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鏡
鏡は不思議だ。
|自分《オリジナル》と同じに見えるのに、すこしずつ違う。
左右反対だから、だ。
それに、わたしは鏡の子と冷やかされている。
なぜ鏡かって?
左右反対、コピーだから。
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鏡をじっと覗き込むと、あの子みたいに見える。
わたしは、鏡を割りたくなる衝動を抑え、冷静さを保ちながら家を出た。水たまりに映るわたし、車のサイドミラーに映るわたし、ガラス窓に映るわたし、わたし、わたし___
全部同じなのに、左右が違う。それが気持ち悪くて、視界を塞いでやりたかった。足を止めることもできず、そのまま、ベルトコンベヤーに乗せられたかのように、学校に着いた。
挨拶もろくにせず、そのまま入る。4年生だからって、この空気感はきつい。わたし以外は全員楽しそうに喋っている。あの子も。
そのまま健康観察の時間になって、「|相崎優香《あいざきゆうか》」と呼ばれた。ぼそぼそと言い、そのまま次に流れていく。
「先生、ハンコお願いします」
愛想よく先生のもとへ行ったのは、|和田理衣《わだりい》。右のほうでヘアピンをとめていて、右側に三つ編みを垂らしている。
左側に視線を落とす。理衣の髪は艶がある。わたしの髪は、ガサガサだった。ぼさついていて、ぐしゃっと潰れている。三つ編み一つで、世知辛い世の中を思い知らされる。もうおしゃれという意味もなさなくなってきたヘアピンを、わたしは外す。三つ編みをほどいて、ヘアゴムを机の中にしまう。そのままお茶を飲み干す。
これで、もう鏡の子なんて言われないんだろうか。
あの子が、本当の|鏡の子《コピー》なのに。
人気者に真似された結果、自分が真似したと言われてしまった子の物語。