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こぐまとメイ はじめてのおつかい
今度は二人のお話です
冬の厳しい寒さが和らぎ、森に柔らかい光が差し込むようになりました。巣穴の中では、こぐまとメイが、お母さんクマが作るおいしいベリージャムの香りに包まれていました。メイはもうしっかり歩けるようになり、好奇心旺盛な小さな冒険家になっていました。
「こぐま、メイ、ちょっとお願いがあるのだけど。」お母さんクマが優しく言いました。「森の向こうにある、リスさんのパン屋さんまで行って、焼きたてのパンを買ってきてくれるかしら? お金は、この袋に入ったとっておきのドングリよ。」
こぐまは目を輝かせました。「僕とメイだけで?!」初めてのお使いに、こぐまは胸を躍らせました。メイも、こぐまの言葉に合わせるように「わーいわーい!」と嬉しそうに手を叩きました。
お父さんクマが地図を広げて言いました。「道は一本道だ。途中に大きな切り株があるから、それを目印にすれば迷わないだろう。」
「気をつけて行ってらっしゃいね。」お母さんクマが温かいハグをしてくれました。
二匹は、ドングリの入った小さな袋を手に、巣穴を出発しました。春の森は、芽吹き始めた若葉の緑と、そこかしこに咲く小さな花の香りでいっぱいです。鳥たちが楽しそうにさえずり、冬の間眠っていた森が、息を吹き返したようでした。
「にいに、あれ、きれい!」メイが指差したのは、キラキラと光る朝露をまとったクモの巣でした。こぐまは、メイの小さな手を引いて、ゆっくりと森の中を進みます。
しばらく歩くと、大きな切り株が見えてきました。お父さんクマが言っていた目印です。こぐまは「よし、この道で合ってるね」と安心しました。その時、メイが突然、道の脇にある小さな木の陰を指差しました。
「わあ、だれかいる!」
そこには、リスの女の子が、寂しそうに地面に座り込んでいました。どうやら、お母さんとはぐれてしまったようです。メイは、心配そうな顔でそのリスの女の子を見ています。こぐまは、すぐに駆け寄りたい気持ちを抑え、少し離れたところからリスの女の子に声をかけました。
「どうしたの? 迷子になっちゃったの?」
リスの女の子は、小さな体を震わせながら、か細い声で「うん…お母さんがいないの…」と答えました。こぐまは考えました。こんなに小さな子が一人では危ない。
「大丈夫だよ。僕たちが、お母さんを探すのを手伝ってあげるからね。お父さんとお母さんに、困っている子を見たら助けてあげなさいって教わったんだ。」
こぐまは、リスの女の子のそばに寄り添うように立ち止まり、メイに「メイ、ここで一緒に待っていようね」と言いました。しばらくすると、慌てた様子のリスのお母さんが、二匹の姿を見つけて駆け寄ってきました。
「ああ、よかった! 無事だったのね!」
リスのお母さんは、こぐまに深々と頭を下げました。「助けてくれて、本当にありがとう。あなたたちがいてくれて、どれほど心強かったか…。」
こぐまは照れくさそうに笑いました。リスの親子を見送ってから、こぐまとメイは再び歩き始めました。道中、川のせせらぎに耳を傾けたり、珍しいキノコを見つけたり、二匹は森の中での新しい発見に夢中になりました。
やがて、遠くから香ばしいパンの匂いがしてきました。リスさんのパン屋さんから漂ってくる、焼きたてのパンの香りです。
「にいに、もうすぐ!」メイが嬉しそうに駆け出しました。
リスさんのパン屋さんに着くと、リスさんがにこやかに迎えてくれました。「あらあら、こぐまくんとメイちゃん、ようこそ! 何のパンをお探しですか?」
こぐまは、ドングリの袋を差し出し、元気よく言いました。「お母さんからたのまれて、パンを買いに来ました! このドングリで買えますか?」
リスさんは、ドングリの袋を受け取ると、にこにこしながら言いました。「もちろんですよ! どれも焼きたてです。フワフワのハチミツパンがおすすめですよ。」
こぐまは、大きくて丸いハチミツパンを指さしました。リスさんは、そのパンを紙に包んでこぐまに手渡してくれました。パンはまだ温かく、持っているだけで幸せな気持ちになります。
「ありがとう、リスさん!」
帰り道、こぐまとメイは、焼きたてのパンを大事に抱えながら、来た道を戻ります。パンの甘い香りが、二匹の心をさらに満たします。
巣穴に戻ると、お母さんクマとお父さんクマが、心配そうに待っていました。「ただいま!」こぐまが元気に声をかけると、二匹は駆け寄ってきて、パンを見て安心しました。
「よくやったわね、こぐま、メイ!」お母さんクマが二匹を抱きしめました。
初めてのお使いは、こぐまとメイにとって、森の新しい顔を発見し、ちょっぴりの勇気と、大きな達成感を味わう冒険になりました。そして、困っている仲間を助けるという、大切な経験もできました。温かいハチミツパンに、お母さんが作ったおいしいベリージャムをたっぷり塗って、家族みんなで分け合いながら、こぐまは、また一つ、お兄ちゃんとして成長した自分を感じるのでした。
読んでくれてありがとうございました
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