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8.出航
--- ♢ No side ♢ ---
普段は人っこ一人いない港に、珍しく十一人の陰があった。
天気は晴れ。雲一つない快晴だ。
そんな十一人に数人の影が近づく。先頭を歩くものが十一人の前で足を止めた。
「お待ちしておりました、リュネットの皆様。」
「態々付き添いにありがとうございます、《《ルミエール王子》》。」
この世界・リーヴァで三番目に強いとされ、世界最強四天王の一人とも呼ばれている。彼はこの国・メルマイユの王子である。
「おや‥そちらの紅髪のお嬢様とは初対面ですね。お名前をお聞きしても?」
「あ、アレル・ミスリアと申します!」
「アレルさん、本日からよろしくお願いします。僕はルミエール・フォーツグラインと申します。」
ルミエールは頭を下げ、礼をする。
アレルは思い出した。この港に着く前に通りすがりの人達が話していた内容を___、
♢
「ねぇねぇ、あの噂聞いた?」
「あの噂ぁ?何よそれ。」
「アンタ知らないの!?ルミエール王子がこの辺に来てるって噂!」
「え!?あの王子様が!?」
「そう!容姿端麗、頭脳明晰のルミエール王子が王都からこっちに来てるのよ!」
「凄い事じゃないのそれ!会えるかしら‥」
「会えなくてもいいわ、私は一目見てみたいの!絵のように美しいと噂の容姿を!」
「あわよくば目が合うといいわね〜‥ま、無理でしょうけど。」
「そうよねぇ〜‥私達みたいな庶民が会える人じゃないか。」
「そりゃそうよ。」
「‥」
アレルは思った。
そんな美しくて頭良くて凄い人なのか‥?と。
♢
「__イケメンだぁ‥__」
見惚れるほど沼ってしまったアレル。
「おーい、アレルちゃん?」
「わっ!?」
「うわっ!!?」
「あ、《《リュオル》》さん!すみません!」
「急に大きい声出したのは吃驚したけど、謝るような事じゃないよ!」
リュオル・フォルテーオ。リュネット所属の20歳。身長が低い事を気にしているそう。
「皆もう船乗ってるから俺らも乗ろ!」
「あ、はい!」
東の国・ヘルーマに向かう船に二人も乗り込んだ。彼らが何故この国を離れて他国へ行くのか。それは“聖祭”があるからだ。
聖祭とは、他国から沢山の人が集まって“神”からこの世界の運命を聞く儀式の事。神からそれを直接聞くのではなく、“神の声を聞く少女”を通してその言葉を聞く。
「神の声を聞く少女‥」
アレルはデッキに出て自分がさっきまでいた国を見つめる。潮の匂いがしてなんだか心地が良い。程よい風が髪を流し、朝日の眩しさに目を細める。
「不安かい?」
「!シェリアさん‥」
「安心してね。今から行く場所は恐ろしい国じゃないよ。」
「‥お見通し、なんですね。」
「まぁ雰囲気でわかるんだよねぇ、不安かそうじゃないかって。」
「‥シェリアさんは、怖くないんですか?」
「怖くないよ?だって何度も行ってるもん。」
「ヴィスに寄生されるかもしれないって、不安じゃないんですか?」
「不安じゃないよ。だって、寄生されたらその時はその時だもの。怖がったってどうにもならないよ。」
「確かにそうですけど‥」
「‥どうしても不安なら、おまじないを教えてあげよ〜う!」
「お、おまじない?」
「うん、困った時に唱えるとなんとかなるおまじない!」
「‥危険じゃないですか?」
「それはわかんない!」
「え」
「だって使った事ないもの〜!なんか知ってるおまじないだから危険かどうか知らな〜い!」
「えぇ!?」
「それでも、君を助けてくれるのは確かだから!きっと大丈夫!」
「駄目じゃないんですかそれ!?」
「大丈夫だってば大丈夫!」
「えぇ‥?‥‥一応、聞くだけ聞かせてもらいます。」
「『行き過ぎた愛は世界を壊す‥ならばいっそ、世界を壊してしまうほどの愛を貴方に___、𝒹𝒾𝓈𝓉ℴ𝓇𝓉ℯ𝒹 』。」
「‥それが呪文なんですか?」
「うん、多分ね。」
「‥ありがとうございます。」
「うんうん!‥元気出してね、これからもっと大変な事があるんだから。」
「え?」
アレルがその言葉に対して質問しようとした時には、もうシェリアは隣ではなく艦内に戻っている途中だった。
「もっと大変な事、か。」
晴れた空にカモメが飛んでいた。