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解放
スカルペーレは、霜の降りた夜道を裸足で歩いていました。
サテンの上等な白いワンピースの丈が、やぶれて短くなっています。
誰もいない、真暗な街路に、音もなくスカルペーレの白い足があとを残していきます。
スカルペーレはわらっていました。
誰もいないのに、何も起こらないこの道にわらっていました。
スカルペーレの右膝は、ほの赤い左膝に比べ赤ぐろくなっていました。
季節はずれの蛙が、右膝にとまりました。
スカルペーレは嫌そうな顔をしながら、重い金属の輪がついた右手でそれをはらいました。
後ろから足音が聞こえてきました。
スカルペーレはひどく驚き、慄きました。
振り返ってもだれもいません。
スカルペーレは胸をなでおろし、また笑顔になって歩きました。
やはり足音が聞こえます。
スカルペーレはもう一度振り返りました。
そこにいたのは、孔雀でした。
そこに雄がいなければくじゃくと分からない、地味な雌の孔雀が、スカルペーレを見ていました。
スカルペーレは安堵と少しの怒りをおぼえました。
「そこでなにをしているの。」
スカルペーレは問いました。
「いいえ、なんにも。」
雌の孔雀は答えました。
「あなた…あしが、ないわ。」
「知っている。片方あれば充分よ。」
「そうね。」
雄の孔雀はこちらを一度も見ません。
「雄の孔雀さん、」
「クオよ。あたしはヴォックス。」
「クオ。あなたはなにをしているの。」
クオは答えませんでした。
長い胴を横に揺らしながら街路を横切り、隅の方でじっとします。
「ヴォックス。」
「なぁに。」
「あなたは生きているの。」
「もちろん。」
スカルペーレは安心し、しゃがみこみました。
「あなたはどこからきたの。」
「私は、とおくから。ヴォックスは。」
「あたしはヒトから逃げてきた。」
「へえ。わたしもおなじ。クオも同じとこから来たの。」
「いいえ。クオはおそらから。」
「ふうん。」
天使さまがクオを運ばれてきたのよ。
ヴォックスはクオのことを預かっているだけらしいのです。
「じゃあ、ヴォックス。あなたはこれからどこへ行くの。」
「あたしは川へ。」
「川は氷が張っているわ。とても冷たいし。」
「あたしはクオと一緒になりたいわ。」
「そう。」
スカルペーレはヴォックスについていくことにしました。
ヴォックスが片足で器用に歩くうしろを、スカルペーレは右膝をさすりついていきました。
クオはいつのまにかどこかへ行っていました。
濃い霧の中に入りました。
スカルペーレはヴォックスを急かしました。
「夜明けが近づいているわ。急いで。」
「そう急かさないで。どうして夜明けを嫌がるの。」
「ばけものがくるわ。」
「ええ、そうね。」
ヴォックスは早足にぴょんぴょん飛びました。
ミャオォ、ミャオォ。
猫のような鳴き声が聞こえました。
ヴォックスは気にも留めません。
スカルペーレには不気味な感じがしました。
霧を抜けました。
抜けた途端、街路をブオンと車が通りました。
スカルペーレは、前を歩いていたヴォックスを見失いました。
ミャオォ、ミャオォ。
また聞こえました。
「ヴォックス。」
返事がありません。
鳴き声はどんどん近づいてきます。
ミャオォ、ミャオォ。
鳴き声はどんどん大きくなってきます。
ミャオォ、ミャオォ。
「いや。」
スカルペーレは、こわくなって耳を塞ぎ蹲りました。
ギッと音がしたかと思うと、明るいひかりが目の前にとまりました。
真っ黒の車が、スカルペーレの目の前にいたのです。
日はもう出ていました。
「さあおいで。」
車からでてきた黒のタキシードの男が、手を伸べました。
スカルペーレは目を見開き、後ずさりました。
「いや。いや。」
目の前に、雌くじゃくが現れました。
きっとヴォックスです。
「ヴォックス。」
「ミャオォ、ミャオォ。」
ヴォックスはしゃべりませんでした。
あの鳴き声で鳴きました。
「ヴォックスの声だったの。」
ヴォックスの残っていた足は、もう血まみれになっていました。
朝日の光に照らされて、ヴォックスの抉れた胴がぎらぎら光っていました。
「どけ。この鳥め。」
タキシードの男が声をあららげました。
ヴォックスは蹴り飛ばされました。
「ああ、ヴォックス。」
ヴォックスは宙を舞い、街路の先の橋に身を打ちつけ、凍った川の水面に飛び込みました。
薄氷は割れ、ヴォックスは川に沈みました。
「たすけて。」
スカルペーレは、味方をなくしました。
「おいで。」
タキシードの男が迫ります。
すると、川から白く光るなにかがのぼりました。
それは青い光を帯び、こちらへ近づくようでした。
光はだんだんと彩りをまし、雄の孔雀のかたちをしはじめました。
「ああ、クオなの。」
美しい羽を広げたクオが、街路に降り立ちました。
クオは大きな声でミャオと鳴くと、足でタキシードの男を押しました。
男は倒れこみ、その上にクオが乗り、嘴で男ののどをさしました。
男は堪らなくなって、車に乗って逃げだしました。
「ああ、クオ。どうもありがとう。」
スカルペーレの右腕についていた重い金属の輪は、いつのまにか外れかけていました。
スカルペーレは丁寧にその輪をはずし、大きく伸びをしました。
「クオ、あなたは天使さまに連れられてきたんでしょう。」
クオはなにも言いません。
「私も連れて行って呉れはしないかしら。」
クオはなにも言わず、川の方へ歩いていきました。
「クオ、ヴォックスはどこ。」
クオはふりかえって、川の方を一度見て、またふりかえり、次は上を見て、そして前を見て歩きはじめました。
川から空へのぼっていると言っているかのようでした。
一瞬、霧がスカルペーレの視界を覆ったかと思うと、それが晴れたら、クオは一筋の光になり天へ伸びていきました。
スカルペーレは、
「まって。」
と、光に触れました。
太陽の光よりも眩しい青白の光が、スカルペーレの小さな体をつつみ、スカルペーレは光へ溶け、上へ上へのぼっていきました。
光の筋が消えた頃、殺風景な街路に、花が咲きました。
ほかにはなにもありませんでした。
多分わけわかんないと思うけど、あとから解説的な日記だか小説だか出すので、それ見てください笑笑
ちなみに登場人物の名前はラテン語です。
スカルペーレ▶scalpere
ヴォックス▶vox
クオ▶cor
気になる人は翻訳かけてみてください🤝🏻
宮沢賢治テイストで書いてみました🫣💕