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隣の学校の元ヤンに恋をする。5
英加扠
授業が終わり、帰りのホームルームが終わった。「湖夏ー一緒に帰ろ。」「あ、ごめん、今日バレー部があって…」「あーね。」「ほんとごめん…」「ううん、大丈夫。頑張ってね、バイバーイ」「バイバーイ」そうだ忘れていた。湖夏は月、水、土、日と部活がある。私は帰宅部なのでとっとと帰るが、湖夏はそうも行かない。来年冬の春高を狙って練習中だ。
また一人また一人と教室という密集地帯から出ていく。
私が最後のようだ。ブラインドを上げ、クーラーの運転を停止し、窓を閉める。電気を消して、教室を見渡す。暗い教室に明るく夏の日差しが降り注いでいる。アンバランスだ、でも、こうしたら、私の座っていた机と椅子がスポットライトを当てられたように輝く。ここは舞台で、先生も生徒も湖夏も観客。私が主役でこの映画の監督だ。今日は何をするのか観客達がソワソワとしながら今か今かと待ち続けている。私はそれに答えるようにステージに上がり…
「あら、誰かいるの…」「あ」声のする方を見ると、担任の清水先生が立っている。清水先生は新任教師で、歴史担当だ。パッチリとした二重にショートカット。爽やかで明るい性格だが、若さも相まってか、生徒達には舐められている。
「水上さんよね、ありがとうブラインド下げてくれて。」「あ…いえ…」口数が少なくなる、喉の奥から声を絞り出すがか弱く小さい声だった。
私は教師が苦手だ。教師は成績、内申点、将来。自分たちの表面しか見てくれない。友人、部活、家庭。そんな内側のところには注意も向けず、がむしゃらに突っ走っていく、それが嫌だった、散々相談に乗る、何かあったら言え、など温かな言葉を投げかけても、それが私の役に立ったことは一度そしてこれからもない。
「では、失礼します」「気をつけてね。」ニコッと効果音がつきそうなほど笑う。そそくさと後ろのドアから退散。そのまま背後を振り返ることなどせず、全力疾走で正門から外に出て、息を整える。スマホを見る。15時23分。バスの時間はというと「終わった」私は今日初めてバスを逃した。