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君が最後、僕にくれた物。
りう
あの出来事は、昨年の夏頃の話だった。
セミの鳴き声が街のいたる所に響き渡り、気温もかなり高く熱中症の危険性もある中に引っ越してきたたった一人の女の子。
担任の先生に呼ばれ、サラサラ髪のボブで瞳には青と黄色の綺麗なグラデーションの女の子が教室の中に入ってくる。
黒板の眼の前に立ち自ら自己紹介をしてくれた。
「はじめまして|如月 葵衣《きさらぎ あおい》です!福岡県から引っ越してきました! よろしくお願いします!」
ムードメーカーらしい声で周りの人を自然と笑顔にできそうな声だった。
「はい! それじゃあ、如月さんに質問がある人いる?」
先生が1回手をたたき、言葉を続ける。
クラスメイトたちは少しざわざわ話し始めた。どうやら、はじめの質問が決まらないようだ。
(そんなに悩むか…?)
片方の手を机の上に肘がついたままに顔を乗せ、ぼんやり話を聞いていた。
「暁山くん、如月さんになにか質問ないかしら?」
先生が俺の名前を呼び、いっせいにクラスメイトたち全員の視線が来る。
心のなかで少しだけ気まずい気持ちになるも、質問したいものが一つもでてこない。
申し訳ないが正直、|彼女《転校生》には興味がなかった。
「…好きなものと嫌いなものは?」
転校生によくある質問をしたが、それだけでも彼女は満面の笑みを浮かべ質問に答えた。
「辛いものが好きです! 嫌い…とまではいきませんが甘いものがあまり得意じゃないです…」
クラスメイトはまたざわざわし始めるも「意外だなー」や「逆かと思ってた!」などを口にしていた。
俺はみんな彼女のことは多少気に入っているように見えた。
(とりあえず、仲いいフリしといたらいいだろ。)
そんな適当な考えを頭の中に入れたまま、1限目の授業が始まり一気に静かになった。
放課後になり、俺は図書室で少し勉強や本を読もうと思い向かった。
朝のうるさかった雰囲気がまるで嘘だったかのような茜色に染まるつつある静かな廊下をスマホ片手に音楽を聴きながら黙々と歩く。
(今日は何を勉強してから本を読もうかな? あ、帰りコンビニ寄ろうかな。)
少しわくわくしながら勉強が終わったあとのちょっとした自分へのご褒美計画を立てる。
そして、図書室に入り筆箱とノートなどを取り出して今日あった授業の問題集の復習をしはじめる。
「あ、君教室にいた…」
駆け寄ってきた転校生の声を聞いて、俺は頭を上げた。
「やっぱり! えっと暁山くん…だっけ?」
すごく嬉しそうな表情からコロコロと変わり人懐っこい彼女に、少し心のなかでほっこりとする。
(まるで、幼女みたいだな。)
彼女は一人で静かにキャッキャッしながら、本を読んでいた。
そんな中、俺はまた自室に入っていくような低めのテンションで勉強に戻り黙々と解き続ける。
今日最後のチャイムが鳴り、勉強道具をリュックサックの中に入れ立とうとすると、俺が帰ろうとするのを見て如月が急いで本を直しに行く。
「借りなくなよかったのか?」
「うん。ただ、気分で読んでただけだから。 それよりも一緒に帰ろ!」
だんだん声のトーンをあげ、帰りの誘いをする。
(男女二人だけは少し気まずくないか…? いや、最悪の場合俺の友達に彼女と勘違いされるんじゃ…)
「暁山くん…?」
不安そうな彼女の声かけにより、我に返った俺は『いいよ』という言葉をほんの少し戸惑いながら口にする。
そして、一緒に帰ることをOKしたことが嬉しかったのか、ぱあっと笑顔になりご機嫌な様子で足取りを軽くさせる。
ɴᴇxᴛ...✎ܚ