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18.神殿4
「クラン!帰ってきたのね!」
巫女のフルーエが出迎えてくれた。
「ここ…わたくしの部屋よね?」
「そうよ。クランが『神々のいたずら』にあっちゃうものだから、1週間後の今日、ここでずっと待っていたの。」
「『神々のいたずら』?」
「そう、あなた、神々の楽園に行ってきたでしょう?」
「そうよ。」
「それを私たちは『神々のいたずら』と呼んでいるの。」
そうなのね。そういえば、1週間もあちらにいたんだもの。普通なら大事態だわ。
「どんな人がそれに遭うの?」
「優秀な人よ。」
「優秀?」
「そう、この前のあなたは、とても優秀だった。私は近くで見てたのに何も手を出せなかったもの。だから…あなたが羨ましかった。そんなふうに、役に立ったのだからそれはもう、優秀と神々に思われても仕方がないと思うわ。」
フルーエがわたくしを羨ましいと思った…
「クラン、呪いは何だった?」
「言えないわ。」
「そっか…普通はそうよね。じゃあいいわ。こっちであったことを説明するね。」
教えてもらったことはこんなことよ。
・孤児院を襲撃した人たちは皆無事に捕まった。
・わたくしはいたずらではなく、自分で一旦出ていったことになっている。
・公爵家には伝えていない。
「なぜ伝えなかったの?」
「ごめんね。クランは孤児のためにも頑張れる優しい女の子だから…いたずらに遭ったのがバレて、いいように使われるのを見たくなかったのよ。」
そこからはすこしショックのある話だった。
いたずらは神殿にいる時に起こりやすい。だから、いたずらはたいてい発覚する。そして、神殿は優秀な人材を見つけられる。そして、将来のその子を神殿に取り込んでいく…
「だから、クランがいたずらに遭ったっていうのがバレてほしくないの。」
フルーエが、わたくしのことを考えてやってくれたのが嬉しくて…頷いた。口裏を合わせることにした。
「ねえ、フルーエ。わたくし、孤児たちとの記憶を一旦消そうと思うの。今、話せることを話しましょう?」
「どうして…あぁ、そういうことね。いいわよ。」
神のお陰だと察してくれたみたい。
「彼らを、救えなかった。」
「私は、手を出すこともできなかった。」
「人を傷つける覚悟がなかった。」
「実力がなかった。」
ひたすらフルーエと懺悔し合い、孤児たちとの思い出を語り合い。日暮れ近くまで経っていた。そして、忘れたい、そう願った。
「クラン・ヒマリア。ただ今戻りましたわ。お騒がせさせてしまい、申し訳ありません。」
神官長に挨拶をしにいった。
「いや、無事に帰ってきたのならいい。それよりも、そなたは襲撃から孤児を守ってくれたのだな。」
「はい。」
「ありがとう。」
「え?」
神官長が、ありがとう?誰も手伝いにこなかったのに!?
「光栄です。」
「孤児は、孤独だ。」
「はい。」
「そなたが、孤児の心の支えとなってくれて、救ってくれて、本当に嬉しかった。今回のことは、こちらの非が大きい。これからは、これを改善していこうと思う。」
そうか…これからは神官長がやってくれるんだ…安心だ。
安心?何に対して?わたくしは、何を今思ったのだろう?
「その瞳…すべてを吹っ切った目だ。ときにはそういうことも必要だ。よい、必要な時に、彼らのことを思い出してやれ。」
彼らって誰?神官長は何のことを言っているのかしら?
どんどん頭が混乱してくる。
「いや、すまない。いまのは忘れてくれ。」
「はい。」
言われなくても…あんなよく分からないもの、覚えていれるわけがないわ。
「これからは、そなたの神殿からの外出を、制限する。代わりに、習いたいものがあったら、言うが良い。教えてやろう。」
「口を挟むことをお許しください。先ほど、彼女は剣も魔術も強くなりたいと申しておりました。そのこともぜひ頭の中に入れておいてください。」
「良かろう。」
フルーエは一体何の会話をしているの?わたくしが剣も魔術も強くなりたい。などと、いつ言ったのでしょう?
しかし、思い当たるフシはなかったが、心が、確かに習いたいと言っているような気がした。
「よろしくお願いします。」
「いい顔じゃ。その決意を忘れるでない。」
神殿での生活は、わたくしだけ変わった。
剣術も魔術も習い、暇なときにはいろんなことを教えてもらった。
そして、あっという間に神殿からでる日が来た。
「今まで、本当にありがとうございました!」
感謝のこととともに、わたくしは神殿を去った。
また、神殿に寄ることを誓って。
ここまでが神殿の思い出です。如何でしたでしょうか?
面白いと思っていただければ幸いです。