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青い号哭
骨が軋む音がする。爪が優しく乾いている。本棚を掃除する時が一番心地いい。
大切なものがあったような、愛しいものがあったような、忘れたフリして覚えてんだよな。
今日もあの頃に戻ってみよう。
シワがついたおでこの奥の記憶を呼び覚ましてみようか。
「なんでこんな早く大人になってしまうんだ。
夜が綺麗とか夏の幽霊とかぼやけたものばかり。なんでそんなものが綺麗に見えてしまうんだ。
取り残され息を飲む青い号哭」
桜の匂いがしてる。
窓の外が少し怖い。
網戸に桜の花びらが寄り添っていた。
このまま全部終わってくんだ。
それでもどうでもいいんだよな。思い残したことはあっただろうか。
本当は後悔しかないんだ。でももう戻れないんだろうな。
春ももうすぐ終わってしまうから。
「なんでこんな早く大人になってしまうんだ。
星が綺麗とか海が眩しいとか単純なことばかり。なんでこんなものが愛しくなってしまうんだ。
脳の奥、鳴り響いた青い号哭」
目標もなく夢もなくただやりたいことだけやった。
批判されても馬鹿にされても何一つ変わらなかった。
雨の音、秋の夕暮れ、冬の雪化粧、昼下がりの石油ストーブ。過ぎ去る記憶の匂い。
「なんでこんな早く大人になってしまうんだ。
青く染まった空の奥に世界があるって思ってた。
心の奥でずっと怖かったよ。大人になるのが怖かったよ。でも大人になっちゃったんだよ。
夜が綺麗とか夏の幽霊とか星が綺麗とか海が眩しいとか。
目標もなく夢もないけどそれだけでいいじゃんか」
窓を開ける。
「さよならだ春の匂い」