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#13:それらは美しくある
とにかく、その日は忙しかったんです。
「またオペですか?」
まあ、大規模な作戦が行われていましたし……自分たち医局が平和ボケしていた、っていうのもあるでしょうね。
大きな手術も、ここ最近はそんなにありませんでした。
だからこそ、印象に残っていたんでしょうね。ここ最近のこと、全部全部。
「堂本先生、何ぼーっとしてるんですか!猫の手も借りたいくらいなんですよ!?」
「あ、すみません。ちょっと最近、寝不足で……。」
「何かあったんですか?悩み事があったら聞きますよ?」
聞きますよ、と言ったくせにすぐに離れていってしまいました。言葉を投げつけただけでした。忙しいから、と分かっていてもどうにも嫌な気持ちが沸き立つのを感じてしまいます。
簡単に聞くとか言ってくれとか、そういうことをポンと出されるのはなんだか違うと思ってしまいます。少なくとも、自分はそうだったんですから。
「あーはい、次は接合ですね。」
先んじて製造された、人間の四肢にそっくりである透明な物体。パッキングされていたそれを取り出して、それに自分は鋭い刃先を入れました。
腹の中の曖昧さとは反対に、滑らかに切り裂かれていきました。
これが終わったら、何か飲み物でも貰いに行きましょうか。そう思いながら、でした。
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「緊急連絡、ねえ。」
私は放り込んでしまった欠片を拾い上げようと機械に指を思いっきり突っ込む。がさごそといじっているうちに、思わず破壊してしまいそうな気がしてくる。うん、壊してしまうのは怖い。こんな貧乏人には確実に弁償できない。いったい、いくらかけて作っているんだ、こんな代物……そう思いながら、私は手を引っ込めた。
ぞろぞろとウォリアーが列になって戻ってくる。心なしか、疲れているように見える。なんというか、表情筋が強張っているというか。目に光が宿っていないというか。
「おーい、高木サーン。」
「あ、酒匂先輩。」
ぼけっと隊列を眺めていたら、私は先輩に後ろから声をかけられる。
「結構ギルト結晶も無くなッてきたみたいだから、そろそろ補給物資がほしい頃合いなんだよなァ。取りに行ってきてくれないか?補給に割かれてる分だけだと、人手がたぶん足りないだろうし。」
「ああ……。」
別行動していた戦力が一つに集中するというわけであって。それはより、戦いが、兎の殲滅作戦が激化するというわけであって。
まだペーペーである私が「特殊個体」のいるところに向かったとしても、まごついて邪魔になるばかりだろうから、少しでもそれがサポートになるのだとしたら、私は喜んでそうしよう。
「……たぶんジュースとかエナドリとかたくさんあるだろうし、何個かパクってきたらどうだ?あ、ついでにコーヒーももらってきてくれ。」
ぼそっと酒匂さんは付け足した。それから、いつものへらっとした笑みを貼り付けた。
ああ、こういうところなんだろうな。私はバレないように彼の薬指を見た。
丁寧に丁寧に磨かれた、銀色に光る指輪が馴染んでいた。
「……あー、やっぱり、やめておいた方がいいかもなァ。」
「どうしてですか?」
「いや、ポイントCの方と通信が取れてないらしくてなァ。ポイントCの方は、行かねェ方が良さそうだ。」
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『繰り返します。緊急連絡です。ポイントAにて、黄色の特殊個体が確認されました。戦闘が終わりましたら、速やかにポイントAまで移動をよろしくお願いします。』
アナウンスが、道路に反響している。
『ポイントC、応答してください。繰り返します…………』
それを聞く者は誰もいなかった。
『ポイントC?応答モードに入っていないのですか?応答モードの入れ方は』
いや。
アナウンスを遮る者なら、いたようだ。
「……何ですの、これ。」
機器つまんで、耳元にあてた。
元々この通信機器は耳にかけることを想定されているようだった。より明瞭な音声になる。
『ポイントCに不測の事態が起こったものと認識します。』
「まあいいですわ。」
途方もなく、強い圧力が加わった。紙屑を丸めて小さくするように、機械があっという間に不自然に縮められる。
華奢で艶やかな指からは想像できないくらいの怪力、だった。
「向かいましょうか。」
たぶん、わたくしの近くにいるでしょうから。
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無事に買えてよかったです。
レジ袋をそっと撫でました。中にはお気に入りのエナジードリンクが入っています。これじゃないと自分にはなかなか効きません、長丁場になりそうだったので今のうちに買えて良かったです。今回も局員用補給の中にはないと思っていましたが、案の定そうでした。
少し大きめに腕を振ると、かいんかいんと瓶同士が触れる音が聞こえます。耳に心地いい音です。
おや、前に人影が見えましたね。ちょっと迷惑になるから、変に大きく腕を振るのはやめましょう。
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わたくしの前に、人影が見えてきた。
目的地はすぐそこだった。
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「どうして」
狭まっていく喉を、どうにか、どうにかして開いて、問いました。
「どうして、ここに?」
それは上品だけれど、それは獰猛な笑みを浮かべました。
「こんばんは。」
追加
「あの子」は一応ですね、参加キャラじゃないです……口調被りしちゃってましたが、元々の構想がお嬢様モチーフだったのでしょうがなかったんです。ごめんなさい。