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【急遽】学校で出す小説の評価お願いします!
学校行事で展示する予定の短編小説です。
いつもよりも少し長めになっております。
「ここはこうした方が面白い」
「ここの文章はいい感じ」
「ここ誤字ってる」
などあれば言っていただけると嬉しいです!
この先本編はじまります。
午前一時三七分。旧校舎三階の南階段が一段増えていたので、いつものように蹴って戻しておいた。先週から続いている改修工事で人が近づかなくなり、気が立っているのだろう。
この学校の夜間警備員として勤めて早七年、俺は気付いたことがある。この旧校舎の夜間警備で最も厄介なのは、不審者でも肝試しの生徒でもない。学校に住み着く怪異たち、いわゆる《学校七不思議》の指導である。昔はもっと大人しかったのだが、最近の七不思議たちは自己主張が激しくて困る。一昨年の校内新聞で、鏡に人影が映り込んで噂になってからは特にだ。先程の階段も、去年まではせいぜい一年に数回程度だったが、今年はもうこれで四回目だ。前にアレを放置していたところ、広報部が大騒ぎして面倒なことになった。それ以来定期的に確認するようにしている。階段を蹴るのは警備業務に含まれるのだろうか。そんなことを考えながら暗い廊下を歩いていると、前方からガツン、ガツンと、金属のような高く重い足音が聞こえてきた。俺は大きくため息をついて、その方向に足を進めた。
「何度も言わせるな。午後九時以降に無断で校舎内に侵入するな。」
『別に夜くらい入ってもいいじゃん!誰も見てないって!』
「前に校舎内の監視カメラに移りかけて騒動を起こしたのは誰だ。」
『あっ…あれは事故なんだってば!ねぇお願いだよ〜!』
そう言ってガチャガチャと音を立てて駄々をこねているのは、校門近くにあったはずの二宮金次郎像。本人が言うには、外が蒸し暑くて酸化してヒビが入りそうだったから中に侵入した、とのことだ。確かに何十年と前から外に立ち続けている彼のボディには、ところどころ緑青が目立っている。かといって、校舎への不法侵入には変わりない。なにより、ここで床に転がられては床に傷がつく。
「…管理者に修復工事を依頼しておく。だから早く定位置に戻れ。そもそも銅像がうろうろと立ち歩くな。」
『えー?ケチ!』
そうブツブツと文句を言いつつも素直に戻っていくだけ、この怪異はマシな方だ。もっと厄介なのは…
『あ、そうだ。さっきまた花子さんが大騒ぎしてたよ!』
そんな声を背中にかけられ、俺はまたガクリと肩を落とす。
「またあいつか……」
これで今月三回目だ。明日、また報告書を書かなければ。
『なんでここのトイレこんな風にしたわけ!!?』
三個目の個室からそう大声で喚くトイレの花子さんを前に、俺はただ立ち尽くす。今は何を言っても耳に入らないとわかっているから。ここまで彼女が荒れている理由は、どうやら、先月行われた三階トイレの改装工事が気に入らなかったかららしい。軽く見渡せば、洋式便器、自動洗浄機能、音姫まで。確かに最近の学校設備は怪異たちに厳しい。花子さんはしきりに静かな機械音を立てる白い蓋を叩きながら続ける。
『あと何よこの「えるいーでぃーらいと」?ってやつ!!誰か来るたびにすぐ電気ついて全く雰囲気でないんだけど!!』
「……はあぁぁ……文句なら事務に申請してくれ。俺は警備員だ。ここの担当じゃない。」
『だって!こんなピカピカなトイレに居る花子さん、誰が怖がるのよ!!?』
そんなことを所詮は中間管理職である俺に言われても困る。
『しかも最近の子、全然一人で来ないじゃない!あんな大勢でワラワラ来たら出ていけるわけ無いでしょ!?』
「…俗に言う、連れションだな。それはもう諦めろ。」
『この前なんか「けーぽっぷ」流して動画撮りながら入って来たのよ!?怖がる気ないじゃない!!』
「それは俺にもわからん。最近の生徒は、何故かやたらと動画を撮りたがる。」
『ほんっと意味わかんない!!ちょっとはこっちのことも考えなさいよ!!!』
怪異に配慮してトイレの使い方を考え直す人間なんているか。なんて本音を言えるはずもなく、なんとか花子さんをなだめて、やけに白い光に目を細めながらその場を後にした。
花子さんを落ち着かせてからわずか九分後、俺の足は二階音楽室の前で止まっていた。中から、大音響のピアノ曲が聞こえたからだ。それもかなり技巧的な。俺は数秒立ち尽くした後、本日何度目かもわからないため息をついて、眼の前の扉を開けた。
「おい。暇だからって夜中に《革命のエチュード》を弾くな。」
その瞬間ピアノの音色は止まり、かわりに上から『あーあ』と明らかに落胆した声がふってきた。視線を上げると、そこには元から不機嫌そうな顔をさらにしかめたベートーヴェンの肖像画があった。なぜ自分ではなくショパンの曲にしたのだろうか。
『なぜ止めるんだ?ここからが素晴らしいっていうのに!激しくうねる劫火の如く沸き起こる怒りを表現したこの音が…』
「なんでもなにも、今は夜中。近隣に住む方々の迷惑だ。」
『そんなこと言われても、私達だっていろんな曲を聴きたいんだ。なあ、君?』
そう彼が話しかけている方を見ると、少し古びた高低自在椅子に座った、先程の大演奏会の犯人であろう白い女が、手を膝において小さく俯いている。反応からして、こちらは多少は反省しているようだ。なぜ怪異というのは普段喧嘩しかしないくせに、問題を起こすときだけは一致団結するのだろうか。非常に面倒くさい。
『…今日は、五臓六腑に響くような曲がいいとおもって…』
そうして五臓六腑に響いた結果が、六日前の近隣住民からの苦情である。
「……ならせめて、もう少し落ち着いた曲にしてくれ。」
俺はそう言って妙にうるさい音楽室に背を向けた。今度、吸音パネルの設置を申請しておこう。
『昔から口うるさい監視だな。じゃあ君、いつもので頼む。』
そんな声とともに聞こえた《エリーゼのために》の静かな旋律に目をこすりながら、俺は音楽室をあとにした。明日はいったい何通の苦情が届くのだろうか。考えるだけで億劫だ。俺は一度立ち止まり、軽く眉間を押さえてから、一階へと続く階段を降りた。
嗚呼、理科室というのはなぜこうも怪異が集まりやすいのだろうか。標本が脈打つとか、ビーカーが宙に浮くとか、人体模型の腕が落ちるとか、その程度ならまだいい。回収して戻せば済む話である。ただ、隅でメソメソ泣いている骸骨への対応の仕方は、七年経った今でも正解がわからない。
「……今日はどうしたんだ。」
『うぅ…だってぇ………』
「それだと何もわからん。」
『…保健室の解体図ちゃん、古くなって新しいのに変えられちゃったんですよね…?』
「ああ、そうだが。」
『わあぁぁぁ解体図ちゃぁぁぁん!!!』
そう叫んで彼はまた顔を覆って泣き始めた。なぜ骸骨から涙が出るのだろうか。こればかりは報告書にもなんと書けば良いのかわからず、毎回行き詰まってしまう。骸骨はしばらく喚いた後に、存在しない鼻をすすりながら口を開いた。
『中身が空っぽの僕に「固くてかっこいい」って言ってくれたのが彼女なんですぅ…』
確かに解体図は中身しか無いからな。お互いに惹かれ合うのは宿命なのかもしれない。心臓なんて無い骨が恋に落ちるという点は不可思議だが。そんな事を考えていると、彼がポツリと呟いた。
『僕、彼女に挨拶もできないままお別れなんて嫌ですぅ……』
「…確か、捨てられてはいないはずだぞ。」
『…へ?』
俺は床で跳び回っていたカエルの標本を元の容器に戻しながら続ける。
「まだ保健室の倉庫にしまってあるはずだ。明日ここへ持ってくる。倉庫には別のものを入れておけば良い。」
『え!?良いんですか!!?ありがとうございます!!』
一晩中泣かれるよりかはマシだ、とは、流石に人情が勝って言えなかった。俺は瓶を棚へ戻し、後ろで小躍りしている骸骨を一瞥してから扉を閉めた。
一階の警備を終えて腕時計を見ると、すでに時間は四時半を過ぎていた。今夜の警備も、程なくして終りを迎える。俺は一度大きく背伸びをして、眼の前の職員玄関の鍵に手をかけようとした。しかし、その手は結局、しようとした、で止まった。玄関付近の姿見に、見慣れない人影が映っていたから。暗がりが続く廊下に、その人影の妙に明るい声が響く。
『よっ。お久しぶり、おじさん。』
「…まだそこにいたのか。」
俺は小さく息を吐き、鏡の中に懐中電灯の光を向ける。そこには、背の低い女子生徒が悪戯っぽく笑いながら立っていた。一昨年の鏡騒動の犯人だ。二年前に廃止された旧制服が、彼女の肩と共に小さく揺れている。女子生徒は長い髪を耳にかけながら続ける。
『やっぱり、おじさん全然変わってないね〜。』
「当たり前だ。前にお前に警告したときからまだ4週間しか経ってない。」
『ここの警備辞めようとか思わないの?』
「お前や他の連中みたいなのがいる限りはやめられん。」
『酷いこと言うね〜。おじさんも似たようなもんじゃん?』
なぜここの怪異たちはいらないことばかりを言うのだろうか。ただでさえ他の怪異の対応で疲れ切っている頭が余計に重くなる。とはいえ仕事を放り出すわけにもいかず、俺は腰にかけた鞄から布を取り出し、軽く乾拭きする。女子生徒からの『もっとゆっくり!』だの『なんか布古くなーい?』だのの文句は無視した。しばらく、キュッ、キュッと、無機質な音だけが廊下に響く。俺の手がフレームに差し掛かった頃、彼女がポツリと口を開いた。
『…別にそんな気にしなくていーのに。』
一瞬、手の動きが止まる。
『どうせ、四年前に私が夜中に学校忍び込んだ時に変なおっさんに殺されたの、まだ引きずってんでしょ?』
「………」
『確かに最初はびっくりしたけど、夜中に勝手に忍び込んだ私も悪いし?ここもそんな悪くないし?別におじさんが落ち込む必要はないでしょ。』
「……そういう話ではない。同じことを繰り返させないようにするのが、俺の仕事だ。」
『頑固だね〜。おじさんモテなかったでしょ?』
「こう見えても妻と中学生の娘がいた。」
『……そっかぁ。そりゃあそんなに頑固になるわけだ。』
そんな言葉を聞きながら、俺はフレームから手を離す。少し古いデザインの姿見が、淡く月明かりを反射させている。
「とにかく、この時期は行事が多くて人も増える。しばらくは大人しくしてろ。」
『えーつまんなーい!』
「問題ごとを増やされては業務に支障が出る。生徒や教員方に迷惑をかけるわけにはいかない。」
『真面目だね〜。』
「お前も暇なら、親御さんに会いに行ってやれ。」
『……ん〜、そうしよっかなー。じゃあおじさん、またねー。』
職員玄関の鍵を片手に、俺は扉に手をかける。扉を開けた直後、扉の軋む音とともに、小さい声がポツリと背中に落ちた。
『………お母さん、元気かなぁ………』
その声に、俺は答えることができなかった。ふと振り返ると、鏡にはもう女子生徒はおらず、人気のない下足箱と廊下だけが映っていた。
学校内の警備を終え、俺は校門前の守衛室へ向かっていた。外は少し蒸し暑く、夜の夏を物語っている。体にまとわりつく熱をぼんやりと感じながら足を進めていると、校門付近の台座の上に、見慣れた影をみつけた。その影は俺の存在に気づくなり、台座からブラブラさせていた足を止め、こちらに手を降った。俺は軽く顔を上げ、帽子のつばを持ち上げた。
『あ、警備員さん!おかえりー!』
「…お前、近隣の方に見られたらどうするつもりだ。」
『もー大丈夫だよー!見られたことないし!』
そういって台座から飛び降りてニコッと笑う二宮金次郎像に、俺は軽く拳をぶつける。カン、と短い音が響いた。
『いったぁ!何するのさ!いじわるっ!!』
「とにかく早く台座に戻れ。俺は今から報告書を書く。今日は特に酷かったからな。」
『えー…つまんないの。』
そういって少しトボトボと定位置によじ登る二宮金次郎像を見ながら、俺は守衛室の椅子に座る。しばらく、無言が続いた。そして、誰にも聞こえないほど小さく息を吐き、口を開いた。
「……おい、銅像。」
『ん?なにー?』
「…職員玄関の鏡にいる女子生徒と、しばらく一緒にいてやれ。」
『…え?中にいても良いの!!?』
「六時までだ。行くなら第二理科室の骨も呼んでやれ。いいか、廊下ではしゃぐなよ。」
『やったー!ありがと警備員さん!!』
台座から飛び降りた二宮金次郎像は、俺の手から鍵を取り、校舎へと走っていった。俺は聞き慣れた金属音を耳にしながら、今日の分の報告書に手を伸ばす。ふと目を校舎へやると、三階トイレの白いLEDライトはすでに消えていた。《エリーゼのために》ももう聞こえない。俺は静かな校舎を一瞥したあと、今日も使い古されたペンを取り、きっと、誰も目を通さないであろう報告書を書き始めた。
キーン コーン カーン コーン……
「ねえねえ、この学校の七不思議って知ってる?」
「あれでしょ?トイレの花子さんとか!」
「そうそう!あと、夜中に勝手にピアノが動いたり…あ、動く骸骨とか!」
「あるある〜!」
「……あ、あとあれも。」
「なになに?」
「朝に警備員室に行くと、変な報告書があるってやつ。」
「なにそれ?聞いたことなーい。」
「なんか噂によると、七不思議の文句とか、それの改善方法とか書いてるんだって!」
「えー?どゆこと?」
「この前なんか、『二宮金次郎像の緑青対策に、金属用ワックスでの表面保護を推奨』なんて書いてたって!」
「え、絶対嘘じゃーん!」
「いや、それが、古参の先生が言うにはね…?」
「?」
「なんか七年前くらいに、旧校舎の夜間警備中に事故で亡くなっちゃった警備員さんがいたんだって。」
「ふーん…?」
「で、その人の幽霊がまだいるんじゃないか…だってさ。」
「……なんか嘘くさくなーい?」
「でもでもっ!面白いじゃーん!!」
午前零時二一分。俺は腕を組み、守衛室の机に無造作に置かれた付箋を一人眺めていた。
『三階トイレ和式化ヲ求ム。』
『最近じめっぽくてやだ!』
『追記 解体図ちゃんに会えました!ありがとうございました!』
今度、また報告しなければいけないと思うと、今から腰が重い。俺は、その好き勝手に文字を綴られた付箋をしばらく読んだ後、窓枠にそれらを貼り付けた。その窓には、何も映ってはいなかった。少しの間、静寂が流れた。その瞬間、未だに防音の許可が得られていない音楽室から、これまた大音響なピアノが聴こえてきた。俺は、今日もこれからきっと始まるであろう怪異たちとの攻防に大きなため息をついて、音楽室へと向かった。この騒がしさを、俺はもう数えなくなっていた。そして今日もきっと、騒がしくなる。
『おい。だから夜中に大演奏会を開くのはやめろ。』
了