紅葉狩りへ。

今日、俺は山に登ることにした。友人に誘われたからだ。 「あいつ・・・まだか？」 しばらく待っていたが、来る気配が無い。ふと、スマホを取り出した所でバイブ通知が来た。 『ごめん！今日丁度熱出たから行けないわ！本当ごめんな！』 ・・・仮病じゃないよな？まあ、良いか。 スマホをしまい、座っていたベンチを立って、荷物を持つ。弁当やらレジャーシートやら、色々詰め込んでいる。 「さて、登ってみるか。」 山に登るには手続きが要るらしい。もう友人が取ってくれたから、別に心配することはない。 「本日は一人での登山ですか？」 「ああ、そうです。」 「・・・分かりました。気を付けて下さいね。」 自殺願望者とでも思ったのだろうか、一瞬戸惑っていたように見えた。そんな訳無いんだがな。 「・・・。」 こう見ると案外高いな。中々辛そうだ。 友人がこの山を選んだのは、今が秋であり、紅葉が綺麗だから、だそうだ。友人はセンスは良いが運は無い。熱を出したのもそのせいだろうな。 --- 足をぐいぐいと進めていく。登るなら登るで、パッパと登って帰ってしまいたいからだ。 「パキッ」 足元に木の枝が落ちていた。まあ気にすることでもない。変わらず足を進めていく。 頂上に近付くにつれ、考える事が少なくなっていく。疲れこそ溜まるが、苦痛とは思わないようにしていた。それこそ、チラリと見える紅葉が綺麗だったからだ。頂上から見ればどれほど綺麗なのだろうか・・・。 --- 「あれ、確かこれって・・・。」 彼岸花が何輪か咲いている。綺麗な赤色だ。 「赤い彼岸花を見るとあいつを思い出すな。」 とある偶像で象られた列車に乗った時のことだ。零夕、と名乗る彼女は黒い長髪をたなびかせていた幽霊だ。彼女が最後に俺にくれた花。それが赤い彼岸花だった。 「・・・零夕は今何をしてるんだろうな。」 少し笑う彼女を思い浮かべる。あの列車ではまともだった方なんだと最近になって感じた。 --- --- --- 「スーッ、はぁーっ。」 ようやく頂上に着いた。ここまで何時間だ・・・。腕時計を軽く見てみる。 「4時間・・・か。」 降りる時はロープウェイでさっさと帰ろう。 止まらず歩いていたからか、汗が止まらず服がグッチョリで気持ち悪い。だが山頂は中々涼しく、風がよく吹いて心地良い。 「腹・・・減ったな。」 少し座って落ち着き、そう思った。 荷物の中から弁当を取り出す。ただ、一つ心配なのは・・・。 「や・・・っぱそうだよな。」 折角準備してきた弁当は崩れていた。あまり美味しそうにも見えない。それでも腹が減っていたから仕方なく、と箸を持って食べ始める。 「・・・まあ、普通だな。」 本当に可もなく不可もない普通の弁当。崩れてなければ、温かければもう少し良かったのかもしれない。 --- 「ごちそうさまっした。」 まあまあ腹は埋まった。こんなものだな。 そういえば、ここは紅葉が綺麗なんだよな。そう思い出して、見れる場所に移動する。 「綺麗・・・だ・・・。」 あいつがここを選んだのもよく分かるほどには綺麗だった。木々はそれぞれ違う色をしているが、それこそが面白い。 「ん、ここから彼岸花も見えるのか。」 彼岸花も風に揺られたのか、花畑ごとゆらりと揺れる。 「・・・この山の運営の人どっかに居るか？」 近くの山小屋のドアを開けて、運営の人に聞く。 「・・・あの、すいません。ここの彼岸花って、摘んでも？」 「あ、大丈夫ですよ！でも、一輪まででお願いします。」 「分かりました。ありがとうございます。」 山小屋のドアを開けて出る。彼岸花を摘んで良いのなら、一輪ぐらい摘んで帰ろう。 あの列車に居たあいつらの為にも。 零夕も、花売りも、聞こえた声の奴らも。 あいつらを弔いたいからだ。 --- 「さて、もう帰るか。」 スマホを取り出して、友人にメールを送る。 『紅葉狩りの誘いありがとな。おかげで良い体験が出来た。』 ロープウェイ乗り場に少し急ぎ目に歩いて、そのまま零夕達を思いふけりながら乗った。