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第11話:再会、あるいは十秒の奇跡
キッチンのドアを開けて現れたのは、夢の中で何度も何度も、愛おしく見つめ続けたあの顔だった。
「遥? どうしたの、そんなに目を見開いて。……あ、もしかして寝ぼけてる?」
湊(みなと)は、片手にコーラのペットボトル、もう片手にのり塩のポテチを持って、ひょいと首を傾げた。
その姿は、病室で冷たくなっていた彼でも、白髪の混じった彼でもない。二十代の、瑞々しい肌をした、私の大好きな湊だ。
「……みな、と」
喉の奥から絞り出した声が、自分でも驚くほど震えていた。
夢の中では四十年。現実では、彼がキッチンへ行って戻ってくるまでの、たった十秒。
そのあまりの落差に、脳が、心が、追いつかない。
「……え、ちょっと、遥!? なんで泣いてるの!?」
私の頬を伝う涙を見て、湊は慌ててポテチをソファに放り出し、駆け寄ってきた。
彼は私の正面に跪き、大きな手で私の顔を包み込む。
「どうしたの? 怖い夢でも見た? ほら、大丈夫だよ。俺はここにいるから」
その手のひらの温もり。
夢の最後で、氷のように冷え切っていったあの指先とは違う、生きた人間の、確かな体温。
ドクン、ドクンと、彼の掌から伝わってくる拍動が、私の絶望を少しずつ溶かしていく。
「……行かないで、湊。お願い、もうどこにも行かないで……っ」
私は彼の首にしがみつき、子供のように声を上げて泣いた。
湊は一瞬驚いたように体を強張らせたけれど、すぐに悟ったように、私を強く、とことん甘やかすように抱きしめ返してくれた。
「行かないよ。どこにも行かない。コーラ取ってきただけだよ?」
彼は私の背中を、一定のリズムでトントンと叩く。
そのリズムは、夢の中で彼が私をあやしてくれた時と、全く同じだった。
「……湊、私、あなたと……おじいちゃんとおばあちゃんになるまで、一緒にいたの。子供もいて、庭に木を植えて……それから……」
支離滅裂な私の言葉を、湊は否定もせず、ただ「うん、うん」と静かに聞き続けてくれた。
🔚