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拝啓、掃除屋のお兄さん。
過度な表現はしていないつもり。
本来ならR18のものをめっちゃマシにした。
マジで本来の描写入れてたら確実にR18だった。
読みやすくはなったけど、普通に人死んでるから注意((
「ええ、…なるほど、分かりました。すぐに向かいます。」
私が通話を切ると同時に、汽車はトンネルに入り、周囲が急に暗くなる。
古ぼけた汽車は、私を乗せてガタゴトと揺れる。
小さな箱は、ただ一つの目的地に向かって走っていた。
いい加減に置かれていた新聞紙を広がせると、
[謎の連続失踪事件、またもや発生か]
という大きな見出しが目に付く。
くだらない。
近頃同じ話題ばかりだ。どうにかならないのだろうか…。
「おやまぁ、見ない顔ねぇ。」
ふと声がし、私が振り向くと、そこには腰の曲がった60代辺りの貴婦人がいた。
「立っていては危ないですよ。前の席でよろしければどうぞ、レディ。」
「あら、あたしみたいなババァにレディなんて嬉しいわぁ。」
「滅相も無い。お綺麗なんですから、そんなご謙遜ならずに…。」
「もう…、お世辞が上手ねぇ…!」
彼女はどっこいしょと言う声と共に私の前の席に座った。
「その事件、最近有名よねぇ…。」
彼女は私が読む新聞紙を指差す。
「あぁ…、ご存知ですか。」
「当たり前よぉ。今じゃ、どこもその話で持ち切りなんだからぁ。」
「………そうですね。」
「そんな事より、あなたどこの貴族様なのぉ?」
「貴族なんてとんでもない。ただの平民ですよ。」
貴婦人の質問に、私は苦笑すると、
「あら…、そうなの?それはごめんなさいねぇ。
それにしても、あなたみたいな良い男、もっと早くに出会いたかったわぁ。」
彼女はため息交じりにそんな事を言った。
「ご冗談を。」
「冗談な訳ないわよぉ‼あなたみたいに綺麗のお顔で、
身なりのきっちりした人なんて、あたし見た事ないわぁ…‼」
「ハハハ、それは光栄です。
…ところで、少し聞きたいことがあるのですが、いいでしょうか?」
私が問うと、彼女は海老のような真っ赤な顔を見せて
「もちろんよぉ‼ここら辺の事は、あたしが一番知ってるのよぉ‼」
「それは頼もしい。では、この人ご存知でしょうか?」
一枚の写真を取り出すと、彼女は眼鏡をかけて眉間にしわを寄せる。
「んー?初めて見たわねぇ…。それ、本当にこの辺の人?」
「そう聞いたのですが…、残念です。もうここにはいないのでしょうか…。」
「ごめんなさいねぇ、力になれなくて…。」
「いえ、構いませんよ。…もし次でお降りになるのなら、
もう席を外した方が良いですよ。」
「あら、もうそんな時間?残念ねぇ…、そうだ、もし良かったら今からお茶でも」
「すみません、これから少し急用がございまして…。」
「あらら…、これまた残念…。」
私は帽子を取り、頭を下げるが、
彼女は少し不服そうな顔をするだけで、席を立った。
次第に汽車は止まり、貴婦人は振り返りもせず降りて行った。
私はもう一度頭を下げようと思ったが、馬鹿らしく感じ新聞に目を戻す。
そして汽車は蛇がのたくるようなスピードで、風を切って進んだ。
ふと、窓を見ようとしたが、すぐにやめた。
きっと、綺麗でもない景色しか広がっていないと、そう思ったから。
勝手に想像して、勝手に諦めて、失礼な奴だなとしみじみ思う。
私は揺れの音とリズムの中で静かに目を閉じて、ふと考える。
もしも私があの時、「実はこの事件の犯人、私なんです。」なんて言ったら、
あの貴婦人はどんな反応をしていただろうか。
…いや、老いた婆の顔なんて、そんなもの乾いた海藻でしかないか。
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そこは、しんとしたスラム街だった。
死人のように動かない人間の周りを、|蝿《はえ》がたかる。
小枝のように細い腕に、やせ細ってしまった子供が倒れている。
まだ|臍《へそ》の緒がついている赤ん坊がゴミ箱の中にいた。
どれが生きてて、どれが死んでるなんて、見分けがつかない。
しかし、これはきっと、よくあること。
私は、死に物狂いで私に縋る人々に何の感情も抱かずに、前へ前へと進んだ。
ふと、つい目を奪われ、立ち止まってしまう。
必死に逃げ場を求める動物のような目をした一人の少女。
小鳥のようにぶるぶると震えている少女が、こちらを見つめていた。
一目見て、少女は捨てられたことが理解できた。
彼女の透き通るばかりに真っ白な頭髪が、それを示していた。
きっとアルビノとして生まれて、気味悪がられてしまったのだろう。
しかし、ボロボロだがテディベアを大切そうに持っているということは、
この子の親も止む負えなく捨てたという事だろうか。
私は同情心を抱き、彼女の頭を撫でてやろうと手を伸ばす。
すると、彼女はぎゅっと紅い瞳を閉じて、先程よりももっと小刻みに震えていた。
可哀想に。ここに住む人々は、きっと愛情も知らずに育ったのだろう。
私がどうにかできるような話じゃないが…、あまりに酷い。
私はただ怯える少女の頭を撫でていると、彼女は一瞬驚いたような顔を見せたが、
すぐに穏やかそうな顔に戻った。
都市部ばかりが発展し、こういうところで苦しむ人々には目を向けられない。
嫌な世界だ。どいつもこいつも自分が大切で仕方がない。
自分の地位のために必死なのだろう。
結局、また私は諦めて、手を戻す。
私は少女の目を見て問う。
「君、名前は?」
「な、…なま、え…?」
彼女の声でさえ、頼りなく震えていた。
「ああ、名前。私だとジャン・アルベルト・グラヴェロット…みたいな。」
私は淡々と自身の名を告げると、彼女は一層戸惑うように
「ジャン…、アル……。」
名前を覚える…いや、復唱することも諦めたか…。
「では、君はどう呼ばれていたか、覚えているかい?」
質問を変えて問うと、少女は俯いてしまった。
質問が悪かったか……。申し訳ないことをしてしまった。
それにしても自身の名前を覚えていないとなると、不便だろう…。
「そうだな…、じゃあ『クロエ』はどうだい?君の名前はクロエ。」
「クロエ…?…じぶんの、名前?」
「あぁ、嫌ならもう少し考えるが…。」
「…じぶん、名前、カトリーヌ。」
覚えてたんだ…。思わず頭を抱えて苦笑してしまう。
まぁ名前なんて別に__
「じゃあカトリー」
「でもでも、!じぶん、クロエが良い…!」
彼女は必死そうにテディベアを強く握る。
さっきの震えが嘘だったかのような、瞳に溢れた抑えがたい喜びと笑顔を見せて。
……そうか、この子からしたら、名前は大切なものなのだろう。
「そっか、うん、分かった。ではクロエさん、お願いしても良いかい?」
「おねがい…?」
「あぁ。この辺で、一番偉い人の所まで連れていってほしいんだ。」
「えらいひと…いいよ、じぶん知ってる…!」
私がそうお願いすると、彼女は快い返事をし、私の袖を引っ張ってくれた。
それにしても…、本当にここは異様な空気だ。
当たり前のように死臭が漂っている。
|蠅《はえ》がたかるのも、少し納得がいく。
しかし、逃げたくなるようなこの臭い、私からしたら少し助かるな。
スラム街だったことも丁度良い。
ここなら警察もろくに取り合わない。
なぜなら、人が死ぬのは当然のこととなってるから。
今回は楽な仕事になるか…。
私は少女の後をただついていると、彼女はふと立ち止まる。
ここか…。
外の造りはちゃんとしている訳じゃないが、暖を取るぐらいは出来るだろう小屋。
最も、住みたいとは思わないが。
私は少女に、自分が身に着けていたマフラーをかけてあげる。
「寒いだろう?お礼と思って受け取ってくれ。
君はもう戻ってくれていいよ。ありがとう。」
少女の頭をポンと撫で、私は小さな小屋の中に入った。
---
小屋の中は、中年の貴人が、今朝私が読んでいた新聞紙と全く同じものを広げて、
古ぼけた椅子に腰掛けていた。
「なんだぁ、アンタァ?何の用だぁ?」
彼は私の顔も見ずに、煙ったい煙草を吸う。
「ご依頼を頂いた、掃除屋と言う者です。」
「掃除屋ぁ?頼んだ覚えねぇぞ、そんなもん。」
「おや、そうですか?しかし私は確かに受け取ったのですが…。」
「さっさと帰んなぁ。俺はアンタに用はねぇよぉ。」
私が話している途中にも関わらず、彼は煙草の煙を吐き背中を向けた。
自覚どころか、礼儀もなっていない…、ということか。
呆れるほかない。この辺の大人は、全員そうなのだろうか…。
いや、私は全員と関わった訳じゃない。そう決めつけるのはよそう。
私はどうしようもなくため息を吐き、そこの机に置いてあったナイフで彼を刺す。
人を刺し殺す感覚が、自分の腕に伝わる。
今やもう慣れてしまった。今更何かを思うこともない。
何度も何度も刺していると、最初は呻き声を上げていた彼も次第に動かなくなった。
「ゴミの駆除は完了か…。あとは…、」
私は独り言を呟き、自分が持っていた鞄の中に入っているナイフを取り出す。
それはさっきのナイフとは違い、よく彼の身に入った。
その魂の入れ物を6つに分け、別の黒い鞄に入れる。
私は慣れた手つきで、淡々と血が染み付いてしまった豚小屋を掃除した。
どれぐらい経っただろうか。やっと納得がいく程綺麗になった。
匂いはともあれ、中は来た時と全く一緒だ。
さて、もう帰ろう。いつまでもここに居座っていたら、頭がどうかしそうだ。
私が振り返ると、そこには先程の少女がいた。
まさかの出来事に開いた口が塞がらない。
はぁ…、この感じだと、ずっとそこにいたと考えるのが普通だろう。
何かが入ってきた気配なんてものは無かったのだから。
仕方がない…。見られた以上、ここで仕留める他ない。
それが賢明な判断と言えるだろう。
いや、最期に少し話してやろう。ふと、そんな情が湧き、私は口を開く。
「どうして君は」
「クロエ…。」
「…失礼。クロエさんはどうして、戻らなかったんだい?
私は確か、戻れと言ったはずだが…。」
意味が分からなかっただろうか…。いやそんなはずはない。
何せ、言葉が話せて、服もさほど汚れていない上に、
この少女は10歳前後だと考えると、この意味も理解出来るはずなんだが…。
「…わた、わたし戻るとこ、持ってない…。」
少女のその言葉に、私ははっとする。
その時、どこかで行き場のない怒りが込み上げてきた。
「そうか…。」
それ以外の言葉が出なかった。
拳を固く握り締めて指の肉に爪を立てる。
怒りで震える拳を止める事はできなかった。
私にはどうしようもない、とどこかでいつものように諦めようと思っていた。
どうせ、意味なんてないのだと言い聞かせようと思っていた。
だがそれと同じぐらいどこかで、変わりたいと思っていたのだろうか。
まさか…、8年も経ってから気づくとは…。
私も未熟なままだったな。
「ではクロエさん、…私の所へ戻りませんか?」
ただ何も考えず、そんな重要なことを軽々しく言う。
自らが言ったことの重さに気付き、サーっと血の気が引いていく。
何を言っているんだ、私は。
我ながら浅はかな考えに不快感が伴う。
だが少女は、暗かった心の中に一筋の光が差したように、
「いいのっ、?」
最初に出会った時からは想像もつかないほど、輝かしい顔を見せた。
嬉しすぎて喜びを隠せないようだ。
私もそんな彼女に驚くも、言葉を取り消すことはできない。
ただどうしようもなく微笑んだ。
ふと、先程よりも寒くなった気がして、私は小屋の戸を開ける。
空が抜けるような青い空だが、見事な雪がふわりと舞う。綺麗だ。
寒いが美しい、冷たいがどこか暖かい。
まるで今の私の気持ちをそのまま表しているようだった。
「では行こうか。これからよろしく頼むよ、クロエさん。」
「うん、おにいさん…!わたしも、よろしくね!」
Does Not Continue......((
※続かない……((