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ぬりかえ
白衂
「違う…っ、凛は、茶色の髪で…たぬきみたいな目で……」
声が震える。自分でも、自分が何を言ってるのかわからなくなる。
「背もちっさくて、声が小さくて……」
頭に焼きついた筈の、大切な人の輪郭だけを必死になぞり続ける。
目の前の“凛”は、無感動に瞬きもしない。
「で?」
その声には、怒気も哀しみも無い。
ただ、そこに居ることが当たり前である者の声だった。
「……ぁ、あ。ぅ、ちが、違うぅ……お前、は…凛じゃ…ない…」
喉がつまりそうで、声を絞り出す。
何を言っていたのかわからない。
泣きたい。
でも泣いてはいけない気がして、代わりに笑いそうになった。
「…ない?ちがう、ちがう?……違う?」
鋭く、整った顔立ちが一歩、こちらに滲む。
「でも、お前。俺のこと、凛って呼んでるだろ」
たしかにそうだ。昨日も、今日も。
小学生のころから、ずっと。
……あれ?
頭がふわふわしてくる。
茶色の髪って、誰のことを言ってたんだ。
目の前の凛が、苦笑する。
その顔がとても懐かしくて、涙がこぼれた。