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    頼ることを知らない(頼るのが下手な)ホークスさん。
    
    
        本当に、人を頼るって言うのがなんなのかわかんないんだろうね。
一人で倒れてたらかわ((((((((((((
必死に抵抗して無駄だったら諦めるんだろうけど、それを頼るとは言えないだろうな。
    
    
    吹く風が冷たくなってきた10月下旬。
俺はパトロールで空を飛び回っていた。
ある時はおばあさんの荷物を運んで、
ある時は女の子達にファンサして。
たまにはコーヒーを飲んで一息ついたりして、なんだかんだ外出を楽しんでいた。
…いや、楽しんでいたはずだった。
心当たりと言えば、何だか今日はいつもより寒い。
季節の変わり目だし、一晩あれば気温なんてすぐ変わる物だろうと気にして
いなかったのだが、ここまでくると少しばかり気にしてしまう。
空をいつでも飛べるように、ヒーロースーツは防寒服になっている。
10月下旬くらいの寒さならどうってことないはずなのに。
「…っくしゅ、」
ずず、と鼻を啜りながら、一つの可能性にだけは目を瞑る。
でも、こんなにわかりやすい症状が出ていて違うとは流石に言い切れない気もして、
嫌でもその可能性に辿り着いてしまった。
多分…というかほぼ確定で、風邪を引いた。
最近は体調を崩すこともなくて安心していたし、昔から予防とかはあまり
してこなかったから、油断しすぎたんだろう。
あぁ、だめだ。
こういうものは自覚してしまうと悪化するもの。
頭が重い気がして、はっ、と逃げ場を失った熱い息を吐き出す。
吐く息はこんなに熱いのに、体は寒い。
倒れなかったらいいな、なんて淡い期待を込めながら羽ばたいた。
ーーーーー
パトロールが一段落ついて、やっと帰れる、と息をついたのも束の間。
びびびっ、という聞き慣れた音に、不覚にもびっくりしてしまった。
スマホの画面を見れば、「緊急出動要請」と書かれた通知が届いている。
「はぁ……そろそろ寝たい…」
そんな願望を口にしながら、俺は現場へ向かった。
ーーーーー
「…うぁっ、エンデヴァーさん…!」
現場を見下ろして、大好きな人の姿を見つけて思わず声を上げてしまう。
「もう少し静かに降りてこい」
「はぁい、すいません」
少しふて腐れつつ、要請を出したヒーローさん達の指示に従って
市民の救助に取りかかった。
どうやら、市民の個性の暴走によって多くの人が屋根の上などに取り残されて
いるらしい。
俺に向いてる内容でよかった…これなら早く終わりそうだ。
その思いの通り、飛べるヒーローが多く出動してくれていたお陰で
だいぶ早く救助を済ませることが出来た。
今度こそ帰って寝よう。
そう意気込んでいざ飛ぼうとした時、後ろから声が響く。
「おい、ホークス」
「おわっ、!?びっ…くりした、どうかしました?」
人間、好いている人間の前では意地を張りたい生きものだ。
現に俺も今、しゃがみ込むか飛ぶかくらいしか選択肢がないほど体調が悪かった。
動きすぎたかな、多分悪化したんだろうな…なんて思って、
適当に理由をつけて帰らせて貰おうとまで考えたのに。
はっとした時には、俺の額に大きな手が当てられていた。
「…ぇ、えんでば…さん、?」
「熱いな」
「…何が言いたいんですか、」
「熱があると言いたいんだ」
めちゃくちゃ率直だ。流石エンデヴァーさん。
でも、流石にバレても面倒だ。
エンデヴァーさんなら他の人に言いふらしたりしないと思うけど、
念のために隠し通そう。で帰ろう。
「な、何言ってるんですか、?俺が熱なんか出すわけ…」
「救助中も時々口元に手を当てていた。貴様が何も無いのに口を隠すなんて
おかしい。」
「うっ…」
何で俺の癖知ってるんだろう…
そう、俺はめちゃくちゃわかりやすく、隠したいことがある時…特に
体調が悪いときは、口元を隠す癖がある。
あまり人に頼ったことがなくて、頼るってどんなことなのかいまいちよく
わかっていない。
だから、助けられてしまうような出来事は避けたいのに。
「とりあえず貴様の家に行く。道案内をしろ」
「え、俺の話聞いてました…?熱なんて、」
「聞いておらん!!というか聞く気もない!!」
「えぇ~…」
これは気遣いと言えるのだろうか…いや、ギリギリ言えない気がする。
でも…このまま看病してもらったら…まだ仕事も残ってるだろうし…
なんて思った次の瞬間、俺の体は宙に浮く。
「…は、」
「このまま行くぞ」
ちょっ…ちょっと待って!?
お、え、お姫様だっ…こ、?ぇ、?
「え、えんでばーさんっ!!降ろし…」
「無理だ」
だめだ…言い訳も全部通用しない気がする。
でも、少しだけ…少しだけ、普通の人間より暖かい体温に安心してしまった
自分もいる。
そんな自分が恥ずかしくて、やっぱり降ろして貰おうと口を開いた。
「あの…えんでばーさん」
「なんだ」
「やっぱり…だいじょうぶです、おれ、一人で帰れるんで…」
絶対、さっきはこんなんじゃなかった。
悪化した?それとも気が緩んだ?何にしろ、もうちょっと気を引き締めて…
「と、とりあえず降ろしてください!俺なんかが風邪引くわけないでしょ?
それに、もし本当に風邪引いてたとしても、俺なんかの看病のために時間使わせる
わけには…」
「言い訳は聞かん。というか、何が俺”なんか”だ。俺はお前”だから”看病を
するんだ」
「…ぅぇ、?」
え、それって………いや、そんなわけ無いか。
だって、いや…これはあくまで仲間としてってことであって…あーもう、俺何
変な妄想してんだろ…
顔が熱くなったのと同時に、今まで無視しようとしていた症状が一気に
ぶわっと押し寄せてきて、思わず「はっ…」と息を吐く。
「大丈夫か」
「だい…じょうぶ…じゃ、ないかもです…っでも、やっぱり看病は…」
「これ以上話は聞かんぞ。こうしているうちに熱は上がるものだ」
俺が言い返す間もなく、エンデヴァーさんは炎で空へ浮いた。
大人しくこのまま送ってもらった方がいいのか、最早。
でも、やっぱり俺なんかに時間を使わせるのはダメだと思う。
ただでさえ忙しいNo.1ヒーローなのに、俺のせいで…
嫌な想像が頭に浮かび始めるけど、俺にはもうそれを制御する力はなかった。
「…っ、」
じん、と目の奥が熱くなって、慌てて目元を腕で覆う。
「どうした」
「ぃ、いや…なんでも、ないです…」
「…そうか」
流石のエンデヴァーさんも思うところがあったんだろうけど、そこに触れないのも
エンデヴァーさんなりの優しさだよな…
感心しながら目を瞑ると、今日の疲れなのか次は眠気に襲われる。
「ぁ…えんでば、さ…すいませ、」
それだけ言い残したのを最後に、俺の意識は途切れた。
ーーーーー
「…ん"、」
うっすらと目を開けると、目の前に写るのは…
「っぇ、えんでばーさんっ…!?っ、ぃ…」
「あまり大きな声を出すな、頭に響くぞ」
お粥作ったぞ。と続けるエンデヴァーさんを尻目に、俺は眠る前の記憶を思い出せずに
いた。
とりあえず「たべます、」と呟きながら、ぐるぐると記憶を探る。
パトロールをして…で…あれ…
…まぁ、忘れたことは忘れたでしょうがない。
そう切り捨てて、目の前の美味しそうなお粥に目を向けた。
「わ…いただきます」
「ゆっくり食えよ」
口に運んだあつあつのお粥は、何だか久しぶりの食料のように体に染みて…
まぁ結論、美味しかった。
でも、最後まで食べたい気持ちとは裏腹に、三分の一くらい食べたところで
お腹いっぱいになってしまう。
残したくはなくて、ちょっとくらいは無理しても大丈夫だろうと
最後のかきこみでごちそうさまをした。
「ごちそうさまでした」
「片付けてくる。大人しくしていろ」
「はぁい」
へらぁ、っといつもの笑顔を作って、エンデヴァーさんを見送る。
背中が見えなくなった瞬間、「はぁっ…」と全身の力が抜けた。
その時、気を抜いたせいかさっきのかきこみが吐き気に変わって戻ってくる。
きもちわる…でも流石に、こんなとこで吐いたら…
エンデヴァーさんと前話したとき、いつも気に入ってる布団で寝てるって
言ってたから、布団はこれだけ…しかもお気に入りの。
そんなことをぐるぐる考えているうちにも、気分の悪さは増すばかり。
やばい…ほんとに吐きそう。せめて…せめて、なんか受ける物を…
そう思って辺りを見回そうと体を動かしたのだが、どうやらそれが
引き金となったらしい。
相当弱っているらしい俺には、もう制御なんてできっこなかった。
「ぉえ"っ…っは、っ…ぅ"えぇっ…!!」
せっかく作って貰ったお粥が、消化されてないそのままの状態で出てくる。
こんなことになるなら、最初から途中でやめておけば良かったのに。
結局、全部無駄にするなら…最初から、
色々重なって、気づいたときにはぐずぐず泣いてて。
そんな俺を何かの能力で察知でもしたのか、エンデヴァーさんが珍しく
心配そうな顔で帰ってきた。
「お、おいホークス…大丈夫か、」
「っ、えんでば、さ…すいませ、だいじょうぶですから…かたづけも、おれが
やるんで…ほんと、だいじょ…っ、ぇ"、」
「お前は寝ておけ、俺が片付ける…」
「は、っ、ほんと、だいじょうぶ…ですから、きたない、ので…あっちいってて、
ください…っ、」
「ホークス」
自分の荒い呼吸と、震える声しか聞こえなくて、でもとにかく謝らなきゃ
いけなくて、どうすればいいのかもなんかわかんなくなってくる。
「ごめん、ごめん…なさ、っ…ごめ、ぁ、ごめんなさぃ、」
「ホークス!!片付けは俺がやる。お前は寝ておけ。」
そこまで言われたところでやっと、エンデヴァーさんの声が聞こえるように
なった。
いつもよりも少し優しい声で、肩には俺より一回り大きな手が置かれていて、
安心でまた涙が溢れた。
「っ、あ…や、ほんとに…大丈夫なんで、すいません…お気に入りの
布団…汚しちゃって、作って貰ったお粥も全部吐いて…あの、ほんと…
大丈夫なんで」
「大丈夫じゃないだろう。無駄な意地を張るな」
無駄な…
まぁ、無駄と言えば無駄か…
でも、かといってこのままエンデヴァーさんに片付けさせることだけは
絶対にしない。
憧れの人なのに。好きな人なのに。
こんな醜態晒しておいて、それに加えて汚物の処理?させるわけないでしょ。
こんくらい自分で出来る。
「あの、これだけはほんっとに大丈夫なんで…!吐いたら何か元気になりました…!!
クリーニング出してくるんで、!」
そう言って立ち上がろうとした時、部屋に響いたのは。
「啓悟!!」
呼ばれることのないはずの本名。
恥ずかしながら、びくっ、と反応してしまう。
「お前はもう少し、頼るということを知れ…」
呆れたような声色に、思わず「ぇ…」と声が漏れる。
「た、よる…?」
「そうだ。お前が人にあまり頼ったことがないことはわかる。だがな、何でもかんでも
自分でやればいいってもんじゃないんだぞ」
「……、」
「弱ってるときくらい、頼ることは出来ないのか」
頼る…たよる…たよる、?
俺が、人に…?そもそも、頼るって…
「たよるって…どんなのなのか、わかんなくて…」
「はぁ…まぁいい、お前にも伝わるような言葉で言えば”何でも自分でこなそうと
せず人にやってもらうこと”。」
「ひと、に…?」
人に…やってもらう、
それはつまり…自分でやるべきことを、人に押しつける…?
「だ、から…えっと、ぇ…?」
「はぁぁ…とにかく、お前は今から寝る。その間に俺が布団を洗う。布団の
代わりにタオルでも被っておけ」
「えぇぇ…」
絶対に引かないつもりだったけど、これ以上反抗でもすれば逆に幻滅される気すら
して少し怖かった。
いや別に、押しつけたい訳ではない。ほんとだったら今すぐにでも自分で
洗いに行きたい。
でも…でも、頼ることを覚えるいい機会にもなる…かも、しれない。
だから…
「……すいません、ありがとう…ございます、」
「そうだ。それが頼るってことだ」
そう言ってエンデヴァーさんは、気づかないうちに手袋が外された俺の手に、
唇を寄せ付けた。
そのまま触れた暖かい感触に、俺の口からは「っ、へぁっ、?」なんて情けない
声が漏れる。
エンデヴァーさんは立ち上がって、何もなかったかのように「寝ておけよ」と
バスタオルを投げてきて、そのまま布団を洗いに行ってしまった。
そんなエンデヴァーさんの態度とは裏腹に、俺は取り乱しまくっている。
き、きす、?え、?これ、ぇ、キス…だよな、?キスだよな!?
うわぁやばい、これやばい…こんなの取り乱さん方が無理やろ…
…でも、ほんの少し、好きな人にキスされたことに喜んでる部分もあって。
俺はこれからも、エンデヴァーさんを好きなまま生きていくんだろうなって
改めて思う。
いつの間にか熱があることも忘れて、俺はしばらくふわふわと優越感に
浸っていた。
    
        ほんとにそんな癖あったら可愛い
両思い展開は作れませんでした♡
いや、これは遠回りというかほぼ両思いでしょ。