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5.人間、遺跡で過ごし、絶滅の理由を知る
美玲(みれい)は、この遺跡でしばらくを過ごすことに決めた。
まずは、そのための拠点づくりだ。
神がくれたテントは確かに便利だった。
だけど、その中には寝るための布団と、灯りしかなかった。その灯りも、美玲が「ファイヤーボール」で火を灯さなければならない。
完全防御というのは魅力的だが、始めのときから一度も魔物と出遭っていない美玲からすれば、それは少し恐ろしくもあるが基本的には問題ないわけで……
美玲はそろそろテント以外のところで寝たいと思うようになっていた。
「この家が1番大きいかな。早速入ろう!」
美玲が狙ったのは、この遺跡の中で一番大きい建物。
この遺跡自体が1つの街だとするのなら、そこに住んでいたのはきっと長(おさ)だろうと思われるような建物。
ここなら、きっといい物が置いてあるに違いない!
美玲は、心を弾ませて、屋敷に|侵《・》|入《・》した。
そう、侵入……
もちろん、鍵が開いているはずはなかった。門扉は錆びていたからうるさい音はなったものの、入ることが出来た。いや、これも侵入とは言うが……
そして、本命の屋敷。
さすがの美玲もこれから住むかもしれない建物の扉なぞ壊したかない。
美玲は、まだ窓のほうが見目がいいだろうと、どうせ風属性の魔法で防げばいいだろうと、そう考えて、窓を割って屋敷に入ることにした。
先程の門扉を勝手に開けて入ることも侵入とは言うが、こちらのほうが侵入の規模(?)は大きい。
だから、こちらの方だけで侵入、とつい言ってしまうのは、仕方の無いことであった……
そう、仕方がないのである。
「くっさ。しかも埃っぽいし」
そして、中が埃っぽいのも仕方のないことなのだ……
美玲は、屋敷の中を日向を抱いて見て回った。
「ここも寝室かぁ。一応布団はあるみたいだけれど……かび臭い……よね……」
「ママ、僕はもっとふかふかの物がいいな」
そして、わがままを言う日向。
いや、わがままではない。我慢できないくらいの古さに臭いなのだ。
これは一体何年前のものなのか……
これを見ると、建物がちゃんと鍵が掛かって残っていたのが奇跡だと思えてくる。
「だよね……全然いいものがないな。次は……書斎かぁ」
「書斎だね。ここでママが本を読めるようになれたら良いのになぁ」
「やっぱり日向もそう思う? 正直狙っているんだよねぇ」
「そうなんだ。ママならきっと大丈夫だよ!」
「ありがとう、日向」
美玲は本を覗いてみた。
文字は……もちろん読めなかった。が、ところどころ意味の理解できるところはある。これがきっとスキルの効果なのだろう。
幸い、脆そうではあるものの形としてはちゃんと残っているし、魔法の気配も感じるので、保存することが出来るような魔法でもかかっていたのだと思われる。
きっと、建物が残っていたのもそのせいなのだろう。
中の物に関しては、そこまで影響がなかったようだが……
まあ、そもそも布団はどちらかと言えば消耗品……10年ほどで変わるものなので、多少はそういうことが原因であることもあったかもしれない。
——ピコーン!
『スキル「文字翻訳」のレベルが2になりました』
美玲の耳に、レベルアップのアナウンスが聞こえてきた。
美玲の目には、相変わらずところどころしか翻訳されていない文字しか見えていないのだが……
だが、それを見るだけでもどうやらレベルは上がるようだと、美玲は気づいた。
「とりあえず布団よりはテントで寝たほうが良さそうだと分かったし……今日はもう、本を読むだけでいいかな。日向、大人しくしていてね?」
「うん!」
美玲は、文字を目で追うだけの単純作業を行い始めた。
——ピコーン!
『スキル「文字翻訳」のレベルが5になりました』
もう日はほとんどど落ちたころ、美玲の耳に、このアナウンスが聞こえてきた。
「よし、今日はこれで終わり! 何を食べようかな?」
「ぼくは肉だよ」
「分かってるよ」
美玲は自分にはカレーを、日向には肉を用意し、食べることとした。
2日が経った。
美玲の文字翻訳のレベルは、飛行とは違って順調に進み、初日を含めて3日でで10にまで上がった。
「ところどころは文章も読めるようになってきたなぁ」
「どんな内容が書いてあるの?」
美玲はいつものごとく日向と会話をしていた。
「読めるところだけだと……
『魔物が、多、最後、砦、守ら、ば』とか。『魔物、優、魔法士、耐』とかかな。名詞とか文頭の文字とかが表れているようだし……
多分これ、小説か日記なんじゃない?」
——多分日記な気がするけど。それも、人間が絶滅する直前の。
美玲はそう言おうとして、やめた。
美玲は人間、日向は魔物。
日向たち魔物が、美玲と同じ人種の人間を滅ぼしたとしたら、素直な日向は、悲しむかもしれない。
そう考えたのだ。
また、4日が経った。
美玲は相変わらずテントで寝(ね)、昼間は本を読み、夜は魔法を創造し、練習している。
そして、美玲の文字翻訳のレベルは19まで上がった。
お陰で、人間が何で滅亡したのかも、だいたい把握できた。
要約すると……
まず、この世界には魔物がいた。
人間には、それを狩って生計を立てる者が現れた。
その職業は、やがて冒険者と呼ばれるようになる。
やがて、魔法士が現れた。
魔法士は、人々に魔法を教え、それを使える人は増えていった。
その殆どは、冒険者として生計を立てている。
そうして、平和な世は続いた。
しかし……
愚かな王が、魔法士を戦争に投入した。
その戦争では、大勢が亡くなった。
その中には、冒険者もいた。
人々は、数が増える魔物に対処することが出来なかった。
そして、あの日記の場面にあったように、この街が最後の砦となり、魔法士が奮闘するも、ほぼ限界に近く……
そこからは、書かれていなかった。
多分、この時に絶滅したのだろう……
美玲は、人間の悪い一面を見てしまった気がして、気分が少し、悪くなるのであった。