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1.たったそれだけの物語(half an hour)
同シリーズのパート0を読んでからご覧ください。
https://youtu.be/Z8BRh2k2t9c?si=C7TemN0OhFA4rH3V
可能であれば、この曲を聴きながら読んでもらいたいです。
ルイス「…僕達は、何処で道が分かれてしまったのかな」
アリス「さぁ? 興味もないわ」
炎を街が包み込む。
辺りには悲鳴が響き渡る。
探偵社とマフィア、特務課が協力して住民を逃がすなか、孤立した空間に二人はいた。
いつも通り変わらない様子。
しかし、心の奥底では何を思っているのか、ルイスが理解できることはなかった。
アリスは戦時中から苦楽を共にしてきた、たった一人の相棒。
ルイス「何でこんなことをするんだ、アリス」
アリス「そんなに理解できないかしら」
ルイス「出来ないね。英国軍や横浜の異能力者たちならまだしも、無関係な一般人も巻き込むなんて君らしくない」
アリス「…私のこと、何も知らないくせに」
無数の鏡が現れたかと思えば、アリスは明後日の方向へ銃を向ける。
放たれた銃弾は跳躍し、ルイスの肩を貫いた。
ルイス「──っ、」
アリス「痛いでしょう? 辛いでしょう? 今ここで大人しく私に殺されれば、それ以上に苦しむことはない」
ルイス「死が救済になるとでも? 馬鹿げてる、本当に君らしくない」
アリス「だから、貴方は私の何を知って──!」
ルイス「世界を敵に回してでも成し遂げたい何かのために必死なことぐらい分かる!」
アリス「…なによ、それ」
数日前から行方不明だったアリス。
それが昨日、突然姿を現したかと思えば犯行予告も共に出された。
『横浜を地図から消す』
はじめは驚いたが、誰もが裏があることに気づいていた。
アリスがこんなことをするヒトじゃないことを、知っているからだ。
ルイス「何を視た! 何を知った! 一人で抱え込むなよ!」
ルイスも懐から拳銃を取り出し、鏡を見渡して様々な方向へ弾を放った。
即座にアリスは移動して当たることはないが、気がつけばルイスが懐へと潜り込んでいる。
反応が遅れたアリスは重い拳を受け、数メートル後ろへ飛ばされた。
アリス「一人で抱え込むな…? 面白いことを云うのね、貴方。いつもはルイスが皆に相談しないのに」
ルイス「別世界の自分なんだから、似ていて当然だと僕は思うけどね」
アリス「…どちらにせよ、私はもう覚悟を決めたのよ。必ず見つけなくちゃいけないの。あの子を救えるのは私だけ、孤独なあの子は、今もきっと、一人で、何もないあの場所に、」
ルイス「僕を頼ってよ、アリス。そんなに頼りないかなぁ…」
ルイスの目に涙が浮かぶ。
所々焦げてしまっているシャツの袖で拭いながら、武装を解く。
ルイス「誰も君を責めたりしない。皆が君を待ってる。だから帰ろう、アリス」
アリス「………、」
ルイス「アリス…?」
アリス「無理よ、戻れない。この街をここまで滅茶苦茶にした私を誰も責めない? ふふっ、冗談もここまで来ると笑えてくるわね」
キンッ、と短刀がヴォーパルソードへぶつかる。
金属音に耳がやられそうになっていると、アリスは次々に隠していた短刀を投げてきた。
全て受けるにも限界があり、ルイスの傷は増えていく。
高く舞い上がったアリスが夜空に浮かぶ月と重なり、影で追撃が分かりにくい。
ただ、ルイスにも作戦がないわけではない。
アリス「っ、消え──!?」
一度ワンダーランドへ入り、アリスの背後へ戻って来る。
後ろを取られるとは予想していなかったのか、防御の姿勢が取れない。
アリスはルイスの攻撃を振り向きざまに受け、そのまま炎が渦巻く地面へと落ちていった。
ルイス「……流石にコレじゃ倒せないよね」
アリス「私の鏡を使ってた貴方なら分かるでしょう?」
“|鏡の国のアリス《Alice in mirrorworld》”は鏡を生成する異能力。
そしてアリスの身体は人間ではなく、異能で作られた“虚像”。
攻撃を受けて傷を負ったとしても、次の瞬間にはもう何事もなかったかのように戻っている。
アリス「貴方の想いの為に戦いなさい、ルイス」
ルイス「……。」
アリス「私は、私の守りたいヒトの為に戦う」