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コイノヤマイ
西崎さんは、《《コイノヤマイ》》に罹っているらしい。
らしい、という不確かな言い回しになるのは噂として聞いたからなんだけれど、僕は案外正しいんじゃないかと思っている。
なぜなら、彼女は時々教室の一点を見つめて、頬を染めているからだ。
西崎さんの席の斜め前が僕の席なので、時折、小さく黄色い悲鳴を上げているのも聞こえる。
そっと振り向いたら、彼女の照れ顔が垣間見える。
このクラスに好きな人がいるんだろうな、と僕は雑に思っていた。
そんな熱心に想われている奴は、これを知ったらさぞかし喜ぶだろうな、とも。
ある日のこと。
それは放課後だった。頼みを断れないタイプの僕は西崎さんに雑務を任されたので、最後の一人になるまで残っていた。
自分より下の奴なら断れたかもしれないけど、彼女、美少女なんだよな。
手と一緒に頭も動かしていると、「あ、秋田くん……っ」というか弱い声が聞こえてきた。
この声は__西崎さん?
振り向いたら、案の定西崎さんだった。
「あの、ね……? その……」
何かを話したそうだったので、僕は手を止めて立ち上がり、彼女の方に体を向けた。
「あ……秋田くんが__」
……ん? これってもしかして、告白しようとしているんじゃ。
「秋田くんが、欲しいのっ!!」
「……………」
瞬きをして、息を吸って、吐いて、その間たっぷり五秒。
「……は??」と、デカめの声を僕は漏らした。
「あ、あのねっ、秋田くんのことを見てるとなんか、私のものにしたいっていう思いが湧いてきて……変だよね。でも、この気持ちに嘘はつけないんだ。だから、」
西崎さんはこてんと可愛く首を傾け、
「私のものになって、秋田くん……?」
と告げてきた。
僕はマジかよ、と思うことしかできなくなっていた。
コイノヤマイ__乞いの病。
物乞い__者、乞い。
あの噂は本当だったのか……。
生憎、僕は美少女の頼みを断れるほど、メンタルが太くない。
僕は一体なんと言うべきなのか、ただひたすらに逡巡した。
病といえばやっぱ恋の病だよね→恋と乞いって音一緒じゃん→じゃあ物乞いで物と者もかけられそうだな、という風にしてできた物語です。