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魔王勇者と元王女の運命の恋「日替わりお題」
静寂が支配する聖域の最奥、崩れ落ちた神殿の柱の間から差し込む月光は、冷ややかな銀色を帯びていた。
かつての栄華を物語る彫像は半分に割れ、歴史の塵に埋もれていく。
私はその瓦礫の上に座り、遠くを見つめていた。
王女としての地位も、誇り高き血筋も、そして守られるべき平穏な日常も、すべてはあの日、魔王軍の侵攻と共に灰燼に帰した。
今はただ、亡国を背負う「元」という名の重い称号だけが私の身に纏わっている。
「まだここにいたのか」
低く、しかし心地よい響きを持つ声が静寂を破った。
振り返らねば、その正体を知る必要はない。
だが、私は知っていた。
この場所へ足を踏み入れることを許された者は、世界でただ一人しかいないことを。
そこに立っていたのは、魔王の軍勢を率い、大陸を震撼させた「魔王」――そして、私の最愛の騎士であり、かつて共に誓いを立てた男であった。
彼は剣を杖代わりに突き、こちらを見下ろしている。
その瞳には、かつての優しさと、支配者としての冷徹な光が同居していた。
「……なぜ私を追ってきたのですか」
私は声を絞り出した。
震える指先を隠すように膝の上に置く。
「君を殺せば、この戦いは終わると思っていた。だが、どうしてもその手で果たすべき結末があるのなら、それは君の命を奪うことではないと気づいたのだ」
彼は一歩、また一歩と距離を詰めてくる。
彼の放つ魔力は圧倒的でありながらも、私に向けられるときだけは不思議なほど穏やかであった。
かつて私は王女として彼に守られ、彼は私の騎士として忠誠を誓った。
しかし運命の歯車は残酷にも狂い、彼は敵の頂点へと上り詰め、私は全てを失った敗者の側に立たされた。
「君が求めているのは復讐か、それとも……」
彼の手が、私の頬に触れた。
冷たいはずの指先は驚くほど熱く、私の肌に刻まれる感触は痛いほど鮮明であった。
「私はただ、この地獄のような世界で、君とだけは変わらぬ場所にいたいと願っているだけです」
涙が溢れ、頬を伝う。
王女としての義務も、国家の誇りも、今はもう関係のないことだった。
目の前にいるのは、私を滅ぼすはずの魔王であり、同時に私の魂を最も深く理解する男である。
「……馬鹿な人」
私は彼の胸に顔を埋めた。
彼を拒絶するための言葉ではない。
この運命を受け入れるための嘆息であった。
彼は私の肩を抱き寄せ、その耳元で囁いた。
「王女の座も、勇者の称号も、すべては過去のものだ。これからはただの男と女として、この果てしない夜を共に歩もう」
月光の下、二人の影が一つに重なる。
正義と悪、勝者と敗者という境界線は、崩れ去った神殿と共に消え去った。
残ったのは、破滅の淵で結ばれた、あまりにも歪で美しい運命の恋だけであった。