公開中
味の上書き
タイトルださ
2026/01/02
ぶすじゃん。
田山くんの好きな人を初めて見た時、そう思った。あくまで見たのは遠目からだから、近くで見たら美人なのかもしれないけど、その可能性は限りなく低そうだった。
あの子、名前は確か篠原だったか。篠原さんより、わたしの方がずっと綺麗だ。スタイルもわたしの勝ち。外見に注いでいる時間も熱量も、多分、わたしが上。声も__あの子の声は聞こえないけど__わたしの声がきもいわけじゃない。そもそも、わたしには特別な欠点はない。あの子には少なくとも、顔っていうどうしようもないような欠点があるのに。それなのに、田山くんはわたしではなくあの子を好きになったらしい。わたしは、自分の好きな人の思考回路が、急にわからなくなってしまった。
あの子のどんなところに惹かれたのだろう?確かに、あの子は人気そうだけど、今も友達と笑い合ってるけど、それは恋愛的にモテてるわけではないだろう。友達として、一緒にいて居心地がいいとか、そういうものなのではないか。だっていくら性格が良くったって、あの顔じゃ、男子の恋愛対象になるのはなかなか難しそうだ。
わたしは下唇を軽く噛みながら、自分の教室に戻った。
昼休み、わたしは友人に訊ねた。
「ねえ。隣のクラスの、篠原さんって知ってる?あの、ツインテールで身長が低い、あの子。」
知ってるよ、という返事は正直あまり期待していなかった。友人は可愛い方だけど、外交的なタイプではないからだ。しかし返ってきたのは意外な言葉だった。
「あ、けっこう話すよ。1年の時、同じクラスだったから。友達。」
「…ふーん。どんな子?」卵焼きをお箸でつまんで、口に運ぶ。わたしの家の卵焼きはちょっとしょっぱい。甘い方が、わたしは好き。
友人は楽しげな口調で言った。「優しいし、良い子。意外とノリいいしね。」わたしの眉がぴくりと動いたのがわかった。でも、ぶすじゃん。内心で反論した。誰にも言わないけれど。友人は続けた。「まあまあモテるらしいし。今彼氏とかいるのかな?てか、ゆみはなんで気になるの?」
わたしはその問いには答えず、ミートボールを口に放り込んだ。卵焼きのしょっぱさと、ミートボールの甘辛さが混ざって、独特な味が広がった。
「わたし、田山くんが好きなの。」唐突に暴露すると、友人は目を輝かせた。女子は恋愛話が大好きだ。
「へー、お似合いじゃん、2人。美男美女。」さっきのあの子の話なんてどこかに行って、わたしと田山くんが褒められてることに、優越感を抱いた。だよねだよねと思い切り乗っかりたい気持ちを抑えて、控えめに口角を上げてみせる。「告白しようか悩んでるの。」友人は、絶対成功するって、と根拠のあるようなないようなことを口にした。
田山くんにわたし以外の好きな人がいることなんて、そしてそれがぶさいくなあの子だなんて、考えもしていないみたいだった。
うん。そうだよね。わたしはミートボールをもうひとつ食べた。卵焼きの味なんてすぐ消えて、甘辛さだけが残った。
(><)