」
海斗の発言に皆が少し考えたが怪しい行動を取った人がいればすぐに気づくはずだ。それに、昨日のことは死体が発見されたこともあり、あまり覚えていなかった。
「今日も皆アリバイはなし…か」
栄都がノートにメモを取ると同時に哀採が机を叩いた。
「もう良いだろ。これ以上話し合ってもなんの成果もねぇ。ランダムに投票でもして無実のやつを殺すくらいならいっそ、全員が死んだほうがマシなんじゃねぇのか。」
誰も、何も言えなかった。結局、今のところ成果は何もなく、ランダムで投票することになりそうだ。だが、そしたら無実のやつを殺すことになりかねない。それを言葉にした哀採も、そして村の皆も同じくらいそれが苦しいことだと思っていた。だからこそすぐに誰も発言できなかった。
いち早く我に返り何かを言おうとする啓人を遮り、杏翔が話し始めた。
「でしたら…私が吊るされましょう。」
全員の視線が一気に杏翔に集まる
「このままいがみ合うのは、見たくありません。私を処刑しても明日には4人残ります。そこで悪魔を処刑していただければ私はここで処刑されても構いません。」
「お前…何言って…」
呆然と呟く海斗をちらりと見て再び杏翔は話し始めた。
「…確かに、ここでこの発言をすると『私は悪魔ではありません』と伝えたいように聞こえますが、このままランダムになるのであれば処刑して構わないというのは本心です。」
一通り話し終えたのか杏翔は一息つき、椅子に深く腰掛けた。栄都が時計を確認する。そろそろ夕方だ。このまま処刑になるだろうかと思ったその時、啓人が声を上げた。
「ちょっと待って。俺さ、一つ気になってることがあるんだよね。話しても良い?」
啓人は全員に確認するかのように全体を見渡し、最後に栄都の方を見た。栄都は構わないとでもいうように頷いた。
「晴兎を埋葬するときに偶然見つけちゃってさ。」
そう言うと啓人は何かを胸ポケットから取り出した。それを見た途端に血の気が引いた。そこにあったのは、なくしたはずの俺のチョーカーだった。
「ねぇ水湊。なんで晴兎が、水湊のチョーカーを持っていたの?」
言葉が出ない。否定しなくちゃいけないのは頭で理解しているのに体は全く動かない。なんでチョーカーを晴兎が持っていたのか…。それをどこで見つけたのか。何もわからなかった。
「…俺、じゃねぇよ?ほら、昨日シャワー浴びた後に見つからなくってさ?だから、探してたんだよね…。」
皆の視線が痛いほど刺さる。まるで全員が俺が悪魔だと言いたげなように見つめていた。
「ちょ、ちょっと待てよ。ていうか、啓人さ、俺と一緒に墓参りしたじゃん。そん時に、盗んだんじゃねえの?」
「どうやって首についたチョーカーを盗むんだよ…。」
「じゃあ!どうして晴兎は俺のチョーカーを持ってたんだよ!!」
「戦闘のときに引きちぎったんじゃないの?ボロボロだし、土と血が付いてるし、ずっと前に拾ってたなら手に握っている必要はないしね。」
「違う!俺じゃない!!」
俺の叫びも虚しく、午後4時を告げる鐘が無常に鳴り響いた。まるで俺の人生の終わりを告げるかのように。
「…時間だな。」
栄都がそう呟くと6輪薔薇の花を取り出して話し始めた。
「処刑する人の前にこの薔薇を置いてくれ。まぁ、置かなくても誰を処刑するかは明白かもしれないが。」
一輪ずつ配られた薔薇が俺の前に置かれていく。少しでも抗おうと俺は啓人の前に一輪おいたが、抵抗虚しく五輪すべてが俺の目の前に置かれた。
「今日処刑するのは早乙女だな。」
そのまま俺以外の全員が教会から出ていく。あるものは申し訳なさそうに。あるものは疑いの眼差しを向けながら退出していった。不思議と恐怖は感じなかった。ただ混乱と疑問と絶望が頭の中を支配していた。そして、そのまま永遠に目覚めない眠りについた…。
【二日目夜】
時計の針の音が響く教会で一人私はタロットカードを並べていた。普段は占いなんて全く信じないが、非科学的な状況が現実に起こっている以上、自分も非現実的なものに縋りたくなったのだ。
偶然にも、神官を務めるうえで占いについて一通り学んでいたためかすぐに準備は整った。
そこで私は今一度状況を整理することにした。
「一日目に錦が殺害された。全員にアリバイはなく、晴兎が街の巡回を担当。二日目に晴兎が殺害され、水湊を処刑…。悪魔が一人でここまでの犯行をすることは難しいのではないか?少なくとも、一人以上は共犯者が居る…。」
村人を一人ひとり信じるかのように占っていく。そして、最後の一人を占ったとき、引かれたカードにはDevilと描かれていた。
「バレちゃいましたか?」
ふと背後で声がした。慌てて振り返るがもう遅く、胸をナイフが突き刺した。うめき声よりも先に口から血が溢れる。ナイフが引き抜かれ自身の鮮血で目の前が紅く染まる。立っていられず地面に膝をつく。血を流しすぎたようで全身が冷たいと感じる。
「な…ぜ」
なんとか発せられたその言葉に悪魔は微笑みながら答える。
「そうですね…。冥土の土産にでも教えてあげましょう」
髪を捕まれ無理やり顔をあげさせられる。悪魔は顔を近づけ耳元で囁いた。
「”彼”がそう望んだからだ」
驚きと同時に瞳に鋭い痛みが走る。瞳が刺されたのだと理解するのにそう時間はかからなかった。
「っぁああ゙あ゙あ゙ぁ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!!!!」
痛い。痛い。痛い。今更ながら刺されたことを理解し、激痛が全身を襲う。まだ聞きたいことがある。彼とは誰なのか。本当に悪魔が取り憑いているのか。しかし、声を発することもできずただ痛みに悶えることしかできない。そんな私を悪魔は冷徹な瞳で見つめ、そのまま刃を振り下ろした。
ちょうど朝の鐘の音が鳴り響いた。
【三日目朝】
いつも通り鐘の音で目を覚ました。俺にとって教会の鐘の音は生活リズムを整えるために必要なものだった。とは言っても最近は死体騒ぎで生活リズムは整っていなかったが…。それでも、鐘の音が無意識に心を安心させていたのだろう。
「水湊を処刑した。これで、またいつも通り…」
いや、いつも通りなわけがない。教会で栄都と海斗と俺で雑談をして、水湊と啓人が漫才みたいなことをして、橘がまだ眠そうな錦をつれてきながらツッコミを入れて。白羽根がお菓子でも作って持ってきて。皆で食べる。
そんな日常は戻ってこない。水湊と啓人の掛け合いも、橘のツッコミも、錦の場を和ませるような発言ももう見ることができない。
理解したくない。受け入れがたい現実に気がおかしくなりそうで、俺は教会に足を運んだ。この村で一番親しくしていたのは栄都だった。少し思いを吐き出すだけでも楽になるかもしれないと。そう思っていた。
だから、
目の前で吊るされている遺体が栄都のものだと、信じたくなかった。
「栄都…。なんで、なんでそんなところにいるんだよ。」
悪魔に殺されたのだから当たり前だ。
「俺さ、栄都に話したいことがあって、ここまで来たんだ。なぁ、こっち来てくれよ。」
死体が動けるはずがない。話すことも。こちらの声を聞くことももうできない。
「なんで、お前が殺されてんだよ…。」
「哀採?」
後ろから声がした。誰のものかはわからなかった。俺はその場から逃げるように走り出した。理由はわからなかった。ただ、いても立ってもいられなかった。
「ハァ…墓地まで、走ってきたのか?」
少しだけ冷静さを取り戻し、あたりを見渡すとそこは錦、橘、早乙女の遺体が埋葬されている墓地だった。嫌でも先程の光景を思い出す。
(ここに、栄都も埋葬されるのか。)
少しでも気を抜けばまた冷静さを失いそうで何かを考えていたくて今日までのことを振り返ることにした。そして、ふとある発言を思い出した
「全員が死んだほうがマシなんじゃねぇのか…。」
昨日の話し合いで俺が言ったことだ。でも、それが頭から離れなかった。
「そうだ…。ここで俺が死ねばもう、もう大切な人を失う苦しみを味合わなくてすむんだ。」
あたりを見渡すとそこには錦が愛用していたマフラーがあった。埋葬するときにせめて残しておこうと墓石にマフラーをまいてあったのだ。
「錦。これ、借りるな。」
そのまま俺は輪っかを作り首をくくった。
ただ、早く救済されたいという思いしか抱いていなかった。
【三日目昼】
栄都が殺された。哀採がそれを見つけた。声をかけたら逃げられた。これが俺が見た光景だった。昨晩、話し合いの後に俺は栄都に「明日の朝話があるから教会前に来てくれ」と言われたから行っただけだった。
「あの様子じゃ、栄都は悪魔の手がかりを掴んで、哀採が犯人で逃げたか、あまりにもショックで逃げたか。だろうな。」
そして、俺は他のメンバーについて考える。栄都が吊るされた以上、悪魔はまだ残っていて、俺を除けば容疑者が3人いるわけだ。
「杏翔は…あんな善人が人を殺せるのか?昨日だって自分が吊るされようとしてたくらいだし。かといって、海斗も人を殺せるタイプの人間じゃないだろうし…。哀採が仮に殺していたとしたらあそこまで取り乱すか?」
俺個人的に白っぽいメンバーしか残っておらず、今回の話し合いも難航しそうだなと頭を抱えた。あいにく、海斗はもう少し後に起きるし、白羽根は早起きだが朝の身支度で家を出るのが遅くなることが多い。そして、哀採はどこかに行ってしまった。
「つまり、これは俺が責任持って埋葬するしかないよね?」
▽
今日は胸騒ぎがして朝早く目覚めてしまったので、散歩がてら皆さんのお墓にでも行こうかと外に出ました。そこで、青ざめた顔の海斗さんと出会いました。彼は私の顔を見るなり
「紅が、死んでいた。」
と告げてきました。海斗さんにつれられて墓地に行くとそこには錦さんのマフラーで首をつっている紅さんがいました。
「それと、これが落ちてて…。」
海斗さんが見せてきた紙には『早く救済してくれ』と書かれていました。きっと、彼は家族同様の村人を疑い、悪魔と決めつけて殺す。そんな状況に耐えられず、人として人生を終えたかったのだ。
なんて傲慢なのでしょうか。いえ、自ら死を選び、その結果死んでしまっているのであればそれも運命であり、神が導いた定めなのかもしれません。しかし、自ら死なれては困ってしまいます。
私は、この世界の神である悪魔に殺され、怒り、怯え、絶望に溺れる顔を見たかったのですから。
▽
三日目ということもあり、予想よりも早く死体を下ろすことに成功した。栄都の翡翠色の瞳はえぐれて、血が固まっていて、彼が大切にしていた服にも血が滲んでいた。
痛かったのだろうか。苦しかったのだろうか。それとも、悲しかったのだろうか。彼の顔は少し歪んで見えた。
その顔がとてもきれいで思わず口づけをした。
初めて死体があがった日、青白い肌に虚ろな瞳。何をしても抵抗しない体がとても魅力的だった。ずっと一緒に生活をしていた仲間が人形になって自分の意のままに操れるんじゃないかと思ってしまった。けど、まだそれは確信に至っていなかった。二日目。晴兎が吊るされるまでは。彼の体の傷、苦痛で歪んだ顔。それらすべてが俺にとって最高に愛おしかった。
もし、親友の同じ表情が見られたなら。俺が水湊を告発したのはそれが理由だった。水湊が悪魔だなんて思っていなかった。チョーカーを見つけたとき、それはきれいにポケットに入っていた。だから、俺が自らボロボロにして、血を付けた。全ては水湊を殺すために。
結果は最高だった。死に怯え、眠りについた彼は最高に美しく、そのまま弄ばせてもらった。他の二人も平等に愛した。なにせ俺は葬儀屋だ。死体の管理は俺がするのだから、周りの誰にもバレなかった。
バレるはずがないと思っていた。
栄都から離れるとすぐ近くに海斗と杏翔が居ることに気づいた。
「あ、貴方、一体…何を?」
杏翔が軽蔑と恐怖の眼差しでこちらを見てくる。彼も死んだらきっと美しいのだろうなとどこか客観的に考えていた。
「哀川…お前が、お前が悪魔だったんだな!!全ては己の欲を満たすために!」
まぁ、普通に考えたらそうだよな。と未だに自分事として捉えられずにいた。死ぬことが怖くないわけではない。だが、俺は一つ気になっていることがあった。
「まぁ、落ち着いてって。そういや、哀採ってどこ行ったの?」
「お前、哀採まで冒涜する気か!」
海斗は俺に殴りかかってきた。そして、一発じゃ気がすまないのか胸ぐらをつかんできた。
パズルのピースがハマるように俺はすべてを理解した。そして、そのまま俺は二人に告げた。
「冒涜?どの口が言ってんだよ。俺は葬儀屋。葬儀屋だから死体しか愛せないんだ。」
杏翔が小声で「葬儀屋への名誉毀損では?」と呟いていたが気にせず続ける。
「で、だから殺したと?」
「違うよ。俺は彼らを愛しただけ。そして、俺が愛した奴らは皆人間だったよ?どういうことかわからないほど能無しってわけじゃないよね?」
ちらりと二人の顔を見る。バレていたことは想定内だったのか、あまり表情は変えなかった。ただ、胸ぐらをつかんでいた手を離して、海斗は冷静に告げた。
「今日、処刑するのはこいつだ。醜い悪魔め。」
「啓人さん…正直、見損ないました。」
俺を見つめる二人はまるで善人の仮面を被っているようだった。
「啓人。何か言い残したことはあるか?」
「そうだな〜。俺は、二人の死に様も見たかったな。哀れな神様。」
そのまま振り下ろされる刃に抗うことなく俺は永遠の眠りについた。
【三日目夜】
私達は教会の2階にいた。私は二階があることなど知らなかったのですが、海斗さんは知っていたようで私を案内してくれました。
「悪魔を、処刑できてよかったな。」
「ええ。そうですね。」
私は窓の外を見た。そこには逆さに吊るされて哀れな葬儀屋の姿があった。彼のために私と海斗さんで作った特別な磔台だ。夕日にさらされ、シルエットが綺麗に浮かび上がる。その不釣り合いさに思わず笑みがこぼれる。
私は狂っていた。
初めて死体を見たときに、みなさんが浮かべた表情。恐怖におののき、絶望し、悲しみをあらわにしたその表情に私は魅了された。その表情を私に見せてくれるのが悪魔だったとしても、私は己の欲に従おうと心に決めた。
その結果、この場には悪魔と私だけが残ったのだ。
私は海斗さんに向き直り、改めて深々とお辞儀をした。
「海斗さん。貴方は私にとって、神様のような存在です。私の、私が望む表情をここまでたくさん見せてくださるなんて…。」
海斗さんは一瞬だけ驚き、その後微笑みながら話し始めた。
「けど、白羽根は良かったの?俺の味方なんかしちゃって。」
ワインをグラスに注ぎながら、彼は問いかける。その問いへの答えは決まっていた。
「先程も言いましたが私にとって貴方は神様です。神様の味方をしない人はいないでしょう?」
渡されたワイングラスを受け取り、勝利の杯を交わす。
赤いぶどうの色が血の色にも見え、高揚した思いのまま一気にグラスを傾けた。と、同時に目の前がくらみ始めた。
「…え?」
口から血を吐き出し、床に倒れ込む。毒だと気付くのにはそう時間はかからなかった。
「あははっ。困るよ、俺の味方をされちゃ。」
海斗は私と視線を交わらせるようにしゃがんだ。
「俺はね、”彼”のために殺さなくちゃいけないんだ。君一人だけ生かしておけないよ。」
そう、私の目の前で小瓶を振った。そこには「トリカブト」と書かれていた。
「ああ…なるほど…」
私は悪魔にとって邪魔な存在でしかなかったのだ。否、話し合いの中では有利に進むのでありがたい面もあっただろうが、どちらにしても死んでほしい存在であることに変わりなかった。他の村人と同じように。
視界はもう色を移さず、音だけを拾い上げる。悪魔の笑い声だけが耳に響く。彼は今、どんな表情で私を殺したのだろうか。それが見れないことが残念だった。
笑い声が遠のき、そのまま私の耳は音を拾うことはできなくなった。
▽
笑いが止まらない。ずっと信じていた。神だと崇拝していた相手に殺された白羽根の表情は、きっと彼が一番見たかったであろうほどの絶望で満ちていた。
全ては彼のため。俺は悪魔に取り憑かれ、村人を殺した。
というふうに見せかけた。
そう。全ては自分のため。この世界で自らの存在を消させないために他の村人を全員殺す必要があった。
8番目の村人は本当は存在しなかった。七人の村人が幸せに暮らす村。それがこの村だった。俺は、この村で生活をしたかった。しかし、神がそれを許さなかったのだ。8人目である俺は必要ないと排除された。
神がそのような態度なら、俺は悪魔にでもなってやる。
この村に俺だけしかいなくなれば、神は俺だけしか見ることができない。自らが見捨てた存在のせいで大切な村が破壊された。神は今どんな思いなのだろうか。
「なぁ、神様。これがお前が望んだ末路だ。さぁ、どんな気分だ?」
教会2階部分に飾られた十字架に問いかける。無論返事が来るわけではないのだが、それが更に神を超えることができたと自らを酔わせた。
もうここに要はない。俺は自宅に帰ろうと階段に向かった。
直後、後ろから首を切られる。血が溢れ出し、力が抜けていく。
おかしい。後ろには十字架しか置かれていない。人など居るはずがない。俺を切る事ができる存在は居るはずがないのに…
「残念だが、お前はここで終わりだ。黒井海斗。」
ズズっと何かを引きずる音と共に声の主は俺の近くに来た。目深にフードを被り、その手には大鎌が握られており、本物の悪魔のように見えた。
「神をも超えた存在になれたとでも思ったのか?勘違いも甚だしいな。」
悪魔は俺の横を素通りし、階段に向かう。待てと言いたかったが声が出せない。喉の声帯部分も一緒に切られたのだろうか。呼吸もできない。せめて、気を引こうと先程まで白羽根が飲んでいたワイングラスを悪魔に投げつけた。
そして、悪魔の顔を見て、絶望した。
振り返った悪魔の顔は、俺がよく知っている。本当の8人目だった。
「お前。勘違いもここまで来ると芸術だな。いいか。お前に思い出させてやる」
やめろ。
悪魔はフードを外す。やはり、よく知った顔だ。
「俺はこの世界の神によって作られた本当の8人目だ。」
この続きは言うな。
「お前は作られる予定だっただけの存在しない我楽多だ。」
瞬間、目の前が真っ暗になる。
俺は、存在していなかった。それが事実であり、俺を苦しめた原因だった。神は時に身勝手だ。俺を作り出そうとしたくせにいなかったものとしてあっけなく捨てられた。きっともう、二度と俺がこの世界に干渉することはできないだろう。それだけじゃない。他の世界にだって俺は登場人物にすらなれない。
いない存在だから。
俺はそのまますべてを諦め瞳を閉じた。
【???】
「…死んだか。」
黒井海斗。彼は可哀想な存在だった。歯車が違えば彼もまた九人目として迎え入れられていたはずだった。
だが、そうはならなかった。この世界を生み出した神が、彼を演じることができなくなったからだ。
そして、そのかわりに生み出されたのが俺だった。
所詮代替品。他の7人と比べ、劣っていることは明らかだった。
だったら、いっそ神に踊らされてみようじゃないか。
どうせ、皆生き返る。
そして新たな小説の中で別の人生を歩んでいる。
ならばせめて、この物語は俺と黒井の物語と名乗っても良いのではないだろうか。
俺は透明な壁を力強く殴った。
勿論、内側からの干渉は外の世界に影響されない。
だからこそ、画面の前の奴らに問いただしたかった。
「お前らは今、神に寄って作られた物語に巻き込まれていないと言い切れるか?」
end
黒幕 國守弓疾(くにもりゆみと)
ここまで読んでいただきありがとうございました!
やっと自室にパソコンを持って来れたぜ!