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無縁異変ノ章 前編
ある時__
わたしは、異変を感じた。
不穏な空気がする。異界じゃない、この冥界に、異変を感じる。ひょっとしたら、異界、現界に異変が生じてしまうかも___
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「今日もいいわねえ」
緑茶とほうじ茶を飲み比べながら、わたしは桜を見ていた。
「不死原様」
「あらぁ、何かしら」
「そちらの仕事は滞っておりませんか」
「平気よぉ。でも、なんだか、堅苦しいわねぇ、白露」
「そうですか?昇子様の方が、おかしいです。ビジネスですので、礼儀正しくしなくては」
「そうかしらぁ。じゃあ、不死川さん、そちらはどう?」
わたしの親友である、不死川白露。閻魔兼三途の川の管理者である。
なんだか、変。いつもは、もっとフランクな人なのに。
「ちょっとだけ、冥館を開けるわぁ。昇那に、冥界を任せるわねぇ」
「何故ですか」
「ちょっと事情ができちゃったのよぉ」
「そうですか。速やかに戻ってください」
「わかったわぁ」
やっぱり、変。いつも、明るい人なのに…
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久しぶりに現界に降り立ってみる。そこは、冥界と同じくらい静まり返っていた。
「由有〜」
「こんにちは、不死原さん」
「どうしたのぉ、由有らしくないわよぉ」
「どういった要件ですか。《《関係ない》》あなたは帰ってください。そもそも、わたしたちは知り合いなんかじゃありません」
え、と思う。
由有とは結構親しいのに、知り合いではない、と返された。
紅も、闇も、空も、みんな「誰?」やら、「関係ありません」と返すばかり。
「どうしたのかしらぁ」
「異変をいっしょに解決しよう」と誘っても、「どこに異変が起きているのですか」と返された。
そして、ただならぬ霊気も感じた。わたしは数多の幽霊を、能力で仲間にしてきた。まだ、仲間じゃない幽霊がいるのだ。
「誰かしら。恵子、一緒に頑張りましょう」
「誰ですか。恵子とはわたしのことですが、あなたなんて微塵も知りません」
出てきた幽霊・恵子は、そっぽを向いた。
「どうしたのぉ。親友でしょう?」
「親友、ですか。笑えますね、そんなものは物語にしか存在しません。少なくとも、この世界に存在しませんよ」
そう言って、ひゅるひゅるひゅる、と恵子はどこかへ行ってしまった。
「…ふぅん。手強いわねぇ、久しぶりに楽しめそうだわぁ」
西の方に、霊気を感じた。そこに、異変の元凶がいるはずだ。