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笑顔で別れを告げましょう。
ヒト
暗い夜。ビルのわずかな光に照らされる。果たして、探偵と怪盗はこうしていていいものか。
しばらくの静寂のあと、重い口が開かれる。
「…なあキッド。」
『あ?んだよ名探偵』
「…………オレ、さ」
「戻るんだ。工藤新一に。」
薄く目を開けてキッドの方を見る。…いつも通りの顔をしている。あーもう!なんか言えよ!
『そっか。』
「は?いや、反応薄くねーか!?戻るんだぞ!?“江戸川コナン”が消えるんだぞ!?」
『だって、良い事だらけだろ。もうみんなのことを騙さなくて済む。嘘をつかなくて済むんだぜ?』
「それはそうだけど!でもオメー寂しくねえのかよぉ!意外と仲良かったろ!」
オレは怪盗相手に何言ってるんだ。
『ちょっとは寂しいけどよ、オレはオメーが楽になれるんならなんでも良いぜ?』
「なんだよそれ…」
『じゃ、オレと一緒に最期の空中旅行!しようぜ!』
「……」
呆れる。なんでそんな笑顔ができるんだ。
「下にはパトカー、上にはヘリもいるのに何考えてっ…」
トンッ。軽い足音。どうやらキッドと一緒に飛んでしまったようだ。
「っは!?おい!おいおい!」
『ふはっははっ』
「何笑ってっ…ハンググライダー早く出せよ!」
『でもみてみろよ名探偵!高い高いビル!パトカーのサイレンの音!きれいな月!!まだここも捨てたもんじゃっ…ないだ…ろ!』
「…………」
ポタポタ、お互い涙が溢れる。どんどん溢れ出てくる。
「そうだろぉ!なぁ!めぃたんでいぃ…!オメーは!新一になってもよぉ!」
「『オレの1番の好敵手』」
「…だろ?」
『……おうっ』
「はあああぁあああ…」
『ちょっと!なによ?そんな大きいため息出して。』
「んあー?おこちゃまのアホ子ちゃんには関係ない事でーす。」
『はぁあ!?アホ子ちゃんって言わないでよ!このばかばかばかいと!』
「へーへー。」
なあ名探偵。オメー新一に戻っても上手くやってるか?
“江戸川コナン”が新一に戻ってから4ヶ月。オレはもうオメーとの関わりがほとんどない。
「…そうだ。」
件名:久しぶり!
明日、“あのビル”に、花火持って集合な!
…っと。“あのビル”は名探偵ならわかんだろ。
「…へへ。」
『ちょっとお!急にニヤニヤしてなんなのよ!』
「ふひひ…。」
『んもーっ快斗ったら!』