公開中
終焉の鐘 第十二話
この世界は、嘘で成り立っている──
誰もが嘘を並べ
誰もが嘘を信じ
誰もが嘘を愛す
この世界は、嘘で成り立っている──
誰もが嘘を並べ
誰もが嘘を信じ
誰もが嘘を愛す
中国裏社会の帝王
【闇雲】
彼の率いる|組織犯罪集団《マフィア》
【|终焉的钟《終焉の鐘》】
彼らもまた、
嘘を信じ
嘘を愛し
そして
闇を愛すものだった
---
第十二話 ~地獄に住むクズ~
---
「んー本当に死んでるな──」
藍色の髪の青年、地獄偶人は倒れているマリオネットを覗き込んでそう呟いた。
「まったく。これだから幹部という名の下っ端は面倒だ」
偶人は懐から液体の入った小さな瓶を取り出す。
「折角だし、この試作品試してみっよかな」
そしてそれをマリオネットの口に無理矢理流し込んだ。
「ん゛ん゛」
苦しそうな呻き声と同時に、マリオネットが目を開ける。
「偶人様…?」
「おはよう?マリオネットくん」
マリオネットは急いで体を起こして叫ぶ。
「あの紫雲くんって何者なんですか⁉︎なぜ、あの禁句を使っているんですか⁉︎あの禁句は、傀儡様の血が流れている人しか扱えない‼︎普通の人がただ唱えるだけじゃ、使えない‼︎傀儡様の血が流れているのは、傀儡様本人と、傀儡様から少し血をもらった偶人様、あなただけのはずなのに‼︎」
マリオネットのその言葉に、偶人はにっこりと笑った。そして何も言わずにマリオネットに背を向けその場を去ろうとする。
「あ、そうだ。マリオネットくん。その薬、死んだ人を生き返らせる薬でさ、まだ試作品なんだ。完璧じゃないから、もうすぐ君死ぬだろうね」
楽しそうにそう告げて偶人は去っていく。そして少し離れた所で待っていた青年に声をかけた。
「最近、紫雲くんがお気に入りを見つけたそうだねぇ闇雲」
壁にもたれかかるように立っている闇雲に、偶人は楽しそうに告げた。
「ほら、誰だっけ?黒雪──くん?紫雲くんが幹部に推薦するとか、かなりのお気に入りだよね。やけに仲も良さそうだし、相当黒雪くんを気に入っ──────」
偶人の言葉を遮るように闇雲は建物の壁を思いっきり殴った。あと少し力を入れれば壁が壊れるくらいのヒビが入る。偶人はニコニコ笑顔でそれを見てから笑顔が引き攣っていく。
「いや、冗談だよ?」
闇雲は何も言わない。ただ無言で偶人を見つめている。
「僕は黒雪が嫌いだ。今、嫌いになった。お前のせいで」
「なんて暴論だ」と偶人は笑いながら呟いた。
「闇雲も昔はもっと可愛かったのになぁ」
偶人のその懐かしむような言葉に、闇雲は顔を下に向ける。そして辛そうに声を絞り出した。
「そんなの、自分でもわかってる」
偶人はマジマジと闇雲を見てから口を開く。
「ただ、勘違いしないでね?紫雲は俺の物だ。紫雲もお前も、俺のだ」
偶人の冷たい言葉に、闇雲は静かに頷いた。
「素直な子は大好きだよ」
偶人はそう言って闇雲を優しい笑顔で撫でてから笑った。
「闇雲はそのままで良いんだ────」
不気味に微笑む偶人を、闇雲は感情のこもっていない目で見つめてからその場を去る。誰もいなくなったその場所で、偶人は懐中時計を取り出す。その中には、紫雲の──地獄人形の写真が入っていた。
「大丈夫だよ紫雲──俺が必ず君を幸せにするから────ね」
偶人は大切そうに懐中時計をしまってから歩き出す。
「君は俺の物だ。黒雪くんなんかに渡さない」
偶人は黒雪の写真をビリビリに破いてから楽しそうに微笑んだ。
---
「もう動いて大丈夫なんですか?」
とある病室にて、Lastは目の前で足を組んで座って本を読んでいる紫雲にそう声をかける。
「あぁ──君のおかげで助かった。七篠を庇いながら戦うのはかなり大変だったはず。よくやってくれた」
紫雲はそう言うと、探るようにLastを見つめる。
「Last──君はこれから七篠の上司になるけど、うまくやっていけそうか?」
紫雲のその問いに、Lastは微かに微笑んで頷いた。
「七篠もいいやつですし、黒雪になら自分のソルジャーを全員任せられそうなので」
Lastはそう言うと、立ち上がる。
「気づいてますか?」
紫雲は静かに頷いて窓の外に目をやる。
「30──いや、40くらいいるな」
紫雲はそう言って、懐から銃を取り出す。
「手短に片付ける──後方を頼んだ」
紫雲はそう言うと、躊躇いもなく病室の窓から飛び降りる。
「ここ───5階だよ──?」
Lastはそう呟きながらも紫雲と同じように飛び降りる。飛び降りながら視界に入った敵に少し発砲をしながらLastと紫雲は着地した。
「────戦うまでもない雑魚だな」
紫雲はそう言うと、懐からもう一つ銃を取り出し発砲した。瞬殺──周りにいた敵は一人を残して全員いなくなる。残った一人──指揮をとっていた男は震えながら数歩後退る。
「お──おかしい‼︎話が違う‼︎話が違うじゃないか傀儡様‼︎」
男は叫びながら紫雲とLastに銃口を向けた。
「傀儡様────?それは地獄傀儡のことか?」
紫雲のその問いに、男は頷く。
「あぁ‼︎そうだ‼︎あの傀儡様だ‼︎お前らはあの傀儡様に命を狙われているんだ‼︎あの最強の傀儡様に──‼︎もっと恐ろ‼︎お前らはすぐに傀儡様に殺されるんだっ──────‼︎」
男の言葉に、紫雲はスーッと何かが引いていくのが分かった。怒りか、憎しみか、悲しみか──。
「地獄傀儡は、本当に生きているのか──?彼は、俺の目の前で死んだはずじゃ──」
紫雲のその言葉に男は嘲笑した。
「ハッ──殺したとでも言いたいのか?しっかりと彼は生きているんだよ‼︎残念だったな‼︎」
「よかった────」
「ハ?」
男が紫雲を怒らせるために言った言葉に、紫雲は心からの声を出す。その言葉に、男は呆然とする。
「良かった──本当によかった────」
男は奇妙なものを見るような目で紫雲を見つめていた。それはLastもだった。何か、心配するような、探るような視線で紫雲を見つめている。
「これでようやく死ねる────」
「──────?」
紫雲の言葉に、Lastは首を傾げた。彼は紫雲の過去を知らない。それは彼だけでなく、今目の前にいる男も。だからこそ、紫雲の感情を読み取ることは出来なかった。ただ、紫雲がやろうとしていることだけは見て分かった。自分の心臓に銃口を向ける紫雲を見て、すぐにLastはそれを理解する。男も紫雲の行動を呆然と眺めていた。
「やめろっ──────‼︎」
Lastの声と同時に、高々と発砲音が鳴り響いた。
「ギリギリセーフって──所かな」
紫雲が発砲した鉛を、自分の手で受け止めた青年は、手から溢れる血を何事もなかったかのようにしながら微笑んだ。
「勝手に死なないでくれよ───俺はまだ、君としっかり話せてないのに────」
受け止めた青年こと、黒い髪にオレンジの瞳の彼────地獄傀儡は、そう言うと紫雲を優しく抱きしめた。紫雲は呆然と地獄傀儡を見て呟いた。
「傀儡──いや、誰だ、お前」
傀儡の笑顔が綺麗に凍りつく。
「俺の知っている地獄傀儡じゃない──本物がいないなら、まだ死ねない──か」
紫雲はボソボソ呟くと、地獄傀儡と名乗る男を見つめる。そしてのんびり口を開いた。
「生かしてくれたことは感謝する」
そう言うと、呆然としているLastを連れて終焉の鐘の屋敷に帰っていった。