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1-4「いざ、宿泊研修へ」
宿泊研修までの三日間はあっという間に過ぎた。
しおり作成、座席決め、部屋割り……やるべきこと、決めるべきことをやっていたらすぐに宿泊研修当日だ。
というわけで。
今、僕はバスに乗っている。
隣には、まばゆい麦色の髪の少女が座っていた。
大きな二重の目に、すっと通った鼻筋。
控えめに言って美少女である彼女の名前は、|天《あま》|津《つ》|蘭《らん》。
「んー? どうしたの?」
無意識のうちに見つめてしまっていたのか、天津さんが顔をずいっと寄せてくる。
いきなり目の前に端正な顔が現れ、顔が赤くなるのが分かる。
「な、なんでもない、です」
目を通路側に逸らして、天津さんの顔が目に入らないようにした。
「ふぅん? なにかあったら言ってね」
「う、うん」
それから、背を座席に預け、目を閉じた。
この状況で寝ることなどできないが、今はそれで良かった。
そうしてバスに揺られること四時間。
途中、サービスエリアでの休憩も挟みながら、ついにバスは山の中腹に到達した。
そこでバスのエンジンが止まる。
そこから荷物を持って階段を上り、学園専用の宿泊施設へ。
一旦部屋に荷物を置き、宿泊施設の前に戻るように言われた。
「さて、A組は全員集まったかな? 班別異能レクリエーションの説明だ」
班別に並んだ僕たちの前に立つのは、成瀬先生だ。
「まあ、簡単に言ってしまえば、班ごとにくじを五回引き、そこに書いてある課題をクリアするゲームだな。内容は班の構成を見て、どの班でもクリアできるようなものにしてあるから安心しろ」
なるほど。
力を合わせてクリアしろと。
「くじは各班、代表者――班長に引いてもらう」
そう言って、手に持ったくじ入りの箱をしゃかしゃか振る。
僕の班の課題は、次の通りだ。
一つ目、山に隠された水晶玉を持ってくること。
二つ目、成瀬先生のもとへ先生作の短歌を一首暗唱しに行くこと。
三つ目、演劇の台本を読んで成瀬先生を満足させること。
四つ目、成瀬先生とかくれんぼをして、一分間見つからないこと。
五つ目、他の班から課題の内容を聞き出すこと。
三つ目と五つ目の課題に突っ込みたい。
三つ目はほぼ完全に先生がしてほしいだけのことだろうし、五つ目は課題として成立していない気がする。
四つ目の課題は、一人でも条件を達成していたらクリアらしい。
「班のメンバーだけで課題を達成してほしいから、他の班に課題の内容を話すのは禁止だ」
これで、五つ目の課題が課題として成立した、のか?
まあ良いや。
班別『異能』レクリエーションというのだから、基本どうやって達成しても良いのだろう。
そう考えると、どうやって達成するか考えるのが楽しくなってくる。
ああ、その前にこの班のメンバーを紹介しておこう。
班長、天津蘭。異能は、『意思伝達』。
田中太郎。異能は、『隠密』。
森川|夢《ゆめ》|香《か》。異能は、『印象操作』。
山田|啓明《ひろあき》。異能は、『森羅万象』。
そして、僕。
以上、この五名が八班のメンバーとなる。
「それでは、今から二時間で全ての課題を達成できるよう頑張ってくれ。班別異能レクリエーション、開始だ」
先生の合図により、班別異能レクリエーションがスタートした。
始まると、すぐに動き始める班、まずは作戦会議をする班と二つに分かれ、僕たちは後者だった。
「作戦会議したいから、みんな集まってー!」
天津さんの元気な声が響く。
僕たちは既に近くにいるのでそんなに大きな声を出さなくても良いんだけどな。
「分かりましたから、少し声を落としてくれませんか、天津さん」
そう言ったのは、山田だ。
「あ、ごめん」
あ、普通に謝った。
というのはおいておいて。
「一つ目のやつは、山田くんが場所を探ってそれを誰かが取りに行くのが良いと思うんだけど、どう?」
「良いと思います」
山田も自分がその役割をやることに異論はないらしい。
それじゃあ、誰がその水晶玉を回収するかだけど。
「じゃあ、水晶玉は僕が回収しに行って良い?」
「うん! お願いするね」
一つ目の課題、作戦概要。
山田が水晶玉を見つけ出し、僕が回収する。
「えっと、二つ目だけど」
先生作の短歌なんてあったか?
「先生作の短歌は月曜日の国語の授業でありましたね。覚えているので僕がやりましょう」
うーん、山田が頼もしい。
二つ目の課題、作戦概要。
山田が言いに行く。
「三つ目は、私がやっても良い?」
初めて口を開いたのは、森川さんだ。
「こう見えて、演技は得意なの」
「じゃ、お願いするね」
三つ目の課題、作戦概要。
森川さんが頑張る。
「四つ目のやつ、どうしよう?」
確かに、四つ目の課題の達成には困る。
あれだけ僕たちに有利な条件なのだ。
きっと先生が得意とする分野なのだろう。
「あのー」
挑戦は一回きりとは言われていないし、ここは数撃ちゃ当たる戦法で――
「あの!」
そうやって考えていると、またもや初めて聞く声を聞いた。
「どうしたの?」
「僕、影が薄いので……一分くらいなら見つからないと思います」
確かに。
声をかけられるまで気がつかなかった。
「そう? じゃあ、お願いしても良い?」
四つ目の課題、作戦概要。
田中が気配を消す。
「じゃあ、五つ目の課題だけど……私、人と仲良くするの得意だから、任せてほしいな」
「良いよ」
「もちろん」
「異論はありません」
「うん」
五つ目の課題、作戦概要。
天津さんが聞き出す。
「じゃあ、作戦も決まったし、一つ目の課題からやっていこっか」
天津さんの言葉により、僕たちは動き出した。
作者の次回更新までの課題は、『先生作の短歌を考えてくる』ことです。
さすがにカットはできませんからね。
頑張って考えてきます。