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第12話:黒髪の狂信者と、冬の邂逅
梅宮と出会い、彼が守る「街」の形を知り始めた中3の春。蒼は風鈴高校の近くにある古い神社で、一人の少年と出会った。
長い黒髪、周囲を威圧する鋭い眼光。杉下だ。
彼は梅宮の背中を追って風鈴にやってきた、いわば梅宮の「一番の狂信者」だった。
「……おい。そこで何をしてる」
杉下の低い声が、静かな境内に響く。蒼は梅宮から頼まれた「屋上の菜園に使う肥料の配合データ」をまとめていた手を止めた。
「……データの集計。あんたこそ、そんなところで殺気を振り撒いて、野鳥の生態系を乱すのは非効率だよ」
「……あぁ?」
杉下が詰め寄る。蒼の薄ピンク色の瞳が、無意識に目の前の大男を「スキャン」した。
「(……凄まじい筋密度。骨格の頑強さは、この世代ではトップクラス。……でも、重心が左に偏ってる。梅宮さんを追いかけすぎて、自分の体の限界を演算できてない)」
「……あんた、杉下でしょ。梅宮さんから聞いてる。……あんたのその左足の踏み込み、今のままだと梅宮さんに追いつく前に膝が壊れるよ」
「……お前に、俺の何がわかる」
杉下が拳を握りしめたその時、背後から「やめなよ、二人とも!」と明るい声が響いた。
梅宮一だ。
「梅宮さん……!」
杉下の表情が一瞬で「忠犬」のそれへと変わる。蒼はそれを見て、内心で「……なるほど。演算するまでもない、重度の梅宮依存症」と結論づけた。
「杉下、紹介するよ。蒼は俺の恩人なんだ。……これからはみんなで、この街を、風鈴を守っていくんだから」
梅宮が二人の肩をポンと叩く。杉下は不服そうに蒼を睨んだが、梅宮が「恩人」と呼んだことで、その殺気を無理やり飲み込んだ。
「……梅宮さんがそう言うなら、従う」
「……へぇ。やるじゃん。……その忠誠心だけは、効率的でいいと思うよ」
蒼が少しだけ口角を上げると、杉下はフイッと顔を背けた。
この時から、二人の奇妙な共闘関係が始まった。
進学校に通いながら「脳」として戦略を練る蒼と、梅宮の「盾」として最前線で拳を振るう杉下。
性別すら意識させない蒼の圧倒的な有能さと、梅宮への真っ直ぐな献身に、杉下は次第に「……茉莉は、男か女か知らんが、信頼に値する『同志』だ」と、独自の演算(勘違い)を完結させていく。
「(……杉下。あんたは私の『弟』みたいなもの。……あんたが梅宮さんを守れるように、私が最高のメニューを組んであげるから)」
蒼の「慈愛モード」が、不器用な弟分――杉下にも向けられ始めた、今へと続く大切な記憶の1ページ。
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